wook vol.11

納豆マガジン

最近「雑誌に元気がない」なんて話をよく耳にします。しかし紙媒体自体が衰退しているのかといえばそうでもなく、ジンやリトルプレスといった小規模出版はむしろ活況で、商業誌の枠に収まらない自由かつニッチな本が日々、刊行されています。背景には、印刷技術の発達や、SNSを経て個人で情報発信することが当たり前になった価値観の変化も見て取れます。今回は、そんな転換期にある紙メディアの世界で、おそらく史上初となる納豆専門誌を作ったビギニンをご紹介します。

『納豆マガジン』は、2021年2月2日、豆まきの日に発行された丸ごと納豆の雑誌です。「納豆の面白さをあらゆる角度から紹介していく」というコンセプトの元、『豆神7』という名の納豆グラビア、納豆をモチーフにしたアパレルブランドのスタイリングページ、専門誌らしい納豆工場見学など20以上の企画が、ほぼオールカラーの誌面に所狭しと掲載されています。そのほとんどを手がけるのが編集長の村上竜一さん。企画出し、取材先へのアポ、物撮り、原稿執筆まですべてを担い、東京、大阪で出版イベントを開催し、2022年7月10日(納豆の日)には待望の第2号「ひきわり特集」を発行(実際の発売は8月10日に延期となりましたが)するなど、粘り強〜く”納豆雑誌”シーンを開拓しています。

今回のビギニン

納豆マガジン編集長の村上竜一

村上竜一

1993年生まれ。広島出身。納豆マガジン編集長。神戸芸術工科大学のプロダクト・インテリアデザイン学科を卒業後、関西のファッション誌『カジカジ』で編集者として4年間勤務する。現在はフリーランスの編集チーム『STAND MAG』に所属。納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』を展開し、納豆イベント「なとぅ屋」を手がけるほか、神戸に古着屋『ロストバード』を出店。自身も雑誌モデルの仕事をしたりと多方面で活躍する29歳。

idea:
寿司屋で納豆のポテンシャルに気づく

納豆マガジン編集長の村上竜一

大学時代、講義にはあまり出ていなかったという村上さん。熱中したのはフリーペーパーの制作でした。

「知り合いを4〜5人集めてZINE(ジン)を作っていたんです。ご年配の方に声をかけて写真を撮らせてもらう。ファッション誌にあるストリートスナップのシニア版というか。僕自身が、お爺ちゃんお婆ちゃん好きで、お洒落な人って人生観が服にも表れるじゃないですか。なので写真を撮るだけじゃなく、その人が今まで何をしてきたかも伺って記事にしていました」

街ゆくお洒落なシルバー世代を芸大生が紹介するという内容、今やっても面白いと思います。さて、ファッション好きだった村上さんは、大学在学中にアルバイトとしてBEAMSで働き、卒業後は関西のファッションカルチャー誌『カジカジ』に編集者として入社。その時、何気なく訪れたお寿司屋で、納豆の魅力に目覚めます。

納豆マガジン編集長の村上竜一
胸についているのは納豆を模したブローチです。

「元々、納豆が特別好きってわけではなかったんです。きっかけは、僕『すしざんまい』によく行くんですが、いつも納豆巻き頼んでいて。ある時ふと、これ面白いなと思ったんです。コンビニにも根強く置いてあるじゃないですか。何食べようか迷ったら、とりあえず納豆巻きにしとけば間違いない(少なくとも僕は)。需要はあって食べ物としてのポテンシャルも高い。だけど看板にしてるお店がないなと。調べてみたら岩手に納豆巻きをメインにしてる寿司屋さんが一軒あっただけ。だったら、自分で何かやってみたら面白いことが起こるんじゃないかと閃いて。それで納豆のイベントを始めたんです。休日を使って、最初は自宅に友人を招待し、自家製の納豆巻きを振る舞いました。そこから徐々に規模を広げ、仕事でつながりのある古着屋さんにスペースをお借りしたりして、なんだかんだその活動は1年くらい続けました」

納豆アパレルブランド ネバネバビーンのアイテム
納豆マガジンより前に誕生した納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』のアイテム。『京納豆』のビックロゴTは大正12年創業の京都の納豆屋『藤原商店』とのコラボです。

突然、納豆イベントを始めた村上さんを不思議がる人もいたといいますが、反応は上々。時を同じくして、納豆アパレルブランド「ネバネバビーン」の構想も思いつき、友人知人向けにTシャツ制作を開始。編集の仕事と両立し、村上さんの納豆活動は、順調に認知度を上げていきました。そんななか、コロナの時代が始まります。

ネバネバビーン 京都・牛若納豆ロンT
取材時、村上さんが着用していた『ネバネバビーン』×京都・牛若納豆のロンT。バックプリントに牛若納豆のジャケット(パッケージ)がプリントされている。

trigger:
コロナで編集部が解散。納豆雑誌を作るために動く

納豆マガジン編集長の村上竜一

ファッション誌の編集者として日々仕事に励み、休日には納豆イベントに勤しんでいた村上さんでしたが、コロナの影響で思うような活動ができなくなります。

「でも、何か納豆に関する発信をしたいという気持ちは強くて。じつは、それまで食べ方のアレンジを考えていて納豆の種類をあまり知らなかったんです。だったらとりあえず食べてみようと思いインスタグラムで納豆レビューを始めました。毎日やろうと決め、50種類位までは正直どれも同じ味だなと感じつつアップしていたんです。すると徐々に違いがわかってきてこれは面白いぞと、さらに納豆にハマっていきました」

村上竜一さんがセレクトした納豆
イベントで村上さんが自身のレビューからセレクトした納豆。今回は大阪のメーカー中心でした。

2022年の8月コロナの影響で編集者を務めていた雑誌が休刊すると村上さんは会社を退職。それがトリガーとなって納豆マガジンが動き出します。

「次、就職するにしてもフリーで活動するにしても、何か形があった方が良いなと。失業手当がもらえる期間が半年ぐらいあったので、その時間を使ってZINE(ジン)を作ろうと思いました。ちょうどインスタのレビューも溜まってきていたし、最初はそれをまとめて、できる範囲でやろうかなぐらいの感じで考えていたんです。そんな時、京都へ行く用事があって、たまたま京都に住んでいる大学時代の知人が連絡をくれて食事をしたんですね。自然と近況報告になって、納豆雑誌の話をしたら、本当に偶然なんですが、その知人も個人の出版社を立ち上げてそれを株式化しようとしていて、ウチから出さないかと誘ってくれたんです。むちゃくちゃ良いタイミングでした」

藤原食品の京納豆
京都の納豆屋『藤原食品』の京納豆。スーパーだけでなく本屋や雑貨屋でも販売されています。「納豆マガジンとスタンスが似ています」と村上さん。

当初、名刺がわりに数ページの納豆ZINE(ジン)を作ろうと考えていた村上さんでしたが、この出会いにより、構想は納豆専門誌へとスケールアップします。しかし編集者は基本、村上さんだけ。たった一人でどうやって『納豆マガジン』は作られたのか。また村上さんが動かした雑誌の原体験とは? というわけで、後編へと続きます。

後編:これは行きたい!! その名も「粘覧会(ねばらんかい)」 に続く

納豆マガジン
関西のファッション誌『カジカジ』の編集者だった村上竜一氏が手がけるたぶん本邦初の納豆専門誌。納豆をかっこよく見せるグラビアページ『豆神7』に始まり、納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』のスタイリングから、気になる納豆、メーカー&ショップ紹介、美味しい食べ方、工場見学、小説、漫画、アート、納豆を追い求めて編集長自ら日本全国を旅する紀行文などなど、村上さんが誌面のほぼ全てを担当した納豆愛あふれる一冊。8月10日に第2号「ひきわり特集」を発売。発行は京都の出版社『さりげなく』。

(問)納豆マガジン
https://nnbean.stores.jp/

納豆マガジンvol.2出版記念イベント『粘覧会』
期間:2022年8月17日〜26日
場所:大阪「NU茶屋町」
納豆マガジンの最新号はもちろんのこと、希少なご当地納豆、ネバネバビーンのアパレル・雑貨も購入できる。納豆フォトスポット、納豆グラビアの展示も。
最新情報は公式インスタグラムからチェック⇒@mikaramura_natto



写真/中島真美 文/森田哲徳

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