特集・連載
Stand-in Soba (Noodle) Lovers!! Vol.59
桜海老の香りと甘味が口いっぱいに広がる柳屋の「桜海老かき揚げそば」【全国制覇!? 日本の立ち食いそば】
蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~ 世界の蕎麦好きのみなさん、コンニチハ! ラーメンと比べて世界的には地味な存在ですが、移動中にサッと寄れて、お腹もコスパも大満足。そんな立ち食い蕎麦は江戸時代からあるニッポンが誇るべきカルチャーなんです。なにかと“東京”も注目されることですしね。ってことで、日頃のランチに観光に、世界中の人にぜひ立ち寄ってほしい蕎麦店を厳選しました。恥ずかしがらないで音を立ててソバをススろう! この記事は特集・連載「蕎麦スス流~SOBA SuSu Ryu~」#59です。
Vol.59
笹塚 Sasazuka柳屋
“Yanagiya”
桜海老かき揚げそば
480円
Sakura Shrimp Kakiage(※1) Soba – 480 Yen
京王線・笹塚駅北口、甲州街道から脇に伸びる通称10号通り商店街。その入り口から少し入った右手にある。
柳屋の特徴は濃いつゆ。黄色看板系にもけっして負けない。いやむしろ勝っているとすら言える。渋谷区で孤高の染り系(※A)路麺だ。では、なにゆえ笹塚の地にかような本格的ディープ路麺があるのか、それが本日のテーマ。
路麺ファンならご存知の通り、東京の隅田川界隈には濃いつゆの立ち食い蕎麦屋が数多く存在する。由来については諸説存在するが、濃い味を好む客が多くいたからであることは間違いないだろう。そしてそれらの店に共通するのは茹で麺を使用すること、それから天ぷらタネの種類が豊富なこと。しかしその他の地域にはそれほどみられない。ある意味、ご当地名物的な料理とも言える。
■蕎麦:やや細めの茹で麺。茶色っぽくてわずかに茸様香(※B)あり。
■つゆ:ダシよし。鯖節のガツンとした酸味とコクあり。カエシすごく濃くてやや甘い。薄茶色の蕎麦が醤油色に染まる。
■天ぷら:桜海老天ぷら、揚げ置き。桜海老の香りと甘味が口一杯にホワーンと広がる。
■Soup: Has nice dashi(※4). With strong punch of sourness from Katsuobushi with nice rich taste. Kaeshi(※5) is strong, with slight sweetness. The light brown colored noodle turns into darker color by the soup.
■Tempura: Sakura shrimp tempura, already made. The fragrance and the sweetness of the Sakura shrimp will fill your mouth once you have a bite.
注文するとすぐにできあがるのは茹で麺の美点。さっそくズルズルとすする。つゆといい蕎麦といい、強烈な個性。天ぷらも素晴らしい。桜海老の甘みがジワーっと出る。私は静岡人なので桜海老天には目がない。
漆黒のつゆ、暗黒のつゆ。透明度はわずか麺の数本分しかない。下の写真でおわかりかと思うが、蕎麦がつゆの色に染まっている。染色力の強さでは敵うものなし。
揚げ物は、桜海老、アジ、ゲソ、ごぼう、ソーセージ、かぼちゃ、サツマイモ、ジャガイモ、春菊、茄子、きのこ、ちくわなど。桜海老の他にはジャガイモ天ぷらがおすすめ。立ち食いに限らず蕎麦屋ではちょっと珍しいキーマカレーそばもあり、スパイシーでうまいです。
揚げ油は良質の植物油、ダシは天然の鰹節・鯖節・昆布を使用と張り紙あり。
妙齢の女性二人できりもりしてる。仕事の手がすくとテレビを見て笑ってたりと脱力的ではあるが、むしろこの普通感がいい。友人の家で飯食ってるみたいな雰囲気でくつろげる。
幸運なことに、美人の女将さんにお店の由来についてお話しを伺うことができた。40年前に先代が独学で立ち食い蕎麦屋を始めたとのことで、どこかの店の支店というわけではなく、独立独歩のオリジナルの味だそうだ。
六文の影響はあるのかと訊ねると、「そちらでは食べたことないのでよく知らないです。父の味を守り続けてます。ダシをきちんととるのが秘訣。色は濃いけどそれほどしょっぱくもないと思うんです。」と姿勢良くにこやかに語るお顔には、朗らかなお人柄があらわれる。
柳屋の先代は、おそらくあちこちの立ち食い蕎麦を食べ歩いて研究されたに違いない。食べ歩いた先には隅田川界隈の濃いつゆのお店があったであろうとわたしは想像する。そして、こんにちの路麺ファンがそうであるように、濃いつゆと茹で麺とお好み天ぷらの味のとりこになってしまった、それを研究し、工夫して独力で作り上げた、という背景がおぼろげに浮かんでくる。
柳屋はうまい立ち食い蕎麦屋であるとともに、一級の路麺ファンでもあった、と言えるのじゃないだろうか。それが今でも愛される続ける所以なのだ。
笹塚に個性的な立ち食いそば屋あり。長く営業し続けられることを願います。
(※A)「染り系(そまりけい)」
つゆの濃い醤油色に丼内の蕎麦が染まり、濃い茶色に変色する様、もしくはそれを特徴とする立ち食いそば屋を指す言葉。立ち食いそばファンが濃いつゆを愛して使う表現である。ケビンの造語ではない。
(※B)「茸様香(たけようこう)」
蕎麦粉の持つ独特な香りを表す言葉。生のキノコのようなふんわりした甘い香りと、穀物のような土臭い野趣ある香りの渾然一体となった状態をいう。ケビンの造語である。
■DATA
東京都渋谷区笹塚2-11-4
京王線・笹塚駅 北口より徒歩3分
営 6:30〜15:30
休 土日祝
評価は3点 ☆☆☆
Address: Tokyo-to Shibuya-ku Sasazuka 2-11-4
Access: 3 min walk from Keio line Sasazuka station North Exit
Open Hours: 6:30 – 15:30
Closed on Saturdays, Sundays, and Holidays
Grade: A Three-Star Sobaya
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(※2)Style of soba where the noodles are dyed in the color of the soy-sauce based soup. A phrase used by the soba noodle fans who loves the strong soup-based soba.
(※3)A peculiar fragrance of soba noodle flour. Combination of soft smell of mushrooms and dirt like smell of the grains. A made-up word by Kevin.
(※4)Soup broth mainly made with Katsuobushi (Bonito flakes).
Katsuobushi is dried, fermented, and smoked skipjack tuna.
(※5)Soy-sauce based soup.
情報提供・監修/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食い蕎麦店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食い蕎麦チェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。