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時代のニーズや変化に見事に応えた優れモノが、日々私たちの周りで続々と誕生しています。そんな心躍るアイテムは、どのようにして生み出されたのか? 本連載「ビギニン」では、そんな前代未聞の優れモノを“Beginした人”を実際に訪ね、その誕生の真相に迫ります。目からウロコな製作秘話やモノ作りに込められた思いを、まっすぐに紹介していきます。

さて、否応なく変化が求められたこの2年だけでなく、シェアリングサービスを使う機会が増えてきたり、エコバッグが当たり前になったり、と、現在進行形で、私たちの生活は変わり続けています。ファッション業界においては、“ヴィーガンファション”という新しいファッションのあり方を提案する動きが活発化。レザーやファーなどは人工で作られた代替素材に切り替わり、その生産背景にも注目が集まっています。

今回のビギニンで紹介する「カポックノット」もヴィーガンファションを実現するアパレルブランドのひとつ。Farm to Fashion(農園から快い暮らしを)というコンセプトを掲げ、「消費者」「生産者」「環境」の3つの視点を意識した洋服づくりを、徹底して行っています。原料の調達からユーザーの手に製品が渡るまで、社会に対して責任のある選択をする。今年3年目を迎える若いブランドですが、その注目度は国内だけにとどまらないほどです。

特徴は主原料に“木の実由来のワタ”を使用していること。アニマルフリーというだけでもトピックスではありますが、ブランドの名が世に広まった理由は、そのワタを使ったアイテムが機能性にも極めて優れていたから。たった5mmの薄さなのに、ダウン級に暖かい。表生地の素材によりますが、洋服は自宅で手洗いすることも可能です。ユニセックスで着用できる、シンプルで洗練されたデザインも魅力の1つでしょう。

実をつける植物はカポックと言います。熱帯アメリカや東南アジアを中心に自生しており、収穫できる木の実の数は1本あたり年間300個ほどです。木の実から採取できるワタ繊維は湿気を吸って暖かくなる吸湿発熱機能を持ち、重さはコットンの約1/8。「木になるダウン」と称される素材です。

ただし、そんな魅力を持っているにも関わらず、カポック繊維の用途はこれまでクッションやマットレス、救命胴衣等の中わたに使用されるのみでした。特徴を評価されるどころか、スプリング式のマットレスが登場したことにより、さらに需要は低下。現地ではその実が収穫されることなく、森林破壊が加速しています。いやはや、どうして。それは何故なのか。

改めまして、連載10回目の「ビギニン」では、カポック伝道師の深井喜翔さんをご紹介します。「カポックノット」を展開する若手起業家は、果たしてどのようにカポックと巡りあったのでしょうか。

今回のビギニン


カポックジャパン 深井喜翔

1991年生まれ。大阪府吹田市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。ベンチャー不動産、大手繊維メーカーの営業を経て、家業である双葉商事に入社。4代目として同社の営業を担う傍ら、2019年アパレルブランド「カポックノット」をスタート、2020年に起業。一日10回はカポックと発する、自称カポック伝道師。大阪と東京を往復する忙しい生活を送りながら、疲れは趣味のサウナでリフレッシュ。

idea:
この仕事を50年続けていく気がしなかった

深井さんの実家は、創業70年以上の老舗アパレルメーカー双葉商事。婦人服カタログ通販のOEMを中心に事業を展開しています。「自他共に認める会社の後継ぎ」という自分の境遇に対して、学生時代はちょっとした窮屈さを感じていました。そして深井さんが20歳を迎えたある日、2代目(深井さんの祖父)からとある課題が出されます。

「今後の人生プランを家族の前で発表するように言われました。もちろん家業を継ぐことが既定路線的にあって。とはいえ当時は学業が忙しかったし、そのまま家業の仕事を引き継ぐイメージも持てませんでした。それでプレゼンは、フワッとした感じにまとめたんです。100周年を迎えたときの会社像などを話しました。近い未来というよりは、将来を語りたかった。でも祖父からは『そんな先の話、どうでもいいねん!』ってダメ出しを受けてしまいました(笑)」

後継へのプレッシャーを感じる一方で、深井さんは大学在学中マーケティングや都市開発、気候変動など地球を取り巻く環境問題について知見を広げていきます。幼少期から所属していたCISV(国際交流を目的とするNPO団体)では、自身がリーダーとなり持続可能な社会を目指しボランティア活動などを行いました。学習と体験を通じて、“サスティナブルな取り組み”に自然と興味が膨らんでいったのだそう。

「社会性と事業性の両立ってなんだろう。大学時代は、そんなことをモヤモヤ考えていました」

大学卒業からベンチャー不動産と大手繊維メーカーの旭化成で営業経験を積み、4年後双葉商事に入社。配属先は営業部でしたが、入社早々にたった1人しかいなかった先輩営業部員から退職宣言をされることに。コレハヤバイ。焦った深井さんはガムシャラに営業活動を行いましたが、未来に対する不安はどんどん募っていきます。

「作業効率に関してのイノベーションは先人たちによってすでに実施済みで、最低賃金は上がっていくのに生産量は変わらない。自分が学んできたことと照らし合わせても、事業性だけを突き詰めたところで結局何も残らない。。全ての企業に言えることですが、特にアパレル業界で生き残っていくには厳しい問題だと思います。さまざまな要素を鑑みて、『今ある双葉商事の事業を50年先も続けていきたい』と僕は思えませんでした。」

将来何をしようか。家業に戻り悶々とする日々が続いた深井さん。新しい事業を始めなければ。そんなとき、とある薄いダウンジャケットと出会います。

trigger:
手の届きやすいシンダウンを作ろう

深井さんが双葉商事に入社した頃、「THINDOWN(シンダウン)」というシート状のダウンを使ったジャケットが巷でちょっとした話題となっていました。軽くて暖かくて、着膨れしない。その謳い文句に深井さんも興味をそそられます。

「機能的で面白い製品だと思いましたが、私にとっては高価過ぎたんです。なんとか安く売り出せないものか。価格を抑えるには、やっぱりダウンの代わりになる素材を見つけるしかないと思いました」

時を同じくして、繊維のプロであることを証明する、繊維製品品質管理士の資格を取得した深井さん。前職の繊維メーカー時代からコツコツ繊維について勉強をしていました。ダウンの代替素材としてカポックが頭に浮かんだのは、その合格報告も兼ねて知人らと食事をしている最中のことです。

「繊維メーカーに勤めているとき、カポックの存在を知りました。しかし当時はその魅力に気がついておらず……。ところが試験の話をするうちに、偶然カポックの話になって。もしダウンの代替素材としてカポックが利用できれば、商品の価格も抑えられそうだし、植物由来の素材で地球にも優しいはず。コレは、やってみる価値がある。カポックの可能性にかけてみようと開発に乗り出しました」

しかしカポックの製品化には問題点が山積み。これまで大手繊維メーカーも開発に踏み出しては断念してきた、まさにジャジャ馬のような素材でした。その理由は2つ。1つ目は原料の仕入れ先が不明瞭であること。2つ目は繊維が細く軽過ぎて加工が難しいこと。深井さんはこれらの課題をいかにして解決し、製品化に漕ぎ着けたのか。後編に続きます。

後編:厚さ5mmでダウン級に暖かいアウターができるまで

カポックノット / カポックダウンチェスターコート
オンオフ兼用で着用できる、軽い着心地のチェスターコート。表地はポリエステル100%だが、ウールのような柔らかな風合い。裏地付きで腕通りもスムーズだ。シワになりにくく自宅で手洗いできるのも嬉しい。4万8000円(税込)
カポックノット / カポックダウンリバーシブルシャツジャケット
深井さん今季イチオシのシャツジャケット。使いやすいブラックとグレーのリバーシブル仕様になっている。薄くて軽量なのに程よく暖かい。旅行のお供にも最適の1着だ。2万4900円(税込)
カポックノット / カポックダウントレンチコート
縫糸も生地もボタンも、100%生分解する素材でできているトレンチコート。カポック繊維にはトウモロコシから作られた素材がブレンドされている。たっぷりとしたシルエットで、ジャケットの上に難なく羽織れる。少々お値段が張るのは、細部まで妥協なしに作った証拠。20万円(税込)※予価

(問)カポックジャパン
https://kapok-knot.com/

2021年9月20日12時よりMakuakeにて新プロジェクト公開中
https://www.makuake.com/project/kapokknot03/


写真/穂苅麻衣 文/妹尾龍都

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