千葉県・南房総で日本一のラム酒を作る! 世界も認めた暴走注意⁉の房総ラム[後編]【ビギニン#47】
今回は、サトウキビが育つ最北端の地、千葉県南房総市で東日本唯一のラムの蒸留所「房総大井倉蒸溜所」の代表、青木大成さんが主人公。サトウキビ生産からラムの製造まで一貫して行うまでのストーリーをお届けします。前半ではサトウキビを育てるようになったきっかけまで。後半では、ラムの開発秘話に迫ります。
今回のビギニン
ペナシュール房総 代表 青木大成さん
1973年生まれ。東京でナイトバーの店長や音楽レーベルの立ち上げをした後、2006年に地元の千葉県南房総市にUターン。南房総市で3代続く寿司割烹店「ちどり」の代表を務めるかたわら、2021年8月にペナシュール房総株式会社を創業。
Struggle:
改めて痛感した自然栽培の難しさ
ただいま酒業界では「オーガニック」がトレンドワード。農薬や化学肥料に頼るのではなく、太陽、水、土地、それから生物など自然の恵みを生かした農法で素材を育てて、それを原料にしたワインやビール、日本酒が注目を集めています。
「房総大井倉蒸溜所」のラムも、もちろんオーガニック。原料となるサトウキビは、「房総環境活用農法」と名付けた独自の農法で自然栽培します。
土壌はサトウキビのよく育つ弱酸性にキープ。肥料も地元で取れる天然のもの。例えば知り合いの酪農家からもらった堆肥や、自家製ラムの製造で排出される蒸留廃液、海岸に打ち上がる海藻など。雑草が生えたら、除草剤を撒かないで、手刈りで処理します。サトウキビは収穫時期になると全長2〜3メートルの高さになり、収穫するだけでも一苦労ですが、「房総大井倉蒸溜所」ではサッカーコート2面分くらいのサトウキビを鋸や鉈で刈り取ります。
「ラムは香りが命。南房総の地域環境を活かしながらサトウキビを育てることで、結果的に出来上がるラムに地元の匂いがつくんですよね」
事業を大きくするには機械化は必須。日本で使われている大型農機具の導入を検討するも、小規模農業のスタイルが多い南房総は畑の側道がとても狭く、ほとんど舗装も行き届いていない状況で物理的に使えません。
「収穫後に葉をむしり取るマシンは、わざわざ中国から取り寄せたのですが、届いたらエンジンがかからない。やっと使えたかと思ったらスタッフがマシンで大怪我をしちゃって(汗)」
また、青木さんの農業で特別なポイントは独自の自然栽培だけにあらず。通常、日本ではサトウキビは製糖目的で生産するケースがほとんどですが、青木さんの場合は国内で唯一、ラム作りに特化したサトウキビを育てています。
「感覚的に近いのはフランスのナチュールワインの作り方。ブドウ畑の土壌管理から徹底的にこだわるワイナリーの本を読んで、ラム作りでも参考にしました」
2019年から2022年までの収穫量は、年間で一反あたり約3~5トン。これは、自家製のサトウキビジュース100%のラムを約200本分ほどの収穫量です。
サトウキビを収穫すると、早速ラム作り。独学で得た知識をフル活用すると、少量ならすんなり完成して、現場は大歓喜!
「素人集団の自分たちでも、いいラムを作れるんだっていうのが驚きでしたね。テンションが上がったメンバーたちが、いいラム作りのための機械をどんどん家に持ってくるようになって(笑)」
「みんなで朝からラムを試飲して、そのままバーベキューをしたり、『俺たちの目指しているラムが作れた!この味を忘れないでいよう!!』って言って試飲を始めると、いつの間にかボトルを開けちゃったりしてね。開発中はみんな暴走気味でした(笑)」
Reach:
設備も増築し量産に成功! 目標は海外へ
2019年に仲間内で始まったラム酒作りは、徐々に事業を拡大する機運が高まっていよいよ量産体制へ。2022年には、元々空き家となっていた親戚の古民家をリノベーションして、蒸留所を構えました。
カギを握るのが、写真の蒸留機。ハイブリッド式で、モロミ(蒸留させたい材料)の風味を豊かに残せる単式と、高アルコール度数のお酒を効率的に作れる連続式の2種類の蒸留方法に対応します。容量は500リットルで、こちらを使いこなすことでラムの量産に成功!
「房総大井倉蒸溜所」のラムの作り方は、大きく分けて3種類あります。そのうち1番クラシックなのは、モラセス(サトウキビを製糖した後の残り汁。廃糖蜜ともいう)を蒸留させる「トラディショナル」式です。三角貿易時代から今も続く製法で、流通しているラムの9割がモラセスを原材料として出来上がっています。
モラセスに加水して発酵させると、大体アルコール度数が7%〜10%ぐらいのもろみになります。ラムは、それを蒸留機の釜に入れて加温し、水より沸点の低いアルコールだけを気化し、その水蒸気を冷やして液体にしたものです。「房総大井倉蒸溜所」のラムをカジュアルに楽しみたいなら、この方式で蒸留された「フルールブラン」がおすすめ! 原料に使用しているモラセスは入手困難な国産品で、お手頃なプライスでありながら、独特の甘い香りがふわっと香る華やかな味わいです。
そして、2つ目は原材料のモラセスに、「フルールブラン」に酒税法のスピリッツのカテゴリーに許容される量を添加したタイプを「房総大井倉蒸溜所」では「フルールメラス」と名付けており、芳醇な香りとふくよかな甘味が感じられます。
3つ目が、サトウキビから搾り取ったジュースだけを発酵して蒸留する「アグリコール式」です。最初の正規品として2023年8月にリリースしたフラッグシップモデル「ソレイユブラン」では、自分たちで育てたラム専用のサトウキビジュース100%を原料に使用しています。蒸留する時は、ハイブリッド蒸留機とサトウキビ生産メンバーに設計して作ってもらった単式蒸留機の2台を使い分けて、フレッシュなサトウキビジュースの風味を残しながら製造します。
廃糖蜜を使わず、純度100%のサトウキビジュースで作るアグリコールラムは、世界中のラムの中でも約10%しかないほど珍しいお酒。加えて国産となると希少性はさらに上がり、「ソレイユブラン」は販売開始から20日間で在庫の1000本が完売!
その魅力は、やはり香り。ひと舐めすると、口の中にフルーティーな味わいが広がり、鼻から爽やかに香りが抜けます。蒸留直後のアグリコールラムは、なんとアルコール度数65度。喉がカァ〜っと熱くなる危険なテイスト!! サトウキビ収穫期間のみで生産される限定商品です。
「ソレイユブランができたときは、ラムの専門家からたくさんの反響をいただきました。生産規模を大きくすると品質が落ちないか心配していましたが、小規模で開発していた時の満足のいく出来を、そのまま引き継げたので一安心ですね。あぁ〜良かったと、チームの仲間と胸を撫で下ろしました」
ジャマイカ秘伝のラムも仕込み中⁉︎
ラムへの飽くなき探究心から、青木さんはジャマイカなどカリブの一部地域で製造される秘伝のラムの開発を進行中。世界でも数か所でしか作られておらず、レシピは門外不出。かなり強いエステル香が鼻を刺激するキョーレツなラムです。
「温暖な気候と発酵した果物など、それに蒸留廃液を掛け合わせるとかなんとか。ずっと研究を続けていて、今一つ不安定だったので、千葉大学の生物学の教授に直談判して協力を要請したんです。そしたら、これは私の使命だとか言ってノリよく引き受けてくれて。発売は2024年2月ごろで現在予約販売中なので、ラム好きの皆さんは乞うご期待!」
蒸留所の敷地内にある蔵では、自家製の様々なタイプのラムを熟成しています。現地では、トロピカルエイジングといって暖かい日差しの中でラムを熟成させますが、その方法だと揮発しちゃって量も減ってしまうので、長期熟成が難しい。青木さんはそれを克服するために、使われなくなった蔵をスコットランドの伝統的なダンネージ式熟成庫をイメージして整えて、そこで木樽に入れたラムを寝かせています。
ダンネージ式熟成庫の特徴をそのまま採用した、石造りの壁と土が剥き出しの床。食材を保管するための昔ながらの知恵が凝縮した造りで、気温に左右されず庫内の温度を自動的に一定に保ちます。今、蔵で熟成しているのは1年目。どんなテイストになるのか。青木さんも楽しみに待っているんだそう。
「ヨーロッパでは日本よりもラムはポピュラーなお酒なんです。イギリスではウイスキーの消費量をラムが超えました。やっぱり、『パイレーツ オブ カリビアン』の影響が大きいのかな。若い世代の中でとても人気なんだそうです。おかげさまで、うちもなんとか軌道に乗ってきたので、せっかくならパリ五輪に合わせて海外進出を狙いたいですね」
自社農園で育てたサトウキビを100%使用して仕込んだ、ブランドを代表するアグリコールラム。サトウキビ収穫期間のみで生産される限定生産。700ml。Alc59%。7700円。2024年7月発売予定。ほか「BOSO Rhum blanc Fleur -花-」「BOSO Rhum Fleur -花- Contient de la mélasse」は発売中。それぞれ700ml。Alc40%。3960円。
(問)房総大井倉蒸溜所
https://rhumboso.com/
※表示価格は税込みです
写真/丸益功紀(BOIL) 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Beginデジタル)