千葉県・南房総で日本一のラム酒を作る! 世界も認めた暴走注意⁉の房総ラム[前編]【ビギニン#47】

生活を便利に一変させたアレも、かつてない楽しさを提供してくれたコレも、すべてのモノには始まりがあり。本連載「ビギニン」は、時代のニーズや変化を捉えた前代未聞の優れモノを“Beginした人”を訪ね、深層に迫る企画です。

今回の舞台はサトウキビが育つ最北端の地、千葉県南房総市。東日本唯一のラムの蒸留所「房総大井倉蒸溜所」で、サトウキビ生産からラムの製造まで一貫して行う、青木さんをご紹介します。暴走注意!?の開発秘話は、酒好き必読の内容です!!

今回のビギニン

ペナシュール房総 代表 青木大成さん

1973年生まれ。東京でナイトバーの店長や音楽レーベルの立ち上げをした後、2006年に地元の千葉県南房総市にUターン。南房総市で3代続く寿司割烹店「ちどり」の代表を務めるかたわら、2021年8月にペナシュール房総株式会社を創業。

Idea:
都会の喧騒を離れて見つめなおした「地元で何ができるか?」

青木さんはラジオパーソナリティーやインディーズレーベルの運営など、都内でマルチワークで幅広いキャリアを積んできました。ラム作りにつながっているのは、新宿にあるナイトクラブの店長経験。とはいっても当時はウイスキー派で、ラムには特別な思い入れはなかったんだとか。

「酒に囲まれた生活だったので、自然とお酒の造り方には興味を持つようになりました。自家製ワインの作り方とかウイスキーの糖化のさせ方とかね」

東京に住んで15年のタイミングで、青木さんは地元にUターン。戦後から続く家業の寿司割烹店を継承し、料理の修行をしながら漁師として働くように。青木さんのラム作りストーリーは、ここから動き始めます。

「地元に呑める店がないなって思って、7年くらい前にリノベーションした別館にバーを作ったんです。そしたら、地元の酒好きがたくさん集まってきてくれてね。酔っ払ったテンションで、南房総のサトウキビ栽培を復活させてラムを作ろう、という話をしてみたら意外と盛り上がったんですよ」

サトウキビの生産が正式に行われるようになったのは、江戸時代のこと。当時世界商品となっていた砂糖を日本でも生産しようと幕府が令を出し、温暖な地域での栽培が奨励されました。現代では沖縄が一大産地として頭に思い浮かびますが、南房総で本格的に栽培が始まったのは戦後から。千葉県南房総市では昭和50年くらいまで各家庭で育てていたサトウキビ畑が広がっており、原風景として地元民の心に残っています。

「子どもの頃は近所のさとうきび畑に行って、おやつ代わりに茎をかじっていたそうで、僕も小学校時代に友達にかじらせてもらったことがありますよ。ラムを作り始めたのは、そんな昔の風景を、もう一度蘇らせたいという思いもありました」

ちなみに、ラム発祥の地はカリブ海。16世紀後半の三角貿易時代に生産が拡大し、サトウキビを育てる奴隷たちの飲み物として利用されていた一面もあります。

Trigger:
南房総ならかなりいいサトウキビができる!と確信

サトウキビを育てて、自家製のラムを呑みたい! そんな仲間内での戯言が噂になって、2018年のとある日、地元の高齢者で構成された「南総サトウキビ生産の会」が誘いにやってきます。ただの妄想話だったはずのラム作りが急に現実味を帯び始めた出来事でした。

「一緒にサトウキビを育てようって仲間に誘ってもらったんですよ。初めて育てたサトウキビは、予想を遥かに超えて大きくなったんです。しかも、汁を絞ってジュースにしてみると、糖度がとっても高い!」

2019年3月から試験栽培を開始

南房総の気候はとても温暖。太平洋沿いのエリアで、暖流の⿊潮が沖合を流れる影響を受けるため、真冬でも霜が降りません。その温かさは、早春から花が咲き始めるほど。サトウキビを育てるには、とても適した環境だったのです。

「サトウキビから取れる搾汁液(ジュース)の一般的な糖度は18度くらいなんですが、うちのは22度くらいあったんです。糖度が高ければ高いほど、アルコールはよく取れるので、酒を作るにはうってつけでした。しかも、海に囲まれた南房総は土壌にミネラルやビタミンが豊富。自然農法で十分に育てられるので、香り高いラムが出来ることがわかりました」

発酵させたシロップ

2019年からスタートし、順調に見えた初めてのサトウキビ作りでしたが、ほどなく上陸した台風19号のために状況は一変。暴風雨によって、南房総も大きな被害を被ってしまいました。荒れに荒れてしまった漁場の片付けに、青木さんは忙しく走り回り、サトウキビ栽培へのモチベーションがすっかりなくなってしまいました。

「畑にサトウキビの様子を見に行ったら、やっぱり薙ぎ倒されていてね。ただ、茎が曲がっていてもサトウキビは空に向かって伸びていたんです。そんなサトウキビの姿を見てとても勇気をもらったし、もう一度真面目に取り組めば産業として地域に定着し、地元に貢献できるかもしれないとやる気が湧いてきたんです」

台風で倒れたサトウキビ

「ラム製造を事業化します!」と、勢い余った青木さんはSNSに将来の展望を宣言しました。すると協力者がさらに増えて、その中の一人に千葉県主催のビジネスコンテストに推薦されます。そして、2021年1月に行われたファイナルプレゼンテーションでは、最高賞であるちば起業家大賞と協賛企業5社からサポーター賞を獲得!

「ラムを作れるかどうかわかんなかったけど、なんとなく企画書だけは作っていたんですよね。だから、なんとか間に合ったけど、準備期間が一週間しかなくってね(笑)。大変だったけど、大賞を受賞できてよかったです」

ビジネスコンテストの大賞を受賞したことにより、銀行からの融資を受けることに成功。鬼門だった資金調達もスムーズにまとまり、いよいよラムを作る環境を整えていきます。

「サトウキビを育てよう。じゃ次は、シロップを作ってみよう。機械も手に入りそうだし、ちょっとだけ酵母も採取しちゃう?みたいな感じで、うまくスタートダッシュが切れたようにも思えたんですが、それは試験的に小規模でやっていたからというのもあって。いざサトウキビを育ててラム酒を量産していく、というサイクルに繋げるまではなかなか大変だったんですよね(笑)」

後編:サトウキビ栽培に素人知識で挑戦! 厄介ごとだらけの自然栽培の先には極上のラム酒が に続く

BOSO Rhum Agricole blanc Soleil – 太陽- 2023
自社農園で育てたサトウキビを100%使用して仕込んだ、ブランドを代表するアグリコールラム。サトウキビ収穫期間のみで生産される限定生産。700ml。Alc59%。7700円。2024年7月発売予定。ほか「BOSO Rhum blanc Fleur -花-」「BOSO Rhum Fleur -花- Contient de la mélasse」は発売中。それぞれ700ml。Alc40%。3960円。

(問)房総大井倉蒸溜所
https://rhumboso.com/

※表示価格は税込みです


写真/丸益功紀(BOIL) 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Beginデジタル)

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