【蕎麦スス流】Vol.96〜全国制覇!? 日本の立ち食いそば〜
待望の営業再開「川村屋」のいか天そば&あじ天【横浜】
Vol.96
横浜市桜木町
川村屋
いか天そば+あじ天
500円+200円
JR桜木町駅について語るとき忘れてならないのは、かつてこの駅は初代「横浜駅」であったこと。明治5年(1872年)の汽笛一声で新橋を発った蒸気列車の終点はこちらであった。外国人居留地に近いこと、海運との連絡のよいことなどの条件から選定された立地。ちなみに現在の横浜駅は昭和3年に開業した三代目である。
明治33年(1900年)、まだ横浜駅であったころの桜木町駅に開業したのが今回訪問する川村屋。母体となったのは横浜・関内にあった料亭「富貴楼」で、政財界の要人を顧客にもち、そのひとりである伊藤博文の口利きによって横浜駅構内での営業許可を得たという。開業当初は西洋料理のレストランであった。のちに蕎麦も扱うことになり、昭和44年(1969年)には立ち食いそば屋を始めた。
ちなみに桜木町駅は何度か移設・改修されている。平成元年(1989年)の新駅舎開業に伴う移転の際に、レストランは廃止され川村屋は蕎麦専業となる。駅改札口正面で長らく立ち食いそばを営業していた姿を覚えている方もいるに違いない。この当時は窓のないやや薄暗い店舗で、それがまた独特の雰囲気を醸し出していた。
平成26年(2014年)には駅舎改修にともない、改札横手の停車場ビュッフェに移転。明るく開放的でおしゃれないでたちとなる。123年の長い歴史を経て、まさに駅とともに歩み、運命をともにしてきたお店といえるのではないだろうか。
最近の大きな話題は2023年3月。6代目にあたるご店主夫妻は高齢を理由として長年続いたお店の廃業を決めることとなった。多くのファンから惜しむ声が聞かれたが、なんと嬉しいことにその数か月後、ご店主のご息女(次女)が7代目として店の承継を表明された。それまでの職を辞してお店を引き継ぎ、9月には営業再開となったのである。路麺ファンそろって感涙にむせんだのは言うまでもない。
店の継承にあたっては、先代のレシピをそのまま受け継ぐ方針のもと、従来のスタッフの多くが再結集して再開に臨んだとのこと。
■つゆ:本鰹節の香り。飲むと酸味とコクのある鯖節系の味。やや甘めで旨味のあるカエシ。飲みごたえのあるつゆ。
■てんぷら:コロモ厚めのボリューム感。コロモを食べる満足感あり。いか天は厚く長く、噛めばすっと切れる。あじ天は肉厚で旨味濃厚
まずひと口つゆを含んでみる。甘辛めのカエシ、それを支えるダシのよさ。ガツンとくる味わいは健在だ。そばのしっかりした風味も素晴らしい。川村屋ならではの味わいと食べごたえ感はまったく変わっていない。安堵とともに一心不乱にそばをすすり、つゆをゴクリと飲む。
周囲を見渡せば、まずは店員さんの元気な声がよく聞こえてくる。仕事の手を休めずに陽気な笑顔で仲間と談笑する姿には活気があって、店の雰囲気を盛り上げてくれる貴重な存在だ。
もうひとつ、川村屋といえば「テラス席」をはずすわけにはいかない。改札前の店舗から移転した際に出現した素敵な空間だ。停車場ビュッフェの整備とともにできた開放感あふれるスペース。「立ち食い+露天」の組み合わせは大人気で、みなさん我先にと丼を手に外へ出ていく。あいにく訪問時はすでに日没後しかもやや小雨であったが、迷わずに外に出て食べ始めるかたを見かけた。
港町・ヨコハマらしく、英語表記のメニューも健在。これからも長く続けていただけることを願うばかりだ。
住所:神奈川県横浜市中区桜木町1-1 桜木町駅
アクセス:JR根岸線 桜木町駅改札外
営業時間:7:30〜20:10、(日祝)8:30〜20:10
定休日:無休(年末年始は休業)
評価:3点 ☆☆☆
※本記事は取材当時の情報です(取材日:2023/10/9)
アプリ「蕎麦道なび」でも配信中! 「蕎麦道なび」のアプリはこちらからダウンロード!
※Google Android/iOS対応
写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。