紅ショウガ天の歴史を紐解きながら実食「名代 富士そば」の紅生姜天そば【市ケ谷】

蕎麦スス流 SOBA Su Su Ryu

Vol.98

市ヶ谷
名代 富士そば

紅生姜天そば 540円

市ヶ谷 名代 富士そば 紅生姜天そば

近所のスーパーにて、保存食品の棚で面白そうなものを発見した。ひときわ目立つ赤系パッケージで「どん兵衛、紅生姜天そば」とある。赤鬼のイラストと相まった「紅」の強調された意匠に心惹かれた。つい最近発売された新商品らしい。こうやって全国的ブランドのカップ麺の世界にまで「紅ショウガ天ぷら」が進出してきたとは、長年の紅ショ愛好者としては感無量だ。

紅生姜天そば どん兵衛

「紅ショウガ天ぷら」といえば、今や立ち食いそばのネタとしてすっかり定着した人気者であり、B級グルメ感にあふれた愛されキャラであるが、実はそもそもそれほど古いものではない。路麺の世界ではどちらかといえば新顔で、かき揚げ天やコロッケのような大定番ではないが、この10〜20年ほどでコアなファンは着実に増えているはず。ファンの贔屓目としては一層の発展を願ってやまないものがある。

では、「紅ショウガ天ぷら」はいったいどのように広まってきたのか。その歴史を拙ブログから紐解いてみたい。まずは2009年8月にこのようなことを記している。

紅生姜天そば かずみ

「かずみ 京急大師線・川崎大師駅 三色そば。三色の意味は、紅ショウガの赤、ネギの緑、そばの白。ここからついたのではないかと推測します。関西では有名な紅ショウガ天ぷらですが、川崎のこのあたりにはこれを売り物にする店がちらほらある。なかでもかずみがその代表格。」

15年前の当時、まだ首都圏では珍しかった様子が記されている。紅ショウガとあえて名乗らないところからは、それほど有名でない食べ物であったこともうかがえる。写真からは紅色はさほど強くないことがわかる。まさに黎明期の姿だ。

次いで2年後、2011年の記事。

紅生姜天そば だし家

「だし家 旗の台 しょうが天そば。駅改札を出た正面、踏切のすぐ近く。ここの名物は紅生姜の天ぷら。関西ではよくあるそうですが、東京ではそれほどみかけないメニュー。味もさることながら見た目が紅色できれいなのがいいですね。」

品名には「しょうが天」とあり、この当時にも呼称が定まっていないことがわかる。また配分は控えめで、ショウガ味のジャンクさを売り物にしたものではなく、どちらかといえばさっぱりとした味わいであった。

さらに2014年の記事にはこうある。

紅生姜天そば 大和屋

「大和屋 中延 紅生姜天そば。紅生姜天は甘辛く濃いつゆにこそベストマッチ、と思いきや。ここのようなさほど濃くないつゆでもうまい。これはつゆがというよりも、大和屋の天ぷらがうまいからだと思う。ふんわりした味のよいコロモ。このコロモを食べたくて大和屋に来る、といっても過言でない。」

だし家のものよりはいくぶんか増えてはいるものの、近年の「紅ショウガ天ぷら」と比べると赤さの比率はまだ少なく控えめ。コロモに埋もれるくらいの配合。しかしこれでも当時としてはジャンクさを発揮していたことは記憶に残っている。

そしてこれが近年のもの。富士そばというメジャーなチェーン店も大きく取り扱うようになっている。筆者は2013年頃に六本木店で食べた記憶にあるが、今回の味には一段の進化があった。

紅生姜天そば 富士そば

■そば:生めん茹でたて。注文の都度茹でてくれるのがうれしい。安定したうまさのある味。
■つゆ:鰹節の香るだし、上品めなカエシ。ごくごく飲める。毎日食べても飽きのこない完成された味。

紅生姜天そば 富士そば

まずその姿は実に赤い。紅ショウガの密度は高く、かつコロモもほんのり紅色だ。この2点において大きな進展があると言えよう。まず第一に紅ショウガはもはやコロモの混ぜ物ではなく、表面全体に露出し主張する存在ということ。

市ヶ谷 名代 富士そば

そして、コロモについては、おそらく小麦粉を水で溶くときに紅の漬け汁を配合しているのだろう。パンチの効いた風味の源泉をそのまま利用している。あのスパイシーなB級風味を活用しない手はない。実に素晴らしい発想だ。

そういえば、どん兵衛の天ぷらも全体的にうっすら赤く染まっている。ここに至って「紅ショウガ天の姿は完成の域に達した」といえるのではないだろうか。誰もが思い描く紅ショウガ天のカタチとして食文化に共有されてきたのである。

市ヶ谷 名代 富士そば

ちなみに筆者は富士そばはかなり好きなほう。よく行くのは六本木店、恵比寿店など、仕事の都合で近くを訪れる駅でわりと頻繁に利用する。立地の良さもさることながら、常に改良を続ける味の進化にはいつも感心し、大いに驚かされている。また、店舗や時間帯によらず安定した品質で提供されるのは流石だ。

■DATA
住所:東京都新宿区市谷八幡町1 新高ビル 1F
アクセス:JR中央線市ケ谷駅 徒歩2分
営業時間:24時間営業
定休日:無休
評価:2点 ☆☆

※本記事は取材当時の情報です(取材日:2023/12/14)

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写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。

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