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80周年を迎えるにあたってTAKEMURAを新しく誕生させた、「株式会社アズ」の武村氏。原点回帰の意も込めて、同社肝いりの素材を使って新商品を作ろうと考えました。そこでピックアップしたのが、日本に3台しかない“ソデス編み機”で生み出される両面パイル。シニア層からの支持が厚い定番素材です。

前編では、ブランド誕生秘話とソデス編み機にまつわるエピソードをご紹介。実はこの編み機、稼働していた元工場が廃業してしまい、行き場を失いかけてしまいます。後編ではそんな局面を迎えたソデス編み機が、どのようにして現在の場所に落ち着いたのか、ソデスパイルを使用した新色ボクサーパンツの魅力と併せてお届けします!

両面パイルボクサーのビギニン[前編]【ビギニン#03】は こちら

今回のビギニン


株式会社アズ 常務取締役 武村桂佑氏

商社勤務を経て、2004年株式会社アズに入社。入社後すぐ「これがうちの柱の一つや」と、同社の会長を務める父親に無理矢理白いステテコを穿かされる。以来その心地よさにすっかり魅せられ、ステテコ文化の再生と新たなる創造を目的としたプロジェクト「ステテコドットコム」をスタート。休日は家族と山へトレッキングに出かけることが楽しみ。6歳になる愛娘の成長を優しく見守るお父さんだ。

:Struggle
迎え入れたのは職人気質の機械マニア

素材に選んだそのソデスパイルの特徴は、裏表に飛び出た丸いループ状の糸が“立つ”ということ。その効果により、通常のパイルと比べフンワリと軽い生地感が生まれます。

「この両面パイルを作っているソデス編み機のメンテナンスは、限られた職人にしかできないんですよ」

武村さんのその言葉通り、その編み機を受け入れてくれる工場探しは難航。ようやく引き取り手が見つかっても、取り扱いの難しさと生産性の悪さにすぐ手放されてしまうのです。

構造をクローズアップ


外側にも、肌に触れる内側にもループが飛び出しているソデスパイル。両面パイルはソデス以外でも展開されているが、その多くはこのループが生産過程で寝てしまう。一方アナログなソデス編み機は、そのループを立たせて編み出すことが可能。空気を十分含んだ生地に仕上がり、柔らかな肌触りと通気性・吸水性がプラスされる。生産性を考慮した新しい編み機には成し得ない業なのだ。

2007年、寄り所を失いかけたソデス編み機は、ある機械マニアと運命の出会いを果たします。現在も相思相愛な関係を続ける両者。本当にこんなところに?と不安を感じてしまうほど大きな一軒家が立ち並ぶ、大阪は枚方市の閑静な住宅街、この地に二人の愛の巣はありました。その機械マニアの名は大川博之さん。株式会社オオカワニットの2代目社長です。


株式会社オオカワニット 代表取締役社長 大川博之氏
同社2代目。自ら機械の設計も行う、無類の機械好き。機械メーカーに従事していた経歴も。

(ABOUT 株式会社オオカワニット)

株式会社オオカワニットは、1956年に機械メーカーとして創業。現在は主に生地の製造業を営んでいる。アパレル用の生地からオフィス系の素材まで、その製造は多岐にわたる。ある有名国産車の座席シートの素材開発に携わった実績も。長年、職人気質の工員たちがその技術を惜しみなく発揮し、高品質な生地の生産を続けている。

編み機が設置された工場内


間口の広い工場の入り口を抜け、取材班は事務所へ。編み機のモーター音が響き渡ることを想像していたが、意外にも静かな空間に驚く。ちなみに、工場内ではその音をしっかりキャッチ。ただし声を張り上げずとも会話ができる程度で、取材もスムーズに進行することができた。

編み機の設計という前歴を持つ大川さん。「機械についのめり込んでしまうタイプなんですよ」と自身を分析します。丸編み機についての知識はもともと豊富でした。それは同業の仲間たちの間でも有名で、普段から機械のメンテナンス等の相談にのっていたそう。それがソデス編み機と出会うキッカケへと繋がっていくのです。

「“大川さんのとこなら大丈夫やろ”と、ソデス編み機の引き取り手を探していたドーコーボウの人に言われて……。初めて見たときは感動しました。フランス製でこんな工夫が施された機械は見たことがない。機械好きな私としてはぜひウチに置いてほしいと、その申し出を受けました」

後継者問題を抱えるソデス編み機

引き取ったばかりの頃は、機械のメンテナンスにかなり苦労をしたという大川さん。まず、消耗品である部品を揃えることが大変でした。一つ一つが特注の形状であるため、代わりの部品は周りの仲間と協力して開発することに。したがってソデス編み機への愛情も倍増。「ヒロちゃん、今もソデス動かしてるか?」と、当時の仲間から未だに連絡が来るのだとか。

そこから早12年。現在大川さんは、世代の橋渡しに取り組み中。その技術と知識を、同社常務取締役である息子、大川 学さんに継承しています。


左から、大川 学氏、大川博之氏、柿本かおり氏(株式会社ドーコーボウ 営業)

「デザイナーにはもっと要望を言ってほしい! それを実現させるにはどうすればよいのか、その方法を考えるのが好きなんです。ニーズを取り入れて実行に移せば、人が喜んでくれるから」

そんな気持ちで大川さんは仕事に励んでいると語ってくれました。ニッターさん自らが機械のカスタムをするのは、業界では珍しいこと。ソデスパイルを使用したTAKEMURAのボクサーパンツ、触っただけで穿きたいと思ってしまう理由は、そんなところにあるのだろうと納得して工場取材を終えました。

:Reach
素材選びの匠が生んだ最“幸”の穿き心地

国境と時代を超えて、今も人々を優しく包み込むソデスパイル。今回のビギニン、武村さんはこの特別な素材を使って何を作るべきなのか、同社で企画生産を務める藤川さんに相談しました。キーワードは、会社の強みを若い世代に発信すること。藤川さんの提案は、ボクサーパンツを作りましょうという内容でした。


株式会社アズ 企画生産部 部長 兼 同部 生産課 課長 藤川登治氏
勤続30年以上のベテラン。デザインからパターン、素材選びまでこなすオールラウンダー。

「常務に“TAKEMURAというブランドをやるぞ”と命令されましてね……」と、ボクサーパンツを作ろうと思った経緯を話し始める藤川さん。

「若い世代のマーケットのシェア率は、圧倒的にボトムスが占めているんですよ。そのデータから考えるに、アイテムを浸透させるにはボトムスを作る方ほうが効率がいい。そこでソデスパイルの商品ラインナップを振り返ると、パンツの種類がシニア向けのモノしかなかったんですね。そこでボクサーパンツを作ろうと思い至ったワケです」

ソデスパイルの魅力って?


高級ホテルに備えられる、極上のタオルのような触り心地のソデスパイル。ふわふわで軽い生地と、縦横に伸びるストレッチ性が魅力。一瞬その耐久性を案じてしてしまうほどの柔らかさだが、洗濯ネットに入れて洗えば生地持ちも◎。昔の資料を紐解くと、天然の形状記憶性があるとの記載を確認できる。

続けて藤川さんが提案したのは、ソデスパイルの素材を変えること。若い世代にボクサーパンツを広めるためには、生地を今より薄くする必要があると結論づけました。すると必要になってくるのが、オリジナルよりさらに優れた伸縮性。実験を重ね独自の素材選びをすることで、その課題をクリア。こだわり抜いたNEWソデスパイルが完成し、ボクサーパンツをオシャレに格上げする大きな足がかりとなりました。

よく伸びて、よく戻る 真実のストレッチ


ボディの20%を占めるのはPTTという化繊。その精製には繊細な温度管理が必要となる。特徴は抜群の伸縮性。この素材のおかげで、“キックバッグ力”を確保。

何も知識を持たない取材班のために行ってくれた、藤川さんによる素材講義の終了後、「この素材の変更、穿いたらわかってもらえると思いますね」とサンプルのパンツを広げた武村さん。そのブランド戦略からも、TAKEMURAが同社の中で大切に育まれていることが窺われます。

「製品のよさをきちんと伝えていくために、販売場所も厳選しています。今は自社のオンライン通販ショップ「あずや」と、限られた百貨店さんでしか取り扱いをしていません」

“100周年を見据え、改めて自社の強みを若い世代にも広く発信していきたい”。そんな思いから始まった「TAKEMURA」。現在では大手アパレルブランドの商品にもNEWソデスパイルは使用され、若い世代への認知度も上昇中です。

そして今季、TAKEMURAのボクサーパンツに、新色が追加。ミリタリーな雰囲気を感じるオリーブ色で、男心をくすぐる出来栄えです。

「ゆっくりでもいいからファンを増やしていき、コツコツとブランドを続けられたら……と思います。」
最後に、武村さんに今後の展望を伺うと、こんな答えが。ブランドに対するまっすぐな思いを感じることができました。

パッケージの色と犬の秘密

下着が入っていると思えない、高級感のあるパッケージ。気になるのは、中央に鎮座する犬のモチーフです。何やら面白い話が聞けそうだと、取材終盤、満を持して武村さんにインタビュー。

「これは、秋田犬です。質実剛健な彼らのようになりたいという思いを込めました。また、子供の頃近所に住んでいた私の祖父の家でも秋田犬を飼っていたんです。名前はゴロといいました」

「このボックスのカラーは、大阪の本社ビルと東京の支店ビルの壁面の色からインスピレーションを受けました」

ギフト映えするこの上品なブラウンは何が由来なのかと加えて質問すると、ここにもキッチリとしたエピソードが。パッケージの要素一つとっても手を抜かない武村さん。“らしさ”が詰まったボックスに入った、“ワン”ダフルな穿き心地のボクサーパンツは、私たちのお供になというワケです。秋田犬だけにね(笑)。

TAKEMURAのパイルボクサーパンツ(ビギン限定オリーブカラー)
1日のうち、量産型の最新編み機のおよそ10分の1しか生産できないソデスパイルを使用。また、ウエストには“天スパン”を採用。ゴムのようなキツい締め付けを感じないのが魅力だ。M、Lの2サイズ展開。写真の新色オリーブは、ジェイアール名古屋タカシマヤとビギンマーケット限定。本体:綿80% ポリエステル20% / ゴム部分:綿90% ポリウレタン10%。3800円。>>>詳しくはこちら

(問)ビギンマーケット https://market.e-begin.jp/

※表示価格は税抜き

写真/mami sakoda 文/妹尾龍都

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