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ヴィーガンファションを実現するアパレルブランド「カポックノット」。主原料にカポックという木の実から採取できるわたを採用し、厚さたった5mmでダウンの暖かさを誇るアウターを生産しています。創業70年以上の老舗アパレルメーカーの四代目、深井喜翔さんは、カポックの可能性に気づき製品化に乗り出します。しかしカポック繊維は大手企業でも開発を断念する、“扱いづらい素材”だったのです。

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今回のビギニン


カポックジャパン 深井喜翔

1991年生まれ。大阪府吹田市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。ベンチャー不動産、大手繊維メーカーの営業を経て、家業である双葉商事に入社。4代目として同社の営業を担う傍ら、2019年アパレルブランド「カポックノット」をスタート、2020年に起業。一日10回はカポックと発する、自称カポック伝道師。大阪と東京を往復する忙しい生活を送りながら、疲れは趣味のサウナでリフレッシュ。

struggle:
どこから、どうして、どうやって。立ちはだかる多くの問題

知人との食事会をきっかけに、カポックの可能性に気がついた深井さん。製品化を目指して、いざ原料の調達に踏み切りますが…早速問題発生。カポック繊維の開発が進んでいなかった1つ目の理由を知ることになります。

「最初は他社を仲介してカポックの原料を集めてもらう予定でした。ただ、原料の仕入れ先が不明瞭で、いっこうに入ってこない。問い合わせようにもどこで止まっているかわからない。じゃあ、どうするか。現地に僕が行くしかないと思いました(笑)」

インドネシアのカポック工場で働く女性

深井さんが向かった先はカポックの産地インドネシア。事前にインドネシア領事館から交渉可能なカポック工場の連絡先を入手していました。首都ジャカルタから飛行機で移動、距離にすると東京・広島間くらいの田舎街へ急ぎます。

「街に到着し山道を車で2時間走ると、工場が見えてきました。印象的だったのは、50名くらいの工場員さんが和気藹々と楽しげな様子で働いていたこと。みなさん陽気な性格で、とても親切でした。もちろんエージェントなどいるわけもなく、取引の交渉も私が行いました」

カポックを素材として使用するには、大きく分けて3つの工程を踏みます。まずカカオの実のような殻を割り、中からわたを取り出す。次に大きな電動のブロワーでわたを吹き上げる。タネや汚れたわたは空中から早く落ちてくるので、ピュアなわたをかき集めることができます。最後に輸送しやすいよう袋に圧縮したら、作業は終了です。

「私も殻からわたを取り出す作業を手伝いをしましたが、現地の作業員さんの倍以上の時間がかかりました。圧縮作業も大変。直ぐわたが舞い上がるので、全身カポックだらけになってしまいます。顔には吸引防止用のマスクが必須ですね」

カポック繊維の利用を阻む問題は、もう1つあります。それは加工過程で繊維が空中に舞ってしまうことです。カポック繊維は良くも悪くも非常に軽くて短いのが特徴。具体的に短さは綿の平均3分の1くらい、比重でいうと8分の1ほどです。その軽さのために洋服の中わたとして使用することができませんでした。

「問題を解決するため、カポック繊維にリサイクルポリエステルを混ぜました。舞い上がらないためにも、短い繊維が絡みつく長い繊維が必要だったのです。ただし、それだけでは不十分。当社ではそのカポック混のわたを不織布で挟み、シート状にすることで加工を実現しています。シンダウンの構造を参考に実験を繰り返し、なんとか打開策を導き出せました」

シートの開発には大手繊維メーカー旭化成の協力を仰ぎ、深井さんは実際に中国の生産工場にも視察に向かいました。農場から製品化まで、自分たちは責任のある選択をしていく。その行動はカポックノットの理念そのものです。

一方、繊維の開発と並行して深井さんは経済産業省主催の「始動」という、起業家育成プログラムに応募。提出した事業計画書と自己PR動画が評価され、見事応募者約300人中の100人に選ばれます。深井さんは6ヶ月間に渡り、現役で活躍するメンターによる講義やグループワークを通じて起業家マインドを養いました。ただし起業するには仲間が必要。「どんな人が必要なのかもわからない。とにかく人集めが大変でした」と深井さんも苦笑い。

「はじめは双葉商事(家業)の事業の一環としてカポックの製品化を目指したのですが、途中で起業する方向にシフトチェンジしました。家業が得意とするのは婦人服、主にパンツの生産。僕がカポックを使って作りたかったのは、ユニセックス用のアウター。新しいことを始めると社員の負担になるし、そもそも生産に必要な技術も両者では異なります。すると、自分の責任で事業を展開した方が機動力は増す。父(三代目双葉商事代表)も快く応援してくれて、起業に向けて俄然やる気になりました」

カポックノットの初めてのオリジナル商品はステンカラーコート。ブランド名やロゴデザインは学生時代の友人に協力を得、縫製は縁あって北海道の老舗工場にそれぞれ依頼することが決定。極力費用を抑えるために、生産はクラウドファンディングを用いた受注システムを取り入れました。

「『始動』の活動中はコートを持ち歩いて、出会った人に商品を売り込みました。たくさん声をかけたうち、はじめ興味を持ってくれたのは70名くらいです。受注がついてからの生産だと、コートのお届け時期がずれ込んでしまうので、2~3年かけて売る予定で300着仕込みました。後から知ったんですが、そのオーダー数は業界的に大博打同然だったみたいで。北海道の縫製工場さんにも心配されました(笑)」

reach:
カポックを信じて突き進んでよかった

出来上がったコートは「都心で働く人の上着」をイメージした上品なデザイン。オンオフ兼用で着用できお洒落も楽しめる、使い勝手のいいアイテムに仕上げました。構想から製作まで2年。2019年10月、クラウドファンディングサービス「マクアケ」で、ようやくお披露目を迎えます。

「驚くことに、合計550着の受注を獲得することができました。テレビ東京の番組で取り上げていただいたことが追い風となり、登場してから1ヶ月後には最初に仕込んだ300着がなくなったんです。そのとき自分が作ったコートが機能・デザイン・サスティナブルの3つの要素全部揃っているプロダクトだと確信できました。カポックの可能性を信じてよかった。独りよがりではなかった。そんな風に思えて、ホッとしました」

クラウドファンディングの最終的な結果は、目標金額500,000円に対して17,269,000円で着地。達成率3453%となり、カポックノットは最高の船出を切りました。


クラウドファンディングの結果で自信を持った深井さんは、起業に向けてさらなる行動を起こします。「始動」に応募した際の事業計画をブラッシュアップし、新たなプレゼン資料を作成。同プログラムの受講生100人のうち20人だけが参加できる、2週間のシリコンバレー研修のメンバーに選抜されます。

「同世代の大手企業エリートが2位3位にランクインするなか、私は20人中1位の評価をもらうことができました。名誉ある順位をいただきうれしかったです。シリコンバレーではプログラムが掲げる“Thinker to Doer” (考えるだけの人から、動く人へ)の精神を大切に、起業に必要な知識を蓄えながら、企業に向けて自分ができる最大限の行動を起こしました。結果的に滞在中に事業パートナーも見つかり、念願だったカポックジャパンを立ち上げることができたんです。」

現在商品の縫製は、北海道の工場のほか青森の縫製工場にも協力を仰いでいるカポックノット。深井さんは、この青森の工場に対しても大きなリスペクトを持っています。

「ここの職人さんは、みなさん自作の白衣(作業着)を着て作業されています。デザインから縫製まで、洋服づくりの全行程を行える技術者でなければ仕事を任せない。それぞれ担当があっても全体像が見えるから、次の行程の人に対して思いやりを持って仕事ができるんです。そのスタイルがカッコいいし、カポックノットの“Farm to Fashion”の考えにもぴったりだと思い、いま8割のアイテムはこちらの工場に縫製をお願いしています。」

じつは150品種ほどあるカポック。これまでは「生産量が安定している」であるとか「病気になりにくい」というポイントで品種を管理していました。しかし、「アパレル製品に最も適したカポックを発見できれば、カポックシートの混率も変わってくるはずだ」と深井さんは言います。

「目標は生分解100%のモノづくりです。これまで以上に社会性と事業性の両立を徹底していくためにも、インドネシアに自社工場を作りたいと考えています。将来的には世界をターゲットに事業を広げていく予定です。」

その言葉通り、9月には生分解100%のトレンチコート(下で紹介)も受注生産で発売予定。海外進出のための下準備も進めているんだとか。家業を継ぐためにも新規事業をはじめる。双葉商事で芽吹いたタネは、アパレル業界にイノベーションをもたらす若木に成長しました。将来の地球や社会のため、これからカポックノットはどのように幹を太くしていくのでしょうか。

カポックノット / カポックダウンチェスターコート
オンオフ兼用で着用できる、軽い着心地のチェスターコート。表地はポリエステル100%だが、ウールのような柔らかな風合い。裏地付きで腕通りもスムーズだ。シワになりにくく自宅で手洗いできるのも嬉しい。4万8000円(税込)
カポックノット / カポックダウンリバーシブルシャツジャケット
深井さん今季イチオシのシャツジャケット。使いやすいブラックとグレーのリバーシブル仕様になっている。薄くて軽量なのに程よく暖かい。旅行のお供にも最適の1着だ。2万4900円(税込)
カポックノット / カポックダウントレンチコート
縫糸も生地もボタンも、100%生分解する素材でできているトレンチコート。カポック繊維にはトウモロコシから作られた素材がブレンドされている。たっぷりとしたシルエットで、ジャケットの上に難なく羽織れる。少々お値段が張るのは、細部まで妥協なしに作った証拠。20万円(税込)※予価

(問)カポックジャパン
https://kapok-knot.com/

2021年9月20日12時よりMakuakeにて新プロジェクト公開中
https://www.makuake.com/project/kapokknot03/


写真/穂苅麻衣 文/妹尾龍都

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