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島精機製作所の岩崎伸哉さん

継ぎ目のない立体的なニットを編み上げる「ホールガーメント®」で、ファッション界にイノベーションをもたらした島精機。「世の中に無いものを作る」という創業者、島 正博氏のフィロソフィーは脈々と受け継がれ、様々なプロジェクトが進行しています。今回紹介する再生紙糸「REPAC™ /リパク」も、そんな島精機のスピリットをベースに「古紙の新たな活用法&アパレル産業の環境負荷軽減」という2つの課題解決を目指して作られました。後編はいよいよ開発秘話に迫ります。

前編はこちら

島精機製作所のホールガーメント横編機

島精機がほこるホールガーメント®横編機。糸をいれてデザインを入力すれば、ニット服が一着丸ごと、ほぼ完成品の状態で出てくる魔法のような機械です。

今回のビギニン

島精機製作所の岩崎伸哉さん

岩崎伸哉さん

1992年生まれ。和歌山県出身。島精機製作所に入社して8年目。システムエンジニアとして編み機のソフトウェア開発に従事後、2020年、社内ベンチャーの取り組みとして、当時前例のなかったリサイクル紙を使う糸の開発プロジェクト「ReMateri®」に着手する。趣味は写真。商品の物撮りも手がけます。

Struggle:
白紙からのスタート

社内ベンチャー制度で提案した再生紙糸プロジェクトを推進することになった岩崎さんですが、開始当初はソフトエンジニアと兼業でした。

「プログラムの仕事が7、プロジェクトは3くらいの割合でやっていました。仕事柄、それまで名刺交換の経験も数えるくらいだったし、アポってどうやって取るの?って感じで。弊社に出入りしている回収業者さんにお願いしたり、近所のスーパーに訊ねたり。それで古紙回収しているヤードや再生紙の工場、紙の産地にも見学に伺いました」

牛乳パック
見慣れた牛乳パックを抄造(溶かして液状になった原料をすいて紙をつくる工程)すると再生パルプになります。

エンジニア業の傍ら、インターネットや書籍で資料を読み込み、時には現場へ足を運び情報を得る。地道なリサーチを続け、牛乳パックで糸を作るというアイデアに到達した岩崎さんですが、そもそも、どのような工程で紙は糸になるのでしょうか?

「まず、牛乳パックを溶かしてドロドロのおかゆ状にします。液体の中で繊維をほぐし、異物を取り除き精選したら抄紙──これは紙すきで和紙を作るのと同じ工程で、工場の場合、巨大なロール状の再生パルプが出来上がります。風合いは書道の半紙によく似ていて、それを数ミリ幅にカット、紙テープのようになったもの撚ると糸が完成します」

再生パルプを細長くカットしてロール状にしたもの
再生パルプを細長くカットしてロール状にしたものがこちら。紙テープのような感じです。

再生パルプを細長くカットしてロール状にしたもの
拡大する平らなのがわかります。半紙のような手触りです。これに撚りをかけると…

再生パルプからできた糸
糸になります。製品化の際は、ポリ乳酸で作られた糸や、綿糸と編み合わせて使われます。

再生紙糸REPAC(リパク)のロール
完成した再生紙糸「REPAC™ /リパク」のロール。

紙の世界は分業制。古紙から再生パルプを作る業者、カットする業者、紙を撚る業者とすべてが異なります。もちろん窓口も別なので、それぞれの担当者とやり取り。糸が完成して、もう少し強度が欲しいとなった場合、再び紙作りからやり直さなければなりません。

「ベースとなるパルプ紙の配合率、紙の厚み、切るときのスリット幅、糸を撚る回転数など、調整しなければならないパラメータが多くて難しかったです」

島精機製作所の岩崎伸哉さん
岩崎さんは、現在は開発本部 先端システム開発チームに所属しながらReMateri®プロジェクトリーダーを務める。

トライアル&エラーを経て、古紙100%の糸を使い機械編みに成功(世界初の快挙!)すると、糸作りは、着心地や機能性といった実用面での向上を目指す段階へ移行します。

「古紙だけだとどうしても繊維が弱いので、和紙の原料であるマニラ麻を混ぜたり。撚糸段階で強度と柔軟性を増すためポリ乳酸繊維を加えています」

じつは、着物などで使われる和紙糸には補強のためポリエステルやナイロンが入っています。品質向上には必要な原料ですが、化学繊維を使うとサスティナブルでなくなると考えた岩崎さん。代替え素材としてポリ乳酸という、とうもろこしなどから作られた、埋めると土に還る生分解性バイオマスプラスチックを採用しました。

「原料に混ぜるのではなく、編むときに、紙糸とポリ乳酸糸を2本合わせるイメージです。タオルなどを作る際は綿糸と編み合わせます。そのあたりはケースバイケース。紙糸単体でというよりは、製品に合わせて他の素材と組み合わせお互いの良さを引き出す感じですね」

Reach:
350ml紙パックをまるっと入れた靴下が完成

ReMateri リマテリの五本指ソックス
ホールガーメント®でしか編めないパーテーション構造で内部は5つに分割されている。脱いだときに指を一本づつ裏返さなくていいので、普通の5本指ソックスより断然快適。

1年半の開発期間を経て、古紙糸「REPAC™ /リパク」が完成。糸単体では特徴が伝わりにくいので製品化することに。タオルやバッグ、ニットキャップといったアイテムに並び、今回紹介する靴下が作られました。

「この靴下には350mlの紙パック1つ分の再生紙が入っています。具体的には再生紙とマニラ麻で作ったリサイクル糸60%とポリ乳酸繊維40%でできています。ソックスはつま先や踵部分に強い負荷がかかるので、外部機関で品質をチェック、摩擦試験もクリアして耐久性も十分です」

触るとカラッとしていて、履くと綿の靴下とは全く違う感覚。これは春夏シーズンにおける足元の新たな選択肢になりそうです。

「綿と比べて吸水性が段違いに高くさらっとした肌触りが続くので、1日履いても蒸れにくいです。紙は消臭効果もあり、コットンより軽いので、本当に靴下にぴったりの素材になったと思います。糸の比率を変えれば柔らかくすることも出来るんですが、足の裏って生地が硬くても気持ちいいんですよね。なので、あえてハードさを残しています。あとは、弊社のホールガーメント®で編んでいて、外から見たら普通のソックスですが、内側はパーテーション構造で5本指に分割されています。指を一本づつ裏返さなくていいので、素材と共に喜んでいただいています」

再生紙糸REPAC(リパク)の資料
再生紙糸「REPAC™ /リパク」の資料

今回のプロジェクトは、マテリアルを循環させるという意味で「ReMateri®」と名づけられていますが、岩崎さんは、今後どのような展開を考えているのでしょう?

「アパレル業界が環境課題に取り組まなければいけないという思いはどの企業さんもお持ちで、展示会ではのぞけばそういった製品を多く目にします。でも、まだまだそこに対して熱量が低い…なんとなくそういう雰囲気が漂っているように思うんです。そんななかでサスティナブルなものを作って売ろうとしてもなかなか成立しにくい。ただ世界に目を向けると、様々な事情を乗り越えてヨーロッパではSDGsが進んでいるし、日本も必ず後を追うだろうと。そうなったときのために準備をしておくのが私たちの仕事だと考えています。例えば、REPAC™のソックスには『350ミリ紙パック1本分のリサイクル紙が入ってます』と謳ってますが、それに加え、CO2排出量がどれくらい低減するかのデータも出しています。そうすることで、ReMateri®の糸を使えば具体的に環境負荷が減るとお客様に胸を張って言ってもらえる。そういうことが、今後、サスティナブル素材を使いやすい環境に繋がっていくと思っています」

ReMateri リマテリのニット帽とソックス
ReMateri®プロジェクトでは今後REPAC™の糸を使った様々な商品が登場予定。

ここでいうお客様はアパレル企業を意味しますが、その前段階として重要なのが、我々エンドユーザーにもたらされる意識の変化だと岩崎さんは続けます。

「リパクを見た人や、こうして取材いただいた記事を読まれた方が『牛乳パックをゴミに捨てていたけどリサイクルしよう』と行動されたら、それがSGDsに繋がるのかなと思っています。ReMateri®の活動ですごい利益を出してやろうとか、そういうことよりも、まず皆さんのきっかけになって、喜んでもらう。それが私たちが目指す狙いなんです」


同社が作成した紹介動画。製造工程もわかる。

牛乳パックから生まれた一本の糸がこれからどんな物語を紡いでいくのか、先が楽しみでなりません。今回のビギニンはここまで。最後に、紙パックはリサイクルへ!

ReMateri リマテリの五本指ソックス

牛乳パックからうまれた糸「REPAC™ /リパク」を(株)島精機製作所のホールガーメント®で編み上げた5本指ソックス1540円。一見、5本指ソックスに見えないが、内部がパーテーション構造で5本指に分かれているインビジブル設計。ホールガーメント®ならでは技術だ。紙の糸由来の高い吸水性と消臭性を持ち、綿よりも軽い。独特のサラシャリ感は春夏シーズンにぴったりだ。1足につき350mLの牛乳パックが約1本リサイクルされており、新しい紙を使うよりもCO2排出量を約8.0gも削減している。

(問)ReMateri®
https://remateri.com

※表示価格は税込み


写真/中島真美 文/森田哲徳

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