【蕎麦スス流】Vol.95〜全国制覇!? 日本の立ち食いそば〜
「まる美(まるび)」のげそかき揚げそば&もりそば【矢口渡(やぐちのわたし)】
Vol.95
矢口渡(やぐちのわたし)
まる美(まるび)
げそかき揚げそば+ちくわ天+もりそば
400円+100円+300円
立ち食いそば屋に限らずだが、飲食店の淘汰は早い。馴染みの店が廃業してしまうのは寂しいものだ。良い立地で旨いそばを提供するにもかかわらず閉店してしまう背景には後継者難によるものが多くみられるようだ。高齢化は日本全国で進んでいるのだからしかたないのだが、じつにもったいないものを感じてしまう。
そういったなかにおいて、若いご主人による「新しい店ができた」とSNSなどで目にしたときの嬉しさは格別だ。ああよかった、路麺の灯火が消えずに残った、と心から安堵する。しかもうれしいのは、そのような新店のご主人はみなさんご商売に意欲的なことだ。新しく始めるからには頑張ろう、という意気込みが感じられる。
今回訪問する「まる美(まるび)」は、東京都大田区、東急多摩川線矢口渡駅からほど近い環八通り外回りに2021年に開業した新しいお店。開店当初からSNSなどで評判の良さを目にする。はやくもファン層をがっちり掴んだようで頼もしい。
「茹でたて、そば・うどん、自家製麺」の看板は、白を基調としたすっきりした印象。カウンターのみの小料理屋的な和風の店内は小綺麗で好印象だ。
■つゆ:節主体の香り良いだし、ほどほどな濃さで醤油の香ばしいカエシ。そばと相性良い。
■てんぷら:玉ねぎ主体のかき揚げにイカゲソの小口切りを散らしたげそかき揚げ。げその香りよし。歯ごたえよいちくわ天もうまい。
全体的なバランスに優れているといえばいいだろうか、とくにそば(麺)は細く長くツルツルとし、歯ざわりを残した絶妙な茹で加減。味わい深いつゆと相まった一杯は、そんじょそこらの町蕎麦屋を凌ぐといっても過言でない。うーん、うまい。新しいお店にしては驚くほどのうまさだ。
それもそのはず。というのも、ご主人からお話をうかがって納得した。このお店、そもそもの母体は製麺業なのだ。川向こうの川崎市川崎区で長らく営業していたという。近隣の蕎麦屋・ラーメン屋・小売店などに麺を販売する専門業者で、つまり麺づくりはプロ中のプロだ。手堅くうまいのはあたりまえともいえる。いまでは麺の外販はしていないが、その代わりに「朝一番で自分のところ(まる美)用にそばを製麺して川崎から持ってくるんですよ」とのこと。なるほど、製麺装置一式はいまでも現役だ。
そばのうまさを感じるには、温かい品もいいが「もり」でいただくのもいい。同じく細めで長めのそばをツルッとたぐる。茹でたてでなければこのようにツルツルとはいかない。それをキリリと濃いめの辛汁にちょいと浸せばうまさひときわだ。蕎麦らしさを十分に堪能できる。しかもうれしいのは量が心もち多めなこと。自家製麺であるからこそできる心づかい。これで300円(消費税込)なのだから嬉しくなる。
また、こういった本格的・伝統的なそばメニューだけではなく、新しい試みにも挑戦している。面白いのは「シャウそば」。あのシャウエッセン(ソーセージ)を春巻の皮で包んで揚げたものをタネとするもの。
また、開店当初に存在した「ベーコンエッグチーズそば」なる一品もあった。若いご主人らしく、個性的なアイデアに果敢に挑んでおられる。固定的なファンもできて前途は明るそうだ。大いに繁盛して路麺の灯火を次代に伝える牽引役として頑張ってほしいと心から願う。
住所:東京都大田区多摩川1-2-23
アクセス:東急多摩川線矢口渡駅、徒歩4分
営業時間:6:00〜15:00
定休日:無休(不定休あり)
評価:3点 ☆☆☆
※本記事は取材当時の情報です(取材日:2023/10/1)
アプリ「蕎麦道なび」でも配信中! 「蕎麦道なび」のアプリはこちらからダウンロード!
※Google Android/iOS対応
写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。