特集・連載
【蕎麦スス流】Vol.78〜全国制覇!? 日本の立ち食いそば〜
洋食屋風の本格カレーが人気。きぬそばの「カツそば+ミニカレーライス」【末広町】
蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~ 世界の蕎麦好きのみなさん、コンニチハ! ラーメンと比べて世界的には地味な存在ですが、移動中にサッと寄れて、お腹もコスパも大満足。そんな立ち食い蕎麦は江戸時代からあるニッポンが誇るべきカルチャーなんです。なにかと“東京”も注目されることですしね。ってことで、日頃のランチに観光に、世界中の人にぜひ立ち寄ってほしい蕎麦店を厳選しました。恥ずかしがらないで音を立ててソバをススろう! この記事は特集・連載「蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~」#78です。
Vol.78
末広町きぬそば
カツそば+ミニカレーライス
500円+350円
立ち食いそばと切っても切れないのが「サイドメニュー」。ちょっと腹ヘリなとき、どんぶり一杯のそばだけではどうしてもお腹が満たされない。あるいは立ち食いそばが大好きで毎日そばでもいいのだが、たまには別のものを食べてみたくなったとき。もしくは職場の最寄り飲食店が立ち食いそば屋しかなく、手近で済ませたいがそば以外のものが食べたいとき、など。
ランチタイム前になると必ずやってくる葛藤は路麺ファンならずとも、どなたにもあるだろう。しかし心配ご無用。こういった悩みをたちどころに解決してくれるありがたい味方が「サイドメニュー」。
立ち食いそば屋でサイドメニューの定番といえば、代表格はおむすび、稲荷寿司。お店によってはカレーライス、カツ丼、天丼、といった手のかかった品もある。たいていはご飯もので、そばと相性の良い料理が好まれているように思う。
さて、今回ご紹介する地下鉄銀座線の末広町駅から少し歩いた角地に立つ「きぬそば」こそ、ランチタイム前の葛藤を見事に断ち切ってくれるお店の代表格といえよう。
自家製の天ぷらとそばはもちろんうまいのであるが、それにも増してうまいのがカレーライス。とくにカツカレーはお店の看板に大きく書かれているとおり自慢の一品だ。これでもう我々は悩むことはない。そばとカレーの両方を注文すればよいのだから。
今回はカツカレーと同じカツを乗せたそばに、ミニカレーを合わせていただいてみた。カツそばは表のメニューにこそ書かれていないが、この店の定番メニュー。
■つゆ:昆布と魚介でとったマイルドなダシ。カエシはあっさりめで甘さ控えめ。
■カツ:脂肪少なめでさらっとした味わい。豚肉の旨味あり。カツの下にちょっときつねが乗っているのは、ご主人のサービス精神のあらわれ。
きぬそばのカレーはマイルドでデミグラス風の味わい。和式カレーともインドカレーとも違う、どことなく懐かしい「洋食屋のカレー」なのだ。ひとくち食べればまったりとデラックスな、家庭では出せない深い風味が広がる。奥に潜んだスパイシーさが味を複雑にしてくれる。ああ、もうこれはサイドメニューの域をはるかに超えている。カレー屋としても十分に勝負できるレベルだ。
そして、さりげなくうまいのがカツ。脂分の少なめな豚肉を薄目のコロモでさくっと揚げており、スプーンや箸ですっと切れる、口に入れれば豚肉の柔らかな旨味が広がる。どちらかといえばあっさりめのカツだが、このあっさりさがそばのつゆと抜群のハーモニー。しかもそばだけでなく、ご飯やカレーソースとも驚くほどよく合う。とんかつ単品料理としてではなく、そばやカレーのトッピングのために考え抜かれて作られたカツといえる。
いやはやすごい味だと感心したが、それもそのはず。きぬそばのご主人、そもそもはカツカレーで有名な洋食店「キッチン南海」の神保町店で修行され、伝え聞くところによれば、現在のきぬそばの店舗は南海の支店として洋食屋を営んでいた時期もあるという。なるほど、洋食のご経験あればこそのカレーであり、カツであったか。南海のカツカレー大好きな筆者としてはうれしい邂逅である。
また、カレーとそばつゆの相性の良さにも目をみはるものがある。ややあっさりめの味付けのつゆは、それ単体ではパッとしないところもあるのだが、これがカレーと組み合わさるや最強の相棒となる。
濃厚なカレーを食べたあとに、スープの要領でそばつゆをぐっと飲むと、口中のスパイシーさがすっとリセットされ、そばをずずっとすすりたい気持ちが湧いてくる。そしていつかまたカレーへ戻りたくなる。というサイクルが自然とできあがってくるのだ。なんともうまい塩梅の連結効果がそばつゆにある。
筆者はカツそばのカツを途中でカレーに移動して食べることにしている。こうすればカツカレーとカツそばをダブルで楽しめるというもの。ランチタイムのつかのまの幸福だ。
カツ以外の天ぷら類もすべて自家製で、どれもうまい。種類豊富で毎回食べても飽きない良さがある。そして忘れてはならないのは、ご主人の軽妙さで、きぬそばの重要な持ち味のひとつ。食べ終わってごちそうさまと挨拶すれば、すかさず「ありゃっとねーー」と独特な調子の返事が返ってきて、思わずずっこけそうになる。
住所:東京都千代田区外神田6-10-11
アクセス:東京メトロ銀座線 末広町駅 徒歩2分
営業時間:7:30~17:30
定休日:土日祝
評価:3点 ☆☆☆
※本記事は、2021年11月20日取材当時の情報です。
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情報提供・監修/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。