台所でできるアップサイクル。草木染めを広めるビギニン[後編]【ビギニン#44】

草木染め

子育てがきっかけで草木染めにハマった山里歩美さん。幼稚園に入る前の娘さんと近隣を散歩し植物を採取、独学で草木染めの知識を蓄え、数年が経ったある日、噂を聞きつけた知り合いから夏休みの地域イベントに誘われてワークショップを開きます。親子で草木染めを楽しめる内容が人気を呼び、次々と開催依頼が舞い込むように。ご主人の山里章悟さんのサポートで「WUY」の名前を掲げ、染師として本格的な活動を開始します。

前編はこちら

今回のビギニン

山里 歩美さん

WUY 山里 歩美さん

兵庫県三田市出身。染師。2児の母。夫の山里章悟さんと、従兄弟の福村真司さんの3人で「やりたいことをやりたいときにやりたいだけ。みんなができる世の中作り」を理念に、マネージメントコンサルタント、オリジナルプロダクトの開発、WEBページ制作・運用、グラフィックデザイン、イベント企画などを手掛ける株式会社COSHUUとして活動。同社の草木染めブランド「WUY」で、衣類の染め直しサービス「Re:染め」や、染めが簡単に体験できる「染料キット」を提供。草木染めのカルチャーを広める。学生時代は幼児教育を学び、プライベートでも子供好き。友達のママが仕事で忙しい時はお子さんを預かっているそう。

Struggle:
草木染めを広めるために

プロジェクト「popai」で収穫されたインディゴ
歩美さんが大阪府の農家さんに栽培を依頼したことで始まった大阪産の藍を育てるプロジェクト「popai」で収穫されたインディゴ。

染師の活動してく中で、昔のように家庭で服を染め直す人が増えたら良いと考えた歩美さんは、そのきっかけになる取り組みに着手します。

歩美さん「私自身、草木染めがもともと台所仕事だったことに感動したので、誰でも簡単にできる点を伝えたいと考えていますが、まずはワークショップに来れない方にも草木染めの良さを知ってもらいたい。それで始めたのが『Re:染め』です」

章悟さん「今から7〜8年前、歩美が『WUY』として草木染めを始め、しばらく経ったタイミングで、ワークショップ中に、売り物はないんですかって声を掛けてもらうことが増えてきたんです。そんなとき、工房のある大阪府和泉市商工会が、地元の素材や技術を使った品を募集し『いずみ印』という認定を与える事業を行っていて。それを聞き、古着の染め替えをひらめいたんです。プレゼンしたら登録して貰えることになり、そこから本格的に『Re:染め』をスタートしました」

「Re:染め」は、コットン・リネン・ウール・シルクの100%天然繊維で作られたアイテムをWUYが草木染めで染め直しくれるサービス。郵送に対応し、エプロンやユニフォームといった仕事着から、Tシャツ・スウェットなどのカジュアル服、シーツや暖簾のような布類まで、幅広く利用されています。

Re:染めで蘇った古着
「Re:染め」で蘇った古着。

歩美さん「ラックに並んでいるのは全て『Re:染め』でお預かりした物です。黄ばみやシミもキレイになりますし、ボーダーやチェック、プリントも染められます」

草木染めの材料に用いられる植物は日本だけで300種類以上あり、使う部分や時期によっても色が変化するため、商品を預かる前にヒアリングが行われるそう。

歩美さん「希望の色みはお伺いするんですが、季節だったり、収穫した場所の違いで染めに幅が出ることはご了承いただいています。ただ最近はあまり色にこだわらず、この植物を使って染めてほしいと言う方も多いんですよ。植物が持つ効能だったり、その植物が好きだったり、その植物に関わる仕事をされていたり。先日は、チャイのお店から廃棄される出がらしの茶葉を使ってユニホームを染め直したいというご依頼を頂きました」

染料に利用する玉ねぎ

他にも廃棄される玉ねぎの皮や、ワインの生産時に出る絞りカスを染料に利用するなど、アップサイクルの視点も自ずとプラスされています。また、草木染めと聞いて淡い色合いをイメージする方も多いと思いますが、WUYの工房で染められた服は鮮やかで印象が覆されます。

濃色に染められた糸
濃色に染められた糸

章悟さん「そこは大事にしているポイントです。最初は淡いカラーだったんですが、歩美が研究を重ねどんどん濃い色を出せるようになってきたんです。その辺は強みだと思います。ブラックも染められるんですが、草木で黒を出すのって難しいんですよ」

歩美さん「濃い色を出す時は、染めを重ねています。1回の染液で染めれる限度があるので、別の植物と調合して色を作るんですが、染め重ねる回数が多いほど、時間がかかり、染料も沢山使うため工賃が上がります。オーダー頂いてご希望の色に合わせるという仕事も受けていますが、それとは別軸で、草木染めはみんなが簡単に出来ることも伝えたくて、自宅で出来る染料キットを作りました」

NATURAL PLANT DYEING KIT
WUYがプロデュースした染色キット。こちらのカラーはグレーで、ユーカリ、ビワ、マリーゴールド、ローズマリー、ラベンダーが入ってます。媒染液はアルミ。1箱で男性用のロンTがしっかり染められます。

ジップロックに染料となる植物素材と媒染剤を入れワークショップで販売を開始。そこから徐々にブラッシュアップし、現在オンラインショップでは、全7色(ピンク、パープル、ブラウン、グレイ、カーキ、イエロー、チャコールグレイ)のWUYオリジナル染料キットが販売中です。

歩美さん「みんなに台所で草木染めをトライしてもらうのがゴールなので、初めての人でも満足度が上がるよう、染めやすく発色の良い植物をチョイスし、レシピ(説明書)も、なるべくシンプルな言葉で説明するよう心がけました」

レシピのデザイン
レシピのデザインは章悟さんが担当。

染料キットは男性の購入者も多く、ブラウンやグレーといったダークトーンが人気だそう。

歩美さん「基本的に女性メインですが、ガーッとはまるのは男性の方だったりしますね。ジーンズを育てる感じで、お気に入りのアイテムを染め直して自分の色に仕上げていくような楽しみ方をされているんだと思います。あと暗い色は樹皮系の染料を使うんですが、表面をコーティングして生地を硬くしっかり仕上げる効果があるんです。そういった点も好まれるポイントですね。最近はワークショップにも男性の参加者が増えていてすごく嬉しいです」

Reach:
物を作って売るだけでなく、文化を伝えたい。

福村真司(左)さんと山里章悟さん
WUYのPRを担当する福村真司(左)さんと山里章悟さん。同じ1983年生まれ。

ワークショップで草木染めを体験した人は家でもやってみようとなりますが、未経験の人は、染色キットを見かけても自分で挑戦するまでは行かない、それがこれからの課題だといいます。

歩美さん「動画を制作して、それを見ながら一緒にやってもらえるようなアプローチを考えています」

章悟さん「あとは、もう少し価格を抑えたアイテムを考えています。今は素材がわかるよう乾燥させた花や葉っぱをそのままの形状で封入しています。見栄えは良いんですが、これだと体積を取ってしまう。砕いて粉状にしたらサイズが抑えられ値段も下げられるんです。草木染めってぼくたちの回りでは、やったほうがいいよねとなってるんですが、大きい枠で見ると、まだまだ一部の広がりでしかありません。マスに届けるにはどうすればいいかは常に考えているし、ただ物を作って売るのではなく、一緒に文化を伝えていきたい。事業として今後どのように展開していくか、マネタイズも含めて試行錯誤ですね」

章悟さんは「WUY」と並行しスタートアップ事業を個人で行っていましたが、2019年に株式会社COSHUUとして法人化。その後、山里歩美さんの従兄弟で、企画やプランナーを担う福村真司さんが加わり、現在は3人で活動しています。

章悟さん「3人でやっていますが、一般的な会社のイメージと違ってプロジェクト毎にいろんな人が関わる形をとっています。仕事上、会社があれば便利というだけで。『COSHUU』という名前は、漢字で書くと『個衆』なんです。日本は大衆文化という1つの台風の目みたいなものを中心に流行がうねっていた。それに対し、今後は個が必要に合わせ衆を生み出していく。個人がそれぞれやりたいタイミングで必要な人と接続できる時代になればと思っています。『WUY』も染めを通じて、やりたいことができる暮らしの提案をしているんです」

COSHUUの3人

草木染めが植物と鉱物(媒染剤)の組み合わせで無限のカラーを表現するごとく、COSHUUの3人がこれから多様な個性と混じり合い、どんな色を生み出していくのかにも注目です。

NATURAL PLANT DYEING KIT

NATURAL PLANT DYEING KIT
ご自宅で草木染めが楽しめるWUYオリジナルの染料キット。レシピに沿って自宅のキッチンやお風呂場で簡単に草木染めを体験できる。1箱でカットソー1枚分(200g)程度が染められます。植物染料20%以上含まれていれば草木染めを謳えるそうだが、こちらは植物染料100%の染液で染めることができる。5500円。

(問)WUY
https://wuy.stores.jp

※表示価格は税込みです


写真/中島真美 文/森田哲徳

Begin Recommend

facebook facebook WEAR_ロゴ