布の概念が変わる!? スマートテキスタイルの最前線は町工場にあり[後編]【ビギニン#40】

今回取材に訪れたのは、江戸川区の町工場「三機コンシス」。元々空調設備を扱っていたこの会社はいま、繊維が秘める新しい可能性を拓く旗手として注目を浴びています。「HOTOPIA(ホットピア)」をはじめ、奇想天外な手法で優れた機能をもたせた繊維「FABRINICS(ファブリニクス)」がもつ可能性を、ビギニンである社長の松本正秀さんに伺いました。

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今回のビギニン

三機コンシス 代表取締役 松本正秀さん

三機コンシス 代表取締役 松本正秀さん

1964年生まれ。空調を扱うダイキンでの勤務を経て、父が創業した三機コンシスへ入社。空調設備の施工事業を受け継ぎながら、ヒーターの開発に着手する。布製ヒーター「HOTOPIA(ホットピア)」の開発を皮切りに、先進の機能を備えた繊維技術「FABRINICS(ファブリニクス)」の開発に邁進。「ワクワクした気持ちで仕事に臨む」がモットー。

Struggle:
衣料から医療へ。熱から光へ。広がる可能性

三機コンシス 代表取締役 松本正秀さん

かくして軌道に乗ったホットピアの活躍の場は、衣料分野だけではありませんでした。1つは、医療分野。ニットゆえの薄さと電磁波ノイズが起きにくいホットピアの特性が、手術時に患者の低体温症を防ぐために敷く医療用ヒーターにぴったりだったのです。

そしてもう1つ、ユニークな転身を遂げたケースが、ウィルテックスと共同で開発した「WILLCOOK(ウィルクック)」。パッと見はジップ開閉のショルダーバッグですが、その正体はレンジ。ホットピアの薄さと柔らかさが、レトルト食材やペットボトルをいつでもどこでも温めることができる、前代未聞の“携帯レンジ”を生んだのです。


カバン型のポータブルレンジバッグ「WILLCOOK®」。レトルト食材を20分で大人がおいしいと感じる55℃まで温めることも可能。温かいペットボトルの保温にも便利。2万3000円。※ショルダーベルト、バッテリーは別売。

「ステンレスの繊維をザイロンやケプラーといった繊維と組み合わせて使えば、300℃くらいまでの熱には耐えられる。ただ、300℃まで温かくしてしまうと入れたモノが溶けちゃうので、今作っているのは120℃くらいに加温できるものなんですけどね。安全性も高くて、繊維にちょっと触れたくらいではヤケドする心配もありません」。

一つの技術革新が、さまざまな分野で新しい可能性を拓く──。ホットピアはその好例といえましょう。

そしてホットピアで培ったノウハウは、まったく別の画期的なテクノロジーを生み出すこととなります。繊維が人を感知する「SENSING(センシング)」がその1つ。

ウェアラブルデバイス
人体が近づくと静電容量という値が変化する。こちらは、静電容量の変化を捉えるセンサーを伸縮するニットに組み込んだ、ウェアラブルデバイス。LEDが内蔵されていて、近づくと光る。

「マツコロイドなどを制作した研究所と共同研究しているのですが、人の接近や接触を、静電容量の変化で感知する機能をニットに持たせることに成功しました。例えば人とロボットが並んで作業にあたる工場でこれをロボットに着せれば、人に近づいたときに動きを緩めたり、ストップしたりといった安全性を向上することができます。従来のロボットにもこの手のセンサーは付いているのですが、関節などには付けられないので、必然的に何カ所かに分けて付けることになる。でもウチの伸縮電線の技術を使えば、服のように着せられるので、死角も防げるんです」

光る服
「SENSING(センシング)」技術を用いた「光る服」。内蔵のLEDは、何色にも変化する。参考商品。

この技術をわかりやすく視覚化するために制作したのが「光る服」。人が近づくと繊維に組み込まれたセンサーが静電容量の変化を検知し、LEDを光らせる仕組みの“世界一派手な!?”ブルゾンです。

「他のセンサーを組み込むことも可能なので、たとえばミステリーツアーじゃないですけど、光る服を着た人がいろいろな場所を回ることで、回った場所の分だけが光り、全部が光ればお宝がある場所へ行ける……みたいなレクリエーションにも使えるんじゃないかと思うんですね」。

ユニークなところでは、フィルムに電気を流すことで「音」を発する布も開発。指向性は狭いものの、ステレオでの音楽再生も可能というから驚きです。

Reach:
“冷える”ファブリックが誕生。さらなる発展へ

COOLPIA クールピア 素材

そしてとりわけ注目したいのが、信州大学との共同研究により開発が進められている「COOLPIA(クールピア)」。水が気化する際に熱を奪う性質を利用した、まったく新しいニットです。ユニークなのは、冷却に電気を用いないところ。ここには、空調設備会社としてスタートした三機コンシスの歴史が影響していると松本さんは言います。

「昔のビルの屋上にはよくシャワーが並んでいたのですが、あれはクーラーの排熱を冷ますための機器なんですね。気化熱を利用して冷やす仕組みで、冷却効率が非常にいい。これを布でやろうというのがクールピアなんです」。

クールピアのポロシャツへ水を差しているところ
「クールピア」のポロシャツへ水を差しているところ。しょう油差しのような容器を用いて少量を注入する。

使い方は、少量の水を差すのみといたってシンプル。ビシャビシャになってしまうと不快感のほうが増してしまうので、水が直接肌に触れないよう、ニットを多層に重ねているのが肝(特許技術)だと松本さんは言います。肝心の冷却効果も、実験で実証済み。

クールピアのベスト
ファンの付いた衣服の下に着込む用途で作られた「クールピア」のベスト。両胸から胴にかけて冷える。

「最近はファンの付いたベストやブルゾンが世の中に浸透してきたじゃないですか。アレも汗の気化熱効果を利用するものなんですけど、外気温が33℃を超えちゃうと機能しなくなる。余計に暑くなっちゃうんですよ。でもクールピアのベストを中に着込めば、どんどん冷やすことができる。40℃の部屋で実験しても、29℃くらいまでは下げられるんです」。

ただ、課題もあると松本さん。

「29℃まで下がれば熱中症にはならないんですが、涼しく感じるかといえば感じない。これが商品としてはネックなので、改良しているところです」。

サーモグラフィで温度変化を測定した実験の様子
サーモグラフィで温度変化を測定した実験の様子。

クールピアの技術を用いたウェアには、ファン付きの服の下に着込むベストのほか、室内で着る用途のポロシャツもあり。

クールピアの技術を用いたポロシャツ
「クールピア」の技術を用いたポロシャツ。両サイドに水の注入口がある。参考商品。

「ポロシャツのほうはエアコンなどの風による気化熱効果を用いるのですが、こちらは30℃くらいの部屋でパソコン作業をしていても、快適に感じていただけるくらい涼しいですよ」。

三機コンシスは、これらの繊維技術を「FABRINICS(ファブリニクス)」と総称。さらなる進化に努めるとともに、繊維のまったく新しい可能性を拓かんと日夜研究開発を続けているといいます。

三機コンシス 代表取締役 松本正秀さん

「スマートテキスタイルなんて言葉もありますけど、私たちが言うそれは一般的な機能性素材のそれより、もっと端的に効果が実感できるもの。志をともにする仲間数社とともにアライアンスを作り、アイデアを出し合いながらさまざまな研究を進めています。

今年の2月にはクールピア事業を共同で進めているアパレル企業のハップさんがイノベーション大賞の内閣総理大臣賞を受賞し、3月にはウチが発明大賞本賞を受賞した。グーグルさんとかの先進企業が、どうして我々に注目しないんだろうと思いますよね」

そう言って笑う松本さんの語り口は、軽妙で、どこまでも熱い。私たちが繊維と称しているものの概念が、まったく新しい何かに変わる──。お話を聞いていると、そんな未来が近い将来訪れる予感を抱かずにはいられません。

三機コンシス

アライアンス先、募集中!
三機コンシスは、先進的な機能性素材の研究開発しながら、一緒に製品開発できるアライアンスの門戸を開いている。今年、品質・環境マネジメントシステムの「ISO9001」を取得。アパレル業界が抱える服の大量廃棄の問題についても、そこにヒーターを組み込んでアップサイクルする、といった事業を検討しているのだそう。本記事を読んでアイデアを思い付いた方はぜひアプローチを。

(問)三機コンシス
https://www.sankiconsys.jp/

※表示価格は税込みです


写真/日高奈々子 文/秦 大輔

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