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第一紡績の紡績機

昨年、これまで展開してきた“やわらかソフトタッチ”とは正反対の“シャリ感のあるヘビーウェイト”な新シリーズ「DESERTCOT ASA®(デザートコット アーサ®)」シリーズをリリースした「IITO®」。素材を紹介するブランドとして、髙本さんとブランドチームは更なる挑戦を始めます。

選んだのは、吸水・速乾性に優れた素材「ASA®(アーサ®)」。結束紡績で紡ぎ出される綿糸で、第一紡績が世界で初めてその開発に成功しました。なぜ「ASA®」は綿100%なのに、吸水・速乾性に富んでいるのか。後半では、気になる「ASA®」の構造に迫ります。

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第一紡績 髙本崇史

第一紡績 髙本崇史

1995年、第一紡績に入社。生産管理、企画開発、営業などジャンルに縛られない職種を経験。その知見を活かし、現在は「売る側」と「作る側」の架け橋的な役目を担う製販コントローラーチームのユニット長として活躍中。プライベートではアウトドアに興味あり。

struggle:
合成繊維用の紡績機で作る綿100%の糸

第一紡績 髙本崇史

創業75周年を迎えた第一紡績は、これまで綿紡績にプライドを持って事業を成長させてきました。「ASA®」は、そんな同社の魂が産んだ努力の賜物。語り継がれてきた開発秘話を髙本さんが教えてくれました。

「およそ40年前に合成繊維専用の結束紡績機が世に登場しました。当社は差別化を図るため、この紡績機の改造に着手し、綿100%の糸の開発に乗り出したんです。『ASA®』を開発するには、綿素材のブレンド率の調整や紡績機の大幅なカスタマイズするなど、大変な苦労があったと聞いています」。

ASA アーサ

結束紡績ってなに? 頭に浮かんだハテナを解消するには、まず糸の種類を知ることから。改めて簡単におさらいしておきましょう。まず、製造方法で大別すると、フィラメント糸とスパン糸の2種類に分かれます。

フィラメント糸は、繊維の長さが長い化学繊維を原料とした糸です。長い繊維を束ねて、一本の糸を作るイメージを想像してみてください。一方、スパン糸は繊維の長さが短い、綿や麻を原料とした糸です。短い繊維の束に撚りをかけ、繊維同士を絡ませ合い一本の糸に紡いでいきます。

スパン糸の生産工程をチェック

スパン糸は糸を紡ぐ工程によっても、種類が分かれます。豊富な種類のなかでも一番メジャーなのがリング糸。粗糸(少し撚りをかけ、素材から紡いだだけの未加工の糸)を引き伸ばしながら撚りをかけ紡績します。現在、日本の市場に出回っている糸のおよそ90%以上を占めています。

リング紡績機粗糸がずらりとセットされたリング紡績機。ぐわんぐわんと工場内でも特に大きな音を立てて稼働している。あたりには繊維がふわりと漂い、身体中に繊維がまとわりつく。工場員さんは防護キャップやマスクを着用し、異物混入の恐れを防ぎながら作業。

もう一つ紹介したいのが、オープンエンド糸(OE糸)。リング糸は物理的な回転によって撚りをかけますが、OE糸は空気を送り込んだ時の流れによって撚りをかけます。さまざまな種類に分かれますが、概ねリング糸に比べてボリューミーでやや硬さのある糸に仕上がります。

第一紡績 髙本崇史

髙本さんの後ろに見える長いマシンが結束紡績機。世界に数台しか現存しないクラシックな紡績機で、稼働速度はスローペース。現在、新しいマシンに移行を検討中ですが、シャリッとした糸の風合いを再現するためにまだまだ調整が必要なんだそう。

そして、そんなOE糸の種類の一つ、結束紡績の技術を使って作られているのが「ASA®」。撚りをかけない“無撚平行繊維部分”と、その無撚平行繊維部分を軸にグルグル巻きつけ補強の役割を果たす“ラップ繊維部分”の2重構造の糸です。また、そのような構造で糸を紡ぐことを結束紡績といいます。

ASAの図解 二重構造の糸

では、なぜ綿100%で結束紡績を行うのが難しいのでしょうか。それは、空気の旋回によって無撚平行部分に繊維を巻き付けようとすると、マシンの構造上、綿の強度が足りずうまく巻きつかないため。“ラップ繊維部分”の巻きつけが十分でないと、仕上がる糸の品質も悪くなってしまいます。

結束紡績機
結束紡績を行うマシン。日々行う調整やメンテナンスに様々なノウハウが詰まっている。ちなみに、紡績場には作業員より整備士の方が多いんだとか。

その問題を打開したのは、やはり第一紡績が長年培ってきた技術と経験。アメリカ産、オーストラリア産など世界中の綿を企業秘密のレシピでブレンドするなど、原料から結束紡績に適した素材に変えました。他にはコーミングで落とすべき繊維の長さを調整したり、マシンのパフォーマンスが上がるように工場内の温度と湿度の管理を徹底して行ったり。当時から現在に至るまで「ASA®」のためのオーダーメイドの生産体制が敷かれています。

ASAの速乾性

「ASA®」の特徴は中心繊維が無撚状になっているおかげで獲得する優れた吸水・速乾性。水分の通り道ができやすいため、汗を素早く吸収し、さらに広げて拡散します。濡れたタオルを想像してみてください。脱水した後、ギュッと絞られた状態で干すより、広げて干す方が乾きが速いでしょう?

実際に一般的なリング糸に比べ、「ASA®」は4分の3の時間で乾いてしまいます。たった25%?と思うことなかれ。綿100%×結束紡績を実現できるのは、全国でも第一紡績くらい。なにしろ合成繊維専用の結束紡績機でコットン100%の糸を作っているんですから。

「約40年前、日本各地、さまざまな紡績メーカーがお試しで結束紡績機を工場に入れました。ですが、綿100%糸で紡績の量産を成功させたのは当社だけなんです。『うちは綿紡だ』って言って。この素材の魅力を伝えていくためにも、IITO®の新シリーズでTシャツを作りました」。

reach:
熊本・荒尾から世界へむけて

iitoのアーサ フットボールTシャツ

第一紡績の綿紡績にかける熱い思いが生んだ機能糸「ASA®」。タオルなどでの実績は十分ありますが、真価はまだまだこんなもんじゃない。可能性をくすぶらせていた魂の糸が、この6月、いよいよ世に放たれました。

「ASA®」で作られる生地は低接触で肌離れがよく、シャリッとした生地感が夏の素肌に気持ちがいい。街着としてはもちろん、アウトドアシーンにも最適です。Tシャツは身幅が広めのリラクシーなシルエットだから、休日のストレスフリーなマインドにもマッチ。まさにヘビロテ必至の夏TEEです。

「色は製品染めで表現しました。生地染めも検討しましたが、生地の性質上ペタッとした雰囲気になってしまうのでボツに。製品染めは立体感のある色合いに仕上がりますし、首元や裾の色落ち具合も楽しんでもらえると思います」。

iitoのアーサ フットボールTシャツ

「『ASA®』は40年以上作り続け、今も現役で当社を支えてくれている糸です。ですが、正直、『ASA®』だからといって消費者に買っていただいているかというと、なんとも言い切れません。今回発売したIITO®の新作Tシャツを通して、みなさんに改めて『ASA®』の魅力を知ってほしい。ひいては日本の素材づくりの技術が、世界でももっと認知が広まってほしいです」。

第一紡績 髙本崇史

IITO®はイギリス・ロンドンの高感度なセレクトショップでも取り扱い中。コロナ禍の苦境から抜け出そうとしている今、海外からポップアップの依頼も届いているんだとか。

熊本・荒尾から素材の魅力を世界へ。やや大袈裟かもしれませんが、IITO®がモデルケースとなって、コロナウイルスの影響で打撃を受けた日本のアパレル業界復活の糸口になることも期待してしまいます。なんてったって、“いい糸”で「IITO®(イイト®)」なんですから。

IITOのアーサ フットボールTシャツ

IITO® / ASA® BaseballTシャツ
「ASA®(アーサ®)」を採用した新シリーズの1着。シルエットはゆったりとしたベースボールTシャツがベース。裾をラウンドさせるなど、スッキリ着こなすための工夫もひかる。中肉厚のサラリとした肌離れのいい生地はアウトドアシーンにも最適だ。9900円(税込)
ビギンマーケットでも取り扱い中

IITOのピュアブリーズクルーネック半袖ポケット無

IITO® / PURE BREEZE® THE classic T
超長綿をこだわりの技術で甘撚りした、ブランドのアイコン的素材「PURE BREEZE®(ピュアブリーズ®)」を使用。綿100%でありながら、シルクのような滑らかで上品な肌触りを堪能できる。無駄なディテールを一切排除したデザインに、素材で勝負する意気込みが感じられる1枚。7590円(税込)
ビギンマーケットでも取り扱い中

(問)IITO
https://www.ichibo.jp/

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写真/松山タカヨシ 文/妹尾龍都

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