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今回のご紹介するのは、「ラーメン課 プロジェクト」発起人の山形県南陽市長 兼 ラーメン課主事補の白岩孝夫さん。平成26年に行った学生向けのアンケートで地域の魅力が“ラーメン”にあると気が付いたことをきっかけに、同課を設立。後半では、2軒のラーメン店を取材。「ラーメン課 プロジェクト」の今と、アツ過ぎる南陽市民のラーメン愛をご紹介します。

前編はこちら

今回のビギニン

山形県南陽市長 兼 ラーメン課主事補 白岩孝夫(しらいわ・たかお)さん

1969年、山形県南陽市生まれ。1992年3月、東北学院大学卒業後、税理士事務所に15年間勤務。その後6年間、新聞販売店に務める。2012年3月に南陽市議会議員選挙に出馬し初当選。2014年4月に市議を辞職し、同年7月に行われた南陽市長選挙に無所属(自由民主党・公明党推薦)で出馬し初当選。2014年7月30日に市長就任。現職。

Struggle:
民間主体のムーブメントを自治体が後方支援

基本路線は、いかにお金をかけずに「南陽市のラーメン」をPRするかということ。そのため情報発信の主軸として、SNSの活用が欠かせない。たとえばFacebookでは、ラーメン課の公式アカウントとともに、「南陽市のラーメンファンクラブ」用の会員の方々に、南陽市内で食べたラーメンの写真や情報をアップしてもらうなど、さまざまな取り組みを行っている。

なかでも大好評なのが、アニメ、ドラマ化された大人気漫画「ラーメン大好き小泉さん」とのコラボ企画として開催している「ラーメンカードラリー」だ。

 


「ラーメン大好き小泉さん」の原作者が、カードラリーのために、主人公「小泉さん」のイラストを描きおろしているそうで、本企画に加盟するラーメン店1店舗利用ごとに、そのお店のラーメンと描きおろしの「小泉さん」がプリントされたオリジナルカードが配布されるそうだ。「3カード賞」「Wチャンス賞」、「全店舗制覇賞」といった特典が用意され、それぞれに「ラーメン大好き小泉さん」とコラボしたオリジナルグッズが贈呈されるという企画なのだそう。

 

「お陰様で大好評の企画となっており、これまで通算4回にわたって続いています。認知度が上がってきたからでしょうか、県内はもちろん、県外からのお客様にもたくさん市内のラーメン店に足を運んでいただいています。つい先日終了した「なんようしラーメンカードラリー2022」の企画では、福岡県からわざわざいらして、数日間の滞在で全店舗を制覇されていかれた方もいらっしゃいましたね」

最初は市民もラーメン店も「本当に効果があるのか」と懐疑的で、反応も薄かったそうだが、プロジェクトが徐々に進み、ラーメンマップやカードラリーなどの効果も手伝って、来店客数が徐々に増えてくると、今度は市民の間でも「なにかやっているな」という感じで、認知度も高まっていった。ラーメン店にとっても、来店客が増えたことで、順調に売り上げが伸びたことは、ありがたかったに違いない。

「そういう風にも思ってくれたんでしょうね。職員が訪問してもお茶が出るようになりました。なんだったら、座布団も、お茶菓子まで出るようになっていきましたね()

平日とはいえ、ランチ時になると、各ラーメン店の駐車場が他県ナンバーで満車になっている様子を見るだけでも、ラーメンを目的に南陽市を訪れる方々が増えていることを窺い知ることができる。

「今後も、県外のラーメンフェスなどに出店を考えるというより、あくまで『実際に店まで来てラーメンを食べてもらう』ことを前提とし続けたいですね。なぜなら、当プロジェクトの第一目的は、ラーメン屋さんの収入を上げていただくことはもちろんですが、ラーメンを食べていただいたあとに、たとえば赤湯温泉に泊まって、同時に果物や米、日本酒やワインなどにも親しんでもらうことが理想なわけです。あくまで、『ラーメンを主役にした地域活性化』という目的を見失うことなく、プロジェクトを進めていきたいと考えています」

 

Reach:
一杯のラーメンがつなぐ「シビックプライド」

市の一大プロジェクトとして、これだけラーメンを盛り上げているのだから、もちろん市長もラーメン好きに違いない。

「もちろんです。子どもがまだ小学生くらいの頃には、お父さんはラーメン星人で、実は、地球人じゃないんだよと()。ラーメンを定期的に食べないと、生きていけないっていうことを子ども達に吹き込んでいたくらいですからね()。ラーメン星から来た、ラーメン星人だから、定期的にラーメンを食べないと死んでしまうんだと。まあ、そんな話は抜きにしても、定期的にやっぱり、あ〜、ラーメン食べたいなって思いますよね。誰しもそうだと思いますけどね()。」

せっかく南陽市に来たのだから、名物のラーメンを食べないわけにはいかない。まずは、南陽市の代表的なラーメンを食べてみることに。

こちらが、1958年創業、辛味噌をスープに溶かしながら食べる山形内陸部赤湯地方のご当地ラーメンの元祖、赤湯ラーメン 龍上海 赤湯本店の「赤湯からみそラーメン」。1センチメートルはあろうかという透明なラードの膜で覆われた熱々の辛味噌ラーメンは、赤湯産唐辛子の「辛みそ」がスープの真ん中にどーんと鎮座しており、最初からスープ全体に溶けていないのが特徴だ。好みに応じて、少しずつ味変させながら食べるところも、人気の秘密と言えそうだ。白岩市長がこのラーメンについてこんなことを話してくれた。

 

「辛い味噌がちょうど真ん中に乗ってくるのですが、その辛味噌を全部溶かして一杯食べられるようになったら、大人になった証拠。まあ、通過儀礼ですよね。子どもには食べられないって」

子どもの頃から食べていないと出ない実体験に基づいたコメント。やはり、ラーメンは南陽市民のソウルフードなのだ。

さらに、白岩市長はこうも教えてくれた。
「それこそ昔は、中華、醤油、味噌、塩くらいでしたけど、担々麺もあれば、つけ麺もありますし、まぜそばも、台湾まぜそばなんかもありますからね。さらに、定食屋が作るラーメンや蕎麦屋のラーメンなど、まさに、百花繚乱、いろんなラーメンに出会える街ですから、是非、色々と試して行ってくださいね」

白岩市長もそう言ってくれていることだし、せっかくならもう一軒。龍上海から車で2分も走ると次の目的地、『いもせ食堂』へ到着。

暖簾を見ると、1962年創業の文字が。創業61年とは思えない綺麗な外観だったが、聞けば、同地で3度の改装を行い、3代続けて家族で食堂を営んでいるそうだ。食堂の名の通り、メニューはラーメン類をメインに、カツ丼、親子丼、中華丼、チャーハンなどのご飯ものが脇を固める、歴史ある麺食堂らしいラインナップ。早速、ご主人自慢のチャーシュー麺を注文することに。

チャーシュー麺

程なく運ばれてきたラーメンは、ご覧の通り。どんぶりから溢れんばかりの巨大なチャーシューが、どーんと4枚。麺がまったく見えない凄いボリュームだった。

自家製麺を、メニューによって3種類使い分けているこだわりよう。中太の麺はぷるぷる、もっちりした食感が堪らなかった。ご主人の奥さんが仕込んでいるという自慢のチャーシューは、臭みを取るために、煮込む前に何度も水で洗う。生姜とともに3時間半ほど時間をかけてじっくり煮込むそうだ。この厚みに切るのにも熟練の技が必要なのだとか。メンマも手作りで、乾燥メンマを水から炊いて、煮えたら水に戻す作業を34回繰り返す。これは、並大抵のラーメン屋で出来ることではない。

ランチ営業を終えたいもせ食堂の皆様を記念に

 

山形のラーメンは、古くから住民の間に出前の習慣が根付いていたこともあって、持ち運ぶ間に冷めないように表面をラードでコーティングしてあるモノが多い。時間が経っても冷めずに、最後まで熱々で食べることができる。

いもせ食堂では、配達に向かった先が田んぼのど真ん中、なんてことも珍しくないというほど、市民にとってラーメンを食べることが日常なのだろう。

さらに、都内のラーメン店などでは、普通盛りで平均150g程の麺の量だが、山形では180200gが平均の量なのだそう。「お腹一杯ラーメンを食べて、満足して帰ってもらう」、これがサービス精神旺盛で、おおらかな山形の県民性なのだ。

半信半疑でスタートした『南陽市ラーメン課プロジェクト』を、「いいぞ!いいぞ!」と、いつの間にか市民権を得るまでに成長させた白岩市長。

「田舎の人って、うちの街には何もないって言うじゃないですか。私、あれ大嫌いなんですよね。大人たちにとっては何もないかもしれませんが、その子どもたちにとっては、ラーメンがあるよとか、都会から来た人にとってみれば、いいものが一杯あるじゃないですか、となるわけです。そういう違った視点から地元を見れば、いくらでも観光資源って眠っているんですよね。」

確かに、2020年に突如世界を襲ったコロナ・ショック。感染拡大を防ぐために移動を自粛する習慣が根付き、各々の家や地域で過ごす人が増えた。

地域コミュニティで過ごす時間が増えると、地元の商店街で「こんなお店があったんだ!」と発見したり、いつもは通らない道を散歩して思わぬ史跡を見つけたり。それまで見落としていたような、小さな発見をした人は意外と多いはずだ。

地域に目が向きやすくなった昨今は、その魅力に気づく良い機会になる。魅力に気づけば地元に愛着が湧き、次第に「地域づくりに参加したい」と考える人も増えるかもしれない。

「まだこれは、どこにも言ってないし、具体化は全然してないんですけど、ラーメンってことだけでも、全国に目を向けてみれば、福島県の喜多方市とか栃木県の佐野市とか、いろいろな自治体があると思うんです。佐野市長とはちょっと喋っているのですが、そういった全国の小さい自治体同士が組んで、県を跨いで楽しめるようなラーメンスタンプラリーとかを、携帯アプリなどのデジタル技術を駆使して仕掛けていけると面白いかなと思っているんです。」

各地域をラーメンを食べるために巡る__きっと楽しい旅になるだろう。

 

南陽市ラーメン課 プロジェクト

平成26年度に市内中高生に実施したアンケートで、「市外、県外の人に教えてあげたい食べ物・名物は?」の問いに「ラーメン」との回答が多くあったことをきっかけに、「ラーメン」を主役としたまちづくりを図るべく、官民協働で行うプロジェクトとして、平成28年7月2日に「南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト」が発足。市外、県外の方に「南陽市=ラーメンの美味しいまち」として認知されることを目指し日々活動中。

南陽市みらい戦略課 企画調整係
TEL:0238-40-0248
http://www.city.nanyo.yamagata.jp/


取材・文/伊澤一臣 撮影/佐藤俊介

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