特集・連載
【蕎麦スス流】Vol.92〜全国制覇!? 日本の立ち食いそば〜
繁華街で楽しめる打ち立て・茹でたての十割そば!「嵯峨谷」の鴨せいろ【渋谷】
蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~ 世界の蕎麦好きのみなさん、コンニチハ! ラーメンと比べて世界的には地味な存在ですが、移動中にサッと寄れて、お腹もコスパも大満足。そんな立ち食い蕎麦は江戸時代からあるニッポンが誇るべきカルチャーなんです。なにかと“東京”も注目されることですしね。ってことで、日頃のランチに観光に、世界中の人にぜひ立ち寄ってほしい蕎麦店を厳選しました。恥ずかしがらないで音を立ててソバをススろう! この記事は特集・連載「蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~」#92です。
Vol.92
渋谷嵯峨谷(さがたに)
鴨せいろ(温汁)、あじ御飯(小)
600円+250円
立ち食いそばの味の秘訣はなんといってもつゆにある。ほとんどのお店で、つゆは自家製だ。香りと旨味の凝縮されたダシに醤油とみりんのきいたカエシの配合はそれぞれお店の秘伝ともいえ、じつに個性豊かだ。一方、天ぷらは脇役の位置にあり、千差万別なキャラクターが売り物。
そして、主役のつゆと脇役の天ぷらに挟まれた位置にあって、そばの存在感はやや薄い。本来なら主役なのだが立ち食いそば的にはそうならないのは「ゆでめん」による調理時間短縮こそが業態成立に不可欠であったからだろう。
ゆでめんにはもちろん短所もあって、それは蕎麦ならではの香りや食感に乏しいこと。まあ、そもそもが手打ち蕎麦とはまったく異なる料理なのだからそこを嘆く必要はないし、むしろゆでめんならではのうまさを追求してきた姿勢こそがファンを生んだといえる。
さて、そういった立ち食いそばの歴史に大変革があったのは2010年頃であろうか。赤坂「いわもとQ」、渋谷「信州屋」、五反田「ことぶき」といった店のそばは従来のゆでめん・生めん・冷凍めんのどれとも異なるものだった。いわゆる「打ち立て・茹でたて」の調理法を取り入れており、蕎麦の香りと食感に驚いた路麺ファンによって評判は瞬く間に広まった。
今回訪問する「嵯峨谷」もそういったお店のひとつ。渋谷・池袋・秋葉原などの繁華街にあり、無休・24時間営業(開業当時)。店内での石臼製粉による蕎麦粉を使ったつなぎなしのいわゆる「十割そば」であり、しかも比較的安価であるなど、それまでの立ち食いそばの常識をことごとく覆して注目を集めたお店だ。ちなみに24時間営業はしばらくしてとりやめている。
路麺らしからぬ本格的なメニューの鴨せいろ、あじ御飯(小)をいただいてみよう。
■つゆ:だしよく、甘め濃いめのきりっとした温つけ汁。そばと相性良い。
■タネ:旨味の濃い鴨肉。やや厚めのスライスを三枚。ネギとともにいただくと良いバランス。
打ち立て・茹でたての秘密を垣間見ることができた。店員さんの肩越しに見える筒状の機械がそう。こねられた生地をここに入れ、ハンドルに力をかけてグニューと絞り出すのだ。ところてんの要領といえばよいだろうか。
押し出された蕎麦はそのまま真下の茹で釜に落とし入れられ、グラグラと沸騰したお湯で茹でられるという寸法。人力の介在は極小。「捏ね」「延し」「包丁切り」といった手打ちの難しい工程は不要だ。専門の職人さんなしで無休営業や多店舗展開も可能になる。
とはいえ「手打ち蕎麦」とは似て非なるものであるのは間違いない。麺棒で圧延しないためか、箸でつまむとちぎれやすい。ツルツル感にやや欠ける。ではあるが、値段と味からすれば十分に納得できるものだろう。ちなみに「かけ」の温汁に浸すとさらにちぎれがちなので、このような「もり」でいただくのがうまい。
あじご飯もいただいてみた。あじを焼いてほぐした身をご飯の上にのせたもの。旨味の濃いあじとご飯の相性はじつによく、バクバクと勢いよく平らげてしまう。見栄えは地味であるが食べればわかる実力の持ち主だ。
最後にもうひとつ。このお店ならではの新しい試みが月額サブスクリプション。定額の先払いで大盛りやオプションの追加を無制限に可能とするサービスだ。これはほんとにお得だと思う。頻繁に渋谷や池袋へ行く機会ができたら筆者もぜひ購入したい。むしろここまでやって大丈夫なのか心配になる。とどまることのないチャレンジ精神に脱帽だ。
住所:東京都渋谷区道玄坂2-25-7 プラザ道玄坂 1F
アクセス:JR山手線・埼京線渋谷駅ハチ公口 徒歩6分
営業時間:7:00-22:00
定休日: 不定休(年始)
評価:3点 ☆☆☆
※本記事は取材当時の情報です(取材日:2023/3/7)
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写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。