国内最大級のオープンファクトリー「ひつじサミット」って何だ?[前編]【ビギニン#42】

時代のニーズや変化に応えた優れモノが日々誕生しています。心踊る進化を遂げたアイテムはどのようにして生み出されたのか?「ビギニン」は、そんな前代未聞の優れモノを”Beginした人”を訪ね、深層に迫る企画です。

近年よく耳にするニューツーリズム。地域が文化や産業、自然環境といった価値を打ち出し、テーマに沿った体験ができる場所やアクティビティを用意、訪れる人たちに、その土地を知りファンになってもらおうという新しい観光スタイルです。

普段アクセス出来ない場所に行けたり、同じ趣味を持つ人や地元の方と交流できたり、知的好奇心を満たす今の時代にぴったりなレジャー形態ですが、運営側の視点では、地域資源を活用するツーリズムの性質上、企画の立ち上げ、協賛者の募集、イベント開催から集客など、地域主導で行わねばならず、一筋縄では行かない苦労もあるようです。

アフターコロナで国内旅行者が増えるなか、日本各地で様々なニューツーリズムが創出されています。今回は2021年より岐阜県羽島市から愛知県一宮市を中心とする尾州地域で「ひつじサミット尾州」というクラフトツーリズム(産業観光)の代表発起人を務め、のべ3万人超を動員したビギニンが登場します。

今回のビギニン

三星毛糸 岩田 真吾さん

1981年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。三菱商事株式会社、ボストン・コンサルティング・グループを経て2009年、家業であり130年以上の歴史を持つ繊維メーカー「三星グループ」に入社、翌年5代目の社長に就任し、三星毛糸ほか5つのグループ会社の代表を務める。2019年にジャパン・テキスタイル・コンテストでグランプリ(経済産業大臣賞)、2022年にForbes JAPAN起業家ランキング特別賞を受賞。サウナ好きで、2018年よりフィンランド・サウナ・アンバサダーをつとめる。趣味は燻製。

Idea:
外資系コンサルから家業へ

岐阜県羽島市にある三星毛糸株式会社。

今回の舞台である尾州は、奈良時代から明治初期まで続いた「尾張の国」がルーツ。愛知県の一宮市から名古屋周辺をぐるっとまわり、岐阜県・美濃地域の一部を含むエリアです。木曽川がもたらす豊かな水と肥沃な大地に恵まれ、岐阜県羽島市~愛知県一宮市エリアは古くから桑や綿花を栽培、和服の生地産地として知られていました。1891年に発生した濃尾地震で壊滅的な被害を受けると、それを転機に綿から当時最先端素材であったウール織物の製造にシフト。糸から織物を作るまでの工程を地域の中で分業しクオリティを上げることで、イギリスの「ハダースフィールド」、イタリアの「ビエラ」と並ぶ“世界三大毛織産地”のひとつと称されるようになります。

岐阜県羽島市はせんいの街として知られます。

「僕は愛知県一宮市の生まれで、岩田家は、代々この地で繊維業をやっていまして、子供の頃から後継だと言われて育ちました。大学時代、代理店にインターンシップに参加したりして、組織で働くのもいいなと。それで三菱商事にご縁があり入社しました。超伝統的な日本の企業で、すごく良い会社すぎて、完璧に出来ているというのかな。将来、自分がやることが見えちゃった気がしたんですね。もちろん若気の至りです。今考えたら安定しているのも良いんですが、当時はもっと自分を試してみたいという気持ちが沸き起こった。それで真逆っぽい会社に行こうと考え外資系のボストンコンサルティンググループに転職したんです」

ボストンコンサルティンググループは大企業や政府機関などに対し経営戦略の策定支援から、新規事業立案、デジタル戦略など、さまざまな案件を扱う戦略コンサルティングファーム。世界50を超える国々に90以上のオフィスを構える世界3大コンサルの一つです。

「経営者のアドバイザーみたいな仕事をしていくなかで、それはすごく面白くエキサイティングだったんですが、やっぱり自分でやりたいよねって言う気持ちがどんどん強くなっていきました。サラリーマン生活の5年半でそれに気づき、じゃあやろうと。東京で起業する道もあったんですが、そういえば自分には家業があったと。本当に忘れていて、思い出したという感覚でした。100年以上の歴史を持つ会社を地方で革新させ、進化させていくってユニークで意義がある。じゃあ戻ってみようというのが三星のキャリアの始まりです」

会社に戻りわずか10ヵ月後、28歳の若さで岩田さんは社長に就任します。きっかけは、当時社長だった父、岩田和夫さん(現会長)のアドバイスでした。

「父親から、経験を積んで社長になるのも良いけれど、若いからこその感性や行動力を生かすのも良い。両者は総量で言ったら同じようなもの、だったら早いほうが良いというようなことを言われて社長をやることに。でも後から聞くと親父はそんな話をした覚えはないって言うんですよ。父親との対話でそんな話になり、確かに聞いたはずなんだけど(笑)」

お父さんの岩田和夫さんは2010年より三星グループ会長に就任し、現在は自称「代表取締役木こり」として、サウナ付きの山荘で芝刈りをしながら、時折訪ねてくる若い経営者たちに経営のアドバイスをされているといいます。

Trigger:
2つの変革期

社内にある通称ヒストリーロード。三星グループの歴史がわかる展示コーナー。

岩田さんが三星グループを継いだ2009年は、リーマンショック直後で会社の業績がかなり落ち込んでいました。コンサルで身につけた知見や方法を活用、数値目標を導き出しノルマを課して毎週営業会議を開きますが、1年経っても結果が出ませんでした。

「悪い状況のなかで横ばいだったのマシだと言ってくれる方もいるかもしれないんですけれど、ぼくはV字回復すると思ってたので、全然変わらない上に、社員の表情が悪くなり、何人かは辞めていったんですね。見回すと今いる人たちも全然楽しそうじゃない。そのときにこれはおかしいと思って、コンサルや商社時代の先輩に相談しました。そこで、とある先輩──事業再生をやってる方なんですが、そういう仕事は2年で成果を出さないとクビなんですね。──から『岩田くんが、その若さで社長になったということは1~2年の勝負じゃないでしょう? 10年とか30年のスパンで期待を背負ってるわけだから、一個づつ腰を据えてやればいいんじゃない』と言われて。ぼくはそれまでは資本主義のど真ん中を生きてきて、四半期決算で1番利益を出した人が偉いとかって思っていたんですね。そうじゃない考え方もあると気づき、目から鱗が落ちて、それ以降はやり方を変えました」

バーベキューができるスペースになった会社の庭。

岩田さんがまず始めたのが最初に会社へ行き、最後に鍵を閉めて帰ること。そして工場を回ることでした。それから、就業規則を変え、会社の庭を整備し、誰もが働きやすい環境づくりに力を入れます。就任3年目の2012年には、自分たちの作る生地がどう評価されるのかを確かめるため、世界最大規模を誇るテキスタイル見本市プルミエール・ビジョン・パリに出展。英語を話せるスタッフが岩田さんだけだったので、スーツケースにサンプルを入れて自らパリでの売り込みを始め、2015年には、三星毛糸のウール生地がエルメネジルド・ゼニアの「メイド・イン・ジャパン・プロジェクト」に選出。同年、自社ブランドの「MITSUBOSHI1887」も立ち上げます。

MITSUBOSHI1887の「SEFM セットアップ 2023」。高級スーツに使われるスーパーエクストラファインメリノを100%使用したセットアップ。上質素材ならではの肌触りのよさを活かして、ジャケットは裏地をなくし、軽やかな着心地を実現。リラックス感のあるゆったりシルエットも◎。シャツジャケット5万2000円。ワイドパンツ3万8000円。

「一個ずつ始めて、もちろんすべてが上手くいった訳ではないんですが、少しづつ良くなっていったという感じです。それが第1期の変革期。会社の雰囲気も良くなり、信頼関係も出来てきたんですが、5~6年やってみて、撤退を考えなければならない事業がでてきたんです」

三星グループは、生地を作る「三星毛糸」の他に、繊維の染色加工を行う三星染整という会社がありました。大量生産を前提とした工場で、機械が古くなり再投資の必要に迫られましたが、1台1億円という金額が必要で、回収できる見込みはありませんでした。しかし、染色は、三星のルーツである艶つけ業に近く、父、和夫さんが注力していた事業で、存続か撤退をめぐり度々衝突したといいます。

岩田さんの高祖母・志まさんの肖像画。志まさんが1887年に始めた艶つけ業(和服に使われる綿や絹の織物の艶を出す仕上げ工程)が三星グループの祖業です。

「僕としては、会長と社長という立場で話しているつもりだったんですが、周りからすると親子喧嘩で、社員のやる気がどんどん落ちていく。それを知ってからは、どんなに中身があると思っても人前で父とは議論しないことにしました。それで、2019年に父親が染整をやめるといってくれ、そこから従業員とコミニュケーションとって、最終日まで一人も辞めずにやり切ってくれました。三星に残りたという社員は全員残し、転職したいという人には全部転職先を紹介して、きれいに終われたのは良かったです。それが第2期の変革期です」

赤字部門がなくなり、グループ全体としては前向きな攻めができるようになったタイミングで、世の中を新型コロナが覆います。外出が制限され、服を買う機会が減り、ファッション業界は大きなダメージを受けました。三星グループも例外ではありませんでしたが、不採算部門を止めていたので、回復は早かったと岩田さん。しかし落ち着いて周りをみると、尾州産地の繊維業が急激に落ち込んでいました。

「売上が半分以下になり、このままでは継続が難しく、実際潰れる会社もでてきました。尾州産地は分業体制で、紡績、撚糸、糸染、織り編み、補修、染色整理、縫製とすべて別々の会社なんですよね。自社だけで成立しないことはわかってたんですが、コロナ前までは、そうは言っても別の会社だし、自分たちが良くなって、周りに波及効果があればいいかなくらいの感覚だったんですね。でもコロナで受けたダメージを見てこれは本当にやばいと。自分の会社を良くして、他の会社も頑張れじゃもう間に合わないと感じました。そうなれば、ものづくりは出来ません。それに気づいて本当に180度パチンとスイッチが入れ替わって、何か少しでも前向きなことを一緒にやらなければと思いました」

そうして、岩田さんがひらめいたのが「ひつじサミット」構想です。

後編:ゆるくつながる先にあったもの に続く

MITSUBOSHI1887のメリノウールロングスリーブTシャツ 2023
「23時間を快適に」というコンセプトで作られた、一年中いつでも使えるライトウェイトのメリノウール製Tシャツ。夏は一枚で、冬はインナーに。ウールの温度調節性や吸湿性、抗菌防臭性といった機能性はもちろん、ソフトな肌触りと防縮加工がかけられており家庭用洗濯機で洗えるイージーケアが人気。胸のポケット付きも人気の一因だとか。2万円。

MITSUBOSHI1887のダブルリッチシルクストールS
人間の肌にもっとも近いと言われるシルクを起毛した極上の触り心地のストール。経糸にウールを使い、天然の調温&調湿機能で快適さをプラス。表裏のバイカラーでどんな着こなしにも合わせやすい。2万4000円。

「ひつじサミット尾州 2023」は10月28日(土)・29日(日)に開催!
(※11月3日追記 今年も大好評のうちに閉幕した「ひつじサミット」ですが、早くも来年の開催が決定したそう。今年行けなかったという方はぜひチェックを!!)
詳しくはこちら ⇒https://hitsuji.fun/

(問)MITSUBOSHI1887
https://www.mitsuboshi1887.com

※表示価格は税込みです


写真/中島真美 文/森田哲徳

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