「○八(まるはち)食堂」「鳥羽水族館」「山口屋」の伊勢うどん【三重】

蕎麦スス流 SOBA Su Su Ryu

Vol.98

三重(伊勢、鳥羽)
○八(まるはち)食堂、鳥羽水族館、山口屋

伊勢うどん
550円(○八食堂)、580円(鳥羽水族館)、1550円(山口屋)

三重 伊勢、鳥羽 
○八(まるはち)食堂、鳥羽水族館、山口屋 伊勢うどん

当連載は「蕎麦スス流」であるが、立ち食いそば屋で提供するものは分け隔てなく扱うことが理念である。稲荷寿司・おはぎ・カツ丼・モツ煮といったサイドメニューはもちろんのこと、メインである麺類においては蕎麦の良きライバルである「うどん」は欠かすことができない。ぜひ蕎麦とともにその魅力を味わってもらいたい。

「うどん」は驚くほどバリエーションが豊富で、蕎麦よりもその種類は多そうだ。ゆでめん・ソフト麺・細うどん・讃岐うどん・稲庭うどん・博多うどん・武蔵野うどん・きしめん・ひもかわなど多数ある。

全国各地にはそれぞれ個性的なご当地うどんが存在する。関東圏ではめったに見られないものの代表格といえば「伊勢うどん」だろう。ごく太のもちもちヤワヤワうどんに濃厚で甘辛いタレを絡めて食べる、個性の塊のような存在。しかも漏れ聞くところによれば、三重県の伊勢地方ではこれ以外のうどんの選択肢がなく、我々が常識として知っているうどんは彼の地ではごく少数派だというではないか。

そう知ると居ても立ってもいられず、伊勢を目指す取材の旅に発った。来てみると確かにその通りで、至る所で伊勢うどんに遭遇する。ここはひとつ手当たり次第、行き当たるままに食べてみよう。

まずはJR鳥羽駅ビルにある「○八(まるはち)食堂」。鳥羽に限らずだが、三重県中南部は昭和レトロ感にあふれた土地柄だ。建物や街並みは当時のものが今でも現役で使われていて、高層建築や大型看板の少ない広い空間にのんびりした空気が流れている。

伊勢うどん ○八(まるはち)食堂

このお店は刺身や海老フライがメインの食堂だが、もちろんメニューには伊勢うどん(卵入りを選択)がある。「よく混ぜて召し上がってくださいね。(うどんの)白いところがなくなるまで混ぜるとおいしいですよ」と店員さんから丁寧な説明あり。言われるままに、丼の底に溜まったタレをすくい上げるようによく混ぜる。すすってみると、ああ、ヤワヤワだ。

柔らかすぎて噛む必要がない、鰻のタレのように濃い甘辛タレに包まれたうどんはあっという間に胃袋に消えてしまった。うまい、これはうまいぞ。

伊勢うどん ○八(まるはち)食堂

次いで目指したのは鳥羽水族館内のファーストフードコーナー。アシカのショーの合間に休憩だ。焼きそば・たこ焼き・かき氷といったよくある売店。

伊勢うどん 鳥羽水族館

もちろんここにも当然のように伊勢うどんあり! 徐々に驚かなくなってきた。

伊勢うどん 鳥羽水族館

市販の茹でめんを温めて市販のタレをかけたものであろう。これもうまい。うまさの秘訣はタレにある、と理解してきた。この濃厚タレさえあれば即座に本格的な伊勢うどんができる。

早い・安い・うまい。お手頃な価格と相まって、まさに立ち食いそば感覚。

伊勢うどん 鳥羽水族館

最後は伊勢市、月夜見宮近くの山口屋。この場所に近年移転してきたばかりの真新しい店舗。伊勢うどんの専門店として有名で、自家製麺の茹でたてうどんを食べさせてくれる。極めつきの本格派といっていいだろう。

伊勢うどん 山口屋

名物「てこねずし」とセットの「郷土食膳」を選んでみた。熱々の茹でたてうどんからは小麦粉の旨味を存分に味わえる。

伊勢うどん 山口屋

コシのない柔らかさは小麦の風味を口の中いっぱいに広げてくれる。幸福感に満たされる瞬間だ。タレは特製の風味豊かなもので、複雑なダシの味わいは専門店ならでは。伊勢うどんの真髄に一歩近づけたように思える。実に素晴らしい一杯。

伊勢うどん 山口屋

お土産に、伊勢神宮内宮近くのおはらい町にて、伊勢では有名な「みなみ製麺」のタレを購入した。チルドの茹で麺は県内各地のスーパーで普通に売っているらしく、皆さんご自宅でも伊勢うどんを食べていらっしゃるようだ。

伊勢うどんのタレ

こうやってみると「食堂の伊勢うどん」「観光施設ファストフードの伊勢うどん」「専門店の伊勢うどん」「スーパーで買って自宅で伊勢うどん」と4つの類型が見られる。県内どこでも伊勢うどん。

ここはもはや「伊勢うどん独立王国」といって過言でない。そして三重県民の伊勢うどんへの深い愛情を感じたのである。

■DATA
【○八食堂】
住所:三重県鳥羽市鳥羽1丁目8-13 JR鳥羽駅名店街
アクセス:JR鳥羽駅ビル内
営業時間:11:00〜20:00
定休日:火曜、第2・4水曜
評価:3点 ☆☆☆
 
【鳥羽水族館】
住所:三重県鳥羽市鳥羽3-3-6
アクセス:JR・近鉄鳥羽駅、徒歩約10分
営業時間:9:00〜16:00(7/20~8/31の夏期:8:30~16:30)
定休日:無休
評価:3点 ☆☆☆
 
【山口屋】
住所:三重県伊勢市宮後1-4-23
アクセス:JR・近鉄鳥羽駅、徒歩約10分
営業時間:10:00〜15:00、16:00〜18:15
定休日:木曜、第1・3水曜
評価:3点 ☆☆☆

※本記事は取材当時の情報です(取材日:2023/12/01)

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写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。

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