GOTS認証って知ってる? 日本の超分業生産を世界へつなぐ[後編]【ビギニン#49】

三恵メリヤス 三木 建さん

「GOTS」はオーガニック製品に対する認証基準。このマークを付けるには、原料の70%以上がオーガニック繊維であることに加え、すべての製造工程で環境的及び人権を含む社会的な要件をクリアしていることが求められます。

第三者機関によって審査されるので信頼度が高く、人権デューデリジェンス(企業活動における人権リスクを抑える取り組み)が進むヨーロッパでは、今後、第三者認証のないアイテムは販売できなくなることが予想されます。

海外展開するアパレルメーカーにとって必須のGOTS認証ですが、我が国では取得が進んでいません。その大きな理由の1つは日本の繊維産業が分業制で成り立っているから。服作りには複数のサプライヤーが関わり、家族経営や小規模事業者も多く、大企業向けに作られたGOTSの審査方法がマッチしていませんでした。そんな日本のアパレル産業に向け、監査及び運営スキームを簡略化したのがGOTS CSCS(管理型サプライチェーンスキーム)です。

CSCSのパイロットでGOTS認証を取得した大阪の下町にある縫製工場「三恵メリヤス」の三木建さんに話を聞きます。

前編はこちら

今回のビギニン

三恵メリヤス 三木 建さん

三恵メリヤス 三木 建さん

1981年生まれ。大阪市北区にある繊維メーカー「三恵メリヤス」の4代目。現在の役職は専務取締役。慶応大学在学中に友人と留学支援ビジネスを起業。海外に直営オフィスを設け渡航後も手厚くサポートするサービスが人気となり、独立型の留学エージェント最大手に成長。バンクーバー、ニューヨーク、オークランド、ロンドンと順調に拠点を拡大していた2014年、父・三木得生さんの体調不良がきっかけで帰国し、三恵メリヤスに入社する。家業に戻ってからは、Webを駆使し海外に販路を拡大しつつ、着心地を極限まで追求したファクトリーブランド「EIJI」を立ち上げるなど、大阪の町工場が持つ技術力を世界に伝える。お菓子好き。健康のために始めた柔術にハマり中。

Struggle:
GOTS CSCSに挑戦する

三恵メリヤス

学生時代に立ち上げた留学支援ビジネスが成功し、ロンドン支社に勤めていた三木建さん。父の体調不良をきっかけに家業に入ると、そこで目にした職人技に感動します。アパレル産業を支える町工場のポテンシャルを伝えるべく、技術の粋を集めた究極のTシャツ「EIJI」をプロデュース。それがヒットし、5年が経った2022年の夏「GOTS」からトライアル参加の声がかかります。


GOTS Japanの松本フィオナさん。2021年よりリージョナル・リプレゼンタティブとして日本を担当。GOTSの認知度向上のほか、CSCSのプロジェクトコーディネーターと連携して同プロジェクトの今後の発展にも尽力。今回の取材にもご協力いただいた。

海外の売り上げが1/3を占めていた三恵メリヤス。今後、GOTS 認証が必要になると考えた三木さんはプロジェクトの挑戦を決めます。

「小さな町工場のおじいちゃんおばあちゃんが、認証費用を払って、申請書類を用意して、自分の手でGOTSに登録するというのは難しい。そこで、従業員が20人以下の小規模事業社8~30のサプライチェーンを一つの企業とみなし、申請や認証を簡略化するというのが『CSCS』の考え方です」(松本さん)

「ぼくたち三恵メリヤスが代表となって申請書などを用意し、審査団体に代わり製作に携わるすべての工場が規定に違反してないかをチェック、その書類を元に審査団体がランダムで工場を調査し問題がなければ認証という流れで。それならできそうだなと思って、普段から取引のある町工場にお願いしたら『三恵さんが言うなら』という感じ参加していただけました」

こうして、生地の編み立てに和歌山の「津村メリヤス」と「和田メリヤス」、染色と整理加工に大阪の「V-TEC」、生地の裁断に大阪の「白鳩メリヤス」、縫製に大阪の「田中メリヤス」と「三恵メリヤス」、ボタンホールを縫う加工に大阪の「石川さん」、仕上げに大阪の「浜崎プレス」と計8社のサプライチェーンでTシャツを作るプロジェクトが始まりました。

「実際CSCSをやってみて、従業員数や給料台帳、残業代といった通常は触れない部分を聞くので、繋がりのある工場さんじゃないと難しいように感じました」。

「業務に関しては、オーガニックと普通のコットンが混ざるとNGなので環境を整えてもらったりしましたが、意外にも新たにやることはそれくらいというところも多かったです。GOTSのチェックリストには掃除をしましょうといった簡単なものから、報酬や外国人労働者といった繊維産業の問題点に関する項目もありましたが、今回お願いした工場ではどれも当たり前にやられていました」。

「年配の職人さんのなかには『自分のせいで認証が取れなかったらどうしよう』と不安がる方もいらして『綺麗に分けて他のもんと混ざらんようにしてれたらええんやで』と要点が伝わるよう説明しました」

三恵メリヤス

関係性を築いていたので工場とのやり取りはスムーズに進みましたが、難しい部分もあったと三木さんは振り返ります。

「とにかく申請が難しくて、山あり谷ありでした。Ecocert(エコサート)という認証機関に事前提出する書類を自分たちで用意しなければならないんですが、それが全て英語で。プロジェクトコーディネーターにサポートいただいて、なんとかクリアできましたが、初めての経験で大変でしたね」

認証のポイントは2つの工場だったといいます。

「1つ目は糸のサプライヤーである大正紡績(大阪)さんです。今回のサプライチェーンには入っていませんが、すでにGOTSを取得されていて、オーガニック認証のコーマ糸を使うことができた。大正紡績さんがなければ原料がないので無理でした。もう一つはV-TECさんです」

V-TECのGOTSで使われているソーピングマシン
V-TECのGOTSで使われているソーピングマシン。

V-TECは地の油や汚れを落とす「洗い」と、洗った生地を乾燥させ生地を伸ばして縫いやすくする「整理加工(セット)」という工程を担当しています。

「染色場は不純物が入るリスクが高く、大量の水を使います。環境負荷が大きいので認証の肝になるんです。V-TECさんは混入を除外できる環境が整っており、認証にも慣れていて排水チェックにもすぐに対応してくれました。染工場は他と比べて認証の負担が大きいのでV-TECさんの協力がなければGOTSは取れなかったと思います」

Reach:
CSCS認証で世界へ。

GOTS認証Tシャツ
GOTS認証を取得したクルーネックTシャツ。

GOTS認証には直接関係ないですが、今回作られたCSCSでTシャツには三恵メリヤスにしか出来ないユニークな試みが盛り込まれています。

「丸編み生地ですが、捨てるところがないデザインなんです。コットンが統制品で貴重だった頃の肌着をモチーフにしていて、平置きした時は着物のようで、着ると、伝わるかわからないですがチャンピオンのリバースウィーブっぽい雰囲気になります。せっかくGOTS認証を取ったので、パターンもサスティナブルになっていれば面白いなと思って、この形にしました」

GOTS認証Tシャツ 型紙
型紙をみると捨てるところが一切ありません。

三恵メリヤスに伝わる古い型紙から製作したというストーリーも魅力的なGOTS認証Tシャツ。三木さんは「sew by Eiji」と名付けます。

「sewingの『sew』アルファベット3文字を漢字の『然』にデザインしたロゴを作りました。『そう』は漢字で『然』と書くんです。『あるがまま、そのもの』という意味があります」

三恵メリヤス sew タグ

サスティナブルなパターンで、無染色の生成りで油分を残しコットン本来の柔らかさが感じられる。そんなプロダクトの特徴を表したネーミング&ロゴは海外での受けもよさそうです。

三恵メリヤス 染料

今後もGOTS認証を取得したいという三木さんに次の課題訊くと「色」という答えが返ってきました。

「日本国内にGOTS認証を取った染料や漂白する際の助剤を扱っている会社がないので、現状では染色ができないんです。例えばインドにあるんですが、それを直接輸入しようとするとドラム缶12個から。ぼくたちのような小ロットで作るファクトリーブランドには無理な量になってしまいます。薬剤を作ってる日本の会社がGOTS認証をとれば世界に販路が広がるので、挑戦してもらえたら嬉しいですね」

GOTS認証 タグ

現在、日本で使われてる染料や助剤がGOTS認証が取れていないからといって環境に有害かといえば一概にそうではないと三木さんは言います。

「たとえば藍染なんかは、天然エキスで食べても大丈夫なんですが、認証は取れてないんです。GOTS自体が藍染や草木染であればOKという基準を定めているわけではもちろんないので、藍染をやってる人がアプライして、認証を取っていく必要があります。ぼくも白Tシャツを作りたいと思って、助剤を作ってる会社と一緒に申請したんですがはねられてしまって。その後、ある大学教授の方に話したら、レポートを書いたら通るとアドバイスいただいたので、また挑戦しようと考えてます」

最後に、今回のCSCSのトライアル企画に尽力したCSCSプロジェクトコーディネーターの西野祐子さんは、今回の成果についてこのように述べています。

「大切にされてきた伝統、技術、地域とのつながりが重要視される日本の繊維産業に深く共感されるものである」

人口が減少し、市場の縮小が進む日本。アパレル産業が生き残るには少ないパイを取り合うか、海外に打って出ないといけません。町工場の力を結集し自然体で世界に勝負をかける三恵メリヤスには希望があり、GOTS CSCSはその旅へ誘うパスポートになっていくのかもしれません。

sew by EijiのクルーネックTシャツ
CSCSでGOTS認証を取得したオーガニックコットンクルーネックTシャツ。コーマ糸(毛羽を取り除いた細番手の高級綿糸)を使用した無染色生成りの丸編み生地は、油分を残っており、コットン本来の柔らかさが感じられる。捨てるところがないサスティナブルなパターンで、着ると程よくゆったりしてアメカジTっぽい雰囲気に。クルーネックTシャツ8800円。写真2枚目のヘンリーネックTシャツ(9900円)もあり。

(問)三恵メリヤス
https://www.sankei.fm

※表示価格は税込みです


写真/中島真美 文/森田哲徳

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