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本連載「ビギニン」では、そんな前代未聞の優れモノを“Beginした人”を実際に訪ね、その誕生の深層に迫ります。目からウロコな制作秘話やモノ作りに込められた思いを、まっすぐに紹介します。

「ラーメンをきっかけに街おこし!」。とはよく聞く話だが、“ラーメン課”として、真面目に取り組む自治体が東北、山形にあることをご存じだろうか? 山形県の南部に位置し、開湯930余年の歴史をもつ赤湯温泉のほか、ラ・フランスやさくらんぼなどの果樹栽培が盛んなことでも知られている人口約3万人を擁する南陽市。今回の「ビギニン」は、“ラーメン”を起爆剤に、交流人口、関係人口の拡大につなげようと『南陽市役所 ラーメン課 プロジェクト』を発足させた、南陽市の市長でありラーメン課主事補も兼務されている、白岩孝夫氏をご紹介します。


そもそも「ラーメン課」なんて実在するのだろうか? 実は、実際に設置するとなると議会の承認が必要になるため、どうしても時間がかかってしまうことなどから、スピード感を優先させるため、議会の承認が不要な“プロジェクト”として進めることを決め、プロジェクト名に「ラーメン課」と入れることにしたそうだ。そういえば、微笑む市長の後ろに掲げてある立看板をよく見ると、「ラーメン課」の隣に小さく「プロジェクト」と明記されている。

今回のビギニン

山形県南陽市長 兼 ラーメン課主事補 白岩孝夫(しらいわ・たかお)さん

1969年、山形県南陽市生まれ。1992年3月、東北学院大学卒業後、税理士事務所に15年間勤務。その後6年間、新聞販売店に務める。2012年3月に南陽市議会議員選挙に出馬し初当選。2014年4月に市議を辞職し、同年7月に行われた南陽市長選挙に無所属(自由民主党・公明党推薦)で出馬し初当選。2014年7月30日に市長就任。現職。

Idea:
市内の中高生の声にヒントが!

国民食と言われて久しいラーメンだが、行政が地域活性化のためのキラーコンテンツとして、そのPR活動に本気で取り組むケースは珍しい。どのような経緯から『ラーメン課 プロジェクト』は発足したのだろうか? 白岩市長に疑問を投げかけてみた。

「一周忌を迎えられた故安倍晋三元総理の第二次政権時に、地方創生のための総合戦略を策定することになり、それに向けて南陽市の中高生にアンケート調査を行ったことがありました。『市外・県外の人に教えてあげたい食べ物・名物』との問いかけに、我々の予想に全くなかったラーメンというものが入っていたのです。ラーメンって、私たちにとって空気のような、あまりにも身近すぎる存在であったため、本市の魅力としてとらえていませんでしたから、ある意味衝撃でした。ラーメンを県外の人々にアピールすべきだっていうのは、若い人の視点なのだなっていうことに、その時初めて気づかされました」

灯台下暗しとは良く言ったもので、案外、自分たちの住んでいる地域には、身近過ぎるがゆえに気がつかないモノ・コトがたくさん転がっているものなのだ。さらに、「ラーメン課」の設置にあたっては、ある方からのちょっとした助言も、大きな後押しとなった。

「ラーメン課を設置しようと思う直接的なきっかけになったのは、前の佐賀県武雄市の市長をされておられた、樋渡啓祐氏からのあるアドバイスでした。講演を依頼し、本市にお呼びした際、市内のとあるラーメン店にお連れしたことがありました。それがよほど美味しかったらしく、『ラーメン課をつくってPRしてはどうか』とおっしゃっていただいたのです。そのお言葉が、強力な後押しになりました」

今でこそ、情報発信に欠かせないツールとして、フェイスブックに代表されるSNSを取り入れている地方自治体も多いが、佐賀県武雄市は、まだ普及間もない時期に、樋渡市長のもと、フェイスブックページを開設し、市の公式ホームページを完全移行するなど、SNSを活用した情報発信において最先端を走っていたことでも話題を呼んだ。

「樋渡市長は、まだ自治体でフェイスブックを取り入れているところがほとんどない2011年に、いち早く『フェイスブック・シティ課』を設置したり、移住、定住促進に取り組む部署として、『お住もう課』も作ったんですよ。『お相撲さん』という言葉にちょっと引っかけて『お住もう』とかね、一風変わったネーミングで、色々な取り組みをされたんですよね。実は、私自身、前々から樋渡さんのファンだったこともありましたし、色々とブログとかもチェックしていましたからね」

 

 

南陽市民にとってはソウルフードといえる存在のラーメンだが、他県に比べてどのくらいの数の店舗があるのだろうか。

「人口10万人あたりのラーメン店数は山形県が約36店舗だそうです。 この数字を、人口3万弱の南陽市(ラーメン店約60店舗)で計算すると、人口10万人あたりでなんと約200店舗。大都市は人口が多いので、少なくならざるを得ませんが、こうして平均化すると桁違いの数字ですよね。実際、本市では、お盆などに家族や親戚が帰省してくると、みんなで出前をとってラーメンを食べるっていう文化が昔からあるんです。お客さんのおもてなしの際も、お昼であれば、『じゃあ、今日はラーメンでも取りましょうか』となるんです」

南陽市民のおもてなしは、お寿司や鰻ではなくラーメン。他県では、なかなか見ることのない光景がこの街にはあるようだ。

「ただ、味のバリエーションが非常に広くて、例えば、近隣の米沢ラーメンなどのように、統一された味や定義はありません。本市ではこれを逆にメリットと捉え、『南陽市に来れば、必ず自分好みのラーメンに出会える』、百花繚乱のラーメンがある街としてPRしています」

Trigger:
懐かしさと温かみが伝わる「ラーメンマップ」

平成28年の2月、定例記者会見の時に、ラーメン課プロジェクトのスタートを正式に表明した白岩市長。会見に集まった記者からは具体的な質問がいくつも投げかけられた。

「プロジェクトを立ち上げましたとは言ったものの、当時はまだ、活動内容など、具体的なことは何も決まっていなかった状況でしたからね。記者の皆さんを目の前に、手汗の止まらない会見だったことを今でも覚えています()。とはいえ、スタートしてしまえば、何かやらないわけにいきませんからね。人間って追い込まれるとなんか出てくるじゃないですか。そうやって、本当に苦労して転びそうになりながら、一歩ずつ活動を前に進めて行きました」

市長がまず着手したのが、市内のラーメン店を県外へPRするためのツール、「ラーマンマップ」を作ることだった。

「これもいろいろな課題がありましたね。最初に悩みの種となったのは、南陽市内のラーメン店の現状をどう把握するかということでした。市内に麺業組合はあるのですが、加入店はわずか。多くのラーメン店が商工会や観光協会にも加盟していない状態でしたから、現状把握の作業は困難を極めました。そこで一軒一軒取材しに行きました。そこで得たデータベースを使って作成されたのが、こちらのラーメンマップ『なんようしのラーメン』になります」

 

白岩市長が見せてくれたラーメンマップを実際に手に取ってみると、柔らかく温かみのあるざらざらとした手触りの良い質感の紙が使われていた。風合い豊かな紙質は、どこか懐かしさを感じさせてくれる、同市のラーメン文化にとてもマッチした雰囲気のガイドブックになっていた。

「最初はこんな立派な冊子は想定していませんでした。良くある何枚かに折り畳んだ簡易な冊子ぐらいに思っていたら、こんな素敵なものに仕上げていただきました。これを作る際、ラーメン屋さんに一軒一軒、取材にお邪魔するわけですよね。そうすると、最初は、『また行政が、俺たちに黙って何か勝手に始めているみたいだぞ』と、胡散臭がられたりするわけです。お茶も出してもらえないような。当時の担当者なども、『お前たち、ラーメン食って給料もらうつもりか!』って、市民の皆さんにこの活動をご理解していただくまでは、もうひどいありさまでしたからね()

若者の意見を取り入れた政策を進めるにあたっては、若者からのアイデアや視点を取り入れていくことが必要だったという。

「若者の視点を取り入れるため、東北芸術工科大学(山形市)の協力のもと、同大学のグラフィックデザイン学科を中心とした学生さんにラーメンマップの編集・制作を依頼しました。半年ほどかけて職員と学生さんとで一軒一軒、取材に回ってもらいました」

一見、普通のラーメンマップに見えるが、実は、各店で紹介されているラーメンのビジュアルに秘密が隠されている。学生からのアイデアがこれまでにはない、新鮮なガイドブック作りに一役買うとになった。

「ラーメン店の紹介というと無条件にメニュー写真を思い浮かべてしまいがちですが、学生たちから「絵でしか伝わらないものがある」という提案をいただいたのです。よくある観光マップってすぐ捨てられますけど、捨てられないものを作りたいという思いもありましたし、『今までにないものを』というコンセプトに合致していたことから、イラスト案を採用させていただきました」

確かに、手書きならではの温かみのあるイラストは、手作りのラーメンにも通ずる懐かしさの演出にもぴったり。唯一無二のオリジナリティ溢れるガイドブックになっていた。こうして、ラーメンマップは平成295月に無事完成。当初は1000部のみの印刷でしたが、あまりの好評からその後、増刷することに。現在は同市役所内みらい戦略課に設置してあるほか、Web上にもPDF版が用意されているそうだ。

後編:南陽市自慢のラーメンを実食! ルポ&同市の魅力をお届け。に続く

 

 

南陽市ラーメン課 プロジェクト

平成26年度に市内中高生に実施したアンケートで、「市外、県外の人に教えてあげたい食べ物・名物は?」の問いに「ラーメン」との回答が多くあったことをきっかけに、「ラーメン」を主役としたまちづくりを図るべく、官民協働で行うプロジェクトとして、平成28年7月2日に「南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト」が発足。市外、県外の方に「南陽市=ラーメンの美味しいまち」として認知されることを目指し日々活動中。

南陽市みらい戦略課 企画調整係
TEL:0238-40-0248
http://www.city.nanyo.yamagata.jp/


取材・文/伊澤一臣 撮影/佐藤俊介

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