wook vol.8

時代のニーズや変化に見事に応えた優れモノが、日々私たちの周りで続々と誕生しています。そんな心躍るアイテムは、どのようにして生み出されたのか? 本連載「ビギニン」では、そんな前代未聞の優れモノを“Beginした人”を実際に訪ね、その誕生の真相に迫ります。目からウロコな製作秘話やモノ作りに込められた思いを、まっすぐに紹介していきます。

今回の舞台は「くつのまち」として知られる、神戸市長田区。この呼び名は、第一次世界大戦中この区一帯にゴム靴や長靴の製造工場が多数作られたことに由来します。大阪が「食い倒れの街」と呼ばれるように、神戸は「履き倒れの街」という異名を持ちますが、その出荷額のおよそ7割は長田。街には地域のランドマークとしてシューズを象ったモニュメントがいたるところに設置されています。第9回のビギニンに登場するのは、そんな「くつのまち」で靴ずれ心配“ゴム”用のサンダルを開発した、シューズメーカー「アレッツォ」代表の水谷さんです。

本題に入る前に先ず押さえておきたいのが、上の画像のトングサンダルについて。イタリア語で“ゴム”という意味を持つアレッツォのオリジナルブランド「ラゴンマ」の一足で、特徴は“靴ずれを全く起こさない”ということ。鼻緒やアッパーに触れることにより足のダメージを抑え、まるで足の裏に吸い付くような歩き心地♡、長時間履いても快適です。

それを可能にしているのが、木型を使って独自開発したフットべッド。加えて、絶妙な角度でフットべッドに付けられた伸縮自在なアッパーや、強度とクッション性に優れたオリジナルのアウトソールも欠かせない要素です。

製作は全て手作業、一点一点ていねいに思いを込めて作られています。なかには50年以上、靴作りに携わってきたベテラン工員さんも。靴ずれを起こさない快適な履き心地は、熟練の技術があればこそ実現されるものなのです。

また、無駄な装飾のない洗練されたデザインも魅力の1つ。アウトドアシーンはもちろん街履き用としても存在感を発揮するサンダルの重要な要素です。と、今回のビギニンの肝となるサンダルの要点を押さえたところで、製作者の水谷さんに登場してもらいましょう。

今回のビギニン


アレッツォ 水谷義臣

1973年生まれ。兵庫県神戸市長田出身。東京とイタリアで靴作りのノウハウを学んだ後、家業を継ぐかたちでアレッツォを立ち上げる。ソフトで履きやすい神戸靴の特徴を生かした婦人靴のOEM事業を進める傍ら、オリジナルブランド「ラゴンマ」を始動。休日は釣りや映画鑑賞を楽しむなど、のんびりした時間を過ごす。

idea:
家業を継ぎ、婦人靴を作りまくる

「くつのまち」で靴の製造工場を営む家に生まれた水谷さん。幼少期に見ていた靴を作る父親の姿、その影響により東京の服飾専門学校にて靴作りを学びます。卒業後はデザインの勉強のため、靴作りの本場イタリアへ単身修業に。

「イタリアには2年間ほど住みました。はじめの半年間はミラノの靴養成学校へ、その後の1年半はトスカーナ地方の城壁に囲まれた美しい都市、アレッツォのシューズメーカーに勤務しデザインの勉強に明け暮れました。そこで出会った地元の人々の優しさが忘れられず、その地名を社名としたんです」

思い出の写真!

水谷さんはさらに続けます。

「特に思い出に残っているのは、ミラノからアレッツォに移動する道中でのこと。たまたま通りかかった見知らぬ家族が私を車に乗せ宿舎まで送ってくれたんです。『知り合いがいないのなら、毎週日曜日あなたの住む近くの教会でやっているミサにおいで』なんて言ってくれて。そのとき感じた人の温かさ、ずっと忘れずにいようと思いましたね。イタリアでお世話になった人たちとは、今でもクリスマスカードを贈り合う関係です」

帰国後、水谷さんは父親の跡を継ぎシューズメーカー「アレッツォ」を設立。婦人靴のOEMを中心に販売から製造まで請け負う事業をスタートさせました。同社のクライアントは百貨店や大手セレクトショップ。「日本人の足型に合った靴は日本製でしか表現できない」ことを信念に、十人十色さまざまな注文を形にしていきました。

「本当にたくさんの婦人靴を作ってきました。その経験がラゴンマのサンダル製作にも役立っています」

クライアントの満足度は上々。特に評判だったのは履き心地の面でした。しかし、製品は全て婦人靴。水谷さん本人は、その履き心地を自ら試してみることができず、モヤモヤした気分を抱え始めます。

「実際に履いたこともないのに、『履き心地がいいんですよ!』と営業する自分に違和感を覚えたんです」

trigger:
自分が作った靴の履き心地を自分で確かめたい

アレッツォ創業から10年ほどたった頃、水谷さんは1つの野望を持ちはじめます。

「事業が安定し気持ちにも余裕が出てきたのか、『男性用の靴を作ってみたい!』と思うようになりました。お客様が褒めてくださる履き心地のよさを自分が実際に体感してみないことには、セールストークの説得力に欠けますからね(笑)。それに改善点もきっと見つかるはず。そんなふうに思いデザインを考え始めたんです」

とはいえ、男性用と女性用の靴では生産ノウハウが異なるため、このままメンズラインを事業化するにはリスクが高すぎました。そこで水谷さんは、まず自分のための靴を試作してみることに。これがラゴンマ誕生の第一歩に繋がります。

「女性と男性では足幅が違うため、婦人靴を作っている機械の設定のままでは紳士靴を作ることはできません。もちろん、それはラゴンマでも同じ。ユニセックス商品ですが、それぞれ足型に合わせて作りを変えています」

かくして試作品第1号を製作しはじめた水谷さん。デザインの参考にしたのは、思い出の地イタリアで見つけたローマ靴でした。ただしローマ靴といえば、古くからあるデザインがゆえに作りが単純でソールがペッタンコ。阿部寛が主演を務めた映画『テルマエ・ロマエ』に出てくるような、かなり歩きづらい代物です。

果たしてローマ靴から如何にしてラゴンマのトングサンダルへと変わっていったのか。後半では、改善に改善を重ねた開発ストーリーをお届けします。

後編:「サンダルの音が耳障りだった」に続く

ラ ゴンマ/ ストレッチトングサンダル

イタリアのローマ靴をモチーフにデザインされたサンダル。アッパー、フットヘッド、ソールなと、ディテール1つひとつにこだわることで、足と一体化する驚きのフィット感を実現。アッパーと肌の擦れによる靴ずれも起こらず、はじめて履いた瞬間からリラックス気分を味わえる。S(25-25.5)、M(26-26.5)L(27-27.5)3サイズ展開。写真のターコイズブルーはビギン別注色。8,690(税込み)

>>>詳しくはこちら

(問)アレッツォ

https://www.arezzo-kobe.jp/


写真/森下洋介 文/妹尾龍都

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