好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
潔く無駄を省いた デザインと機能性
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
機能があまり表に出ない、ミニマルデザイン
以前カセットテープの音源を集めていた時期があったんですが、そもそも聴ける環境がないなと気付きまして(笑)。メディアがカセットテープなら再生する機械の音だけよくてもしょうがないから、国産のミニコンポとかでいい感じのものがあれば…と思っていた矢先に訪れた骨董市で出会ったのがコレ。バング&オルフセンのラジカセです。
テープはひとつしか入らないからダビングはできないけど、ラジオが聴けて外部入力もできるみたい。機能的にはそこそこちゃんとしているんですが、それが表にあんまり出てこないデザインですごくミニマルだし、建築みたいな感じもして格好いい。
とは言え85年当時の定価で10万円くらいしたそうで、商業的には成功しなかったみたいです。ディーター・ラムスのブラウンにしてもそうだけど、こういう電化製品とデザインとのマッチングって、間に埋もれやすいんでしょうね。オーディオとしてすごく高性能でもなければ、インテリア好きにとっては微妙に値段が高くて、というふうに。
でもその分、タマ数も少ないから後々伝説的な存在になったりもしそうだし、古具としては狙い目かも。それに、懐かしい音楽をこの音質で聴くのも、意外と悪くないんですよ。ギターがいい感じに鳴いてたりして(笑)、なんだかメランコリックな気持ちになれる。自分で作ったミックステープに、文字を書いたシールを貼ってたあのときが蘇ります。思い出すと、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。
「ローファイと 美が生む後世の 高配当」
BRAND:Bang & Olufsen
ITEM:Boom box
AGE:1980s
持ち手は全体のフレーム的な役割も兼ねていてヘアライン仕上げのメタルプレートが角ばったフォルムを強調。ブランドロゴはその上部右端に控えめにあしらわれている。
DETAIL
半円、直線、三角形と幾何学的な要素が、シンプルな設計の中にぎゅっと詰め込まれている。そんなフォルムのコーナーへの収まりのよさはこの通り。座面にはクッション性あり。
好事家
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年1月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘