好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
美意識、先鋭性、そしてパワー。すべてが詰まったモードのバイブル
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
後の世に残るのがどういうものかを考えさせられる
『Six』はコム デ ギャルソンが1988年から1991年までの間に発行していたビジュアルブックのシリーズ。1号目から競合でもある山本耀司さんにインタビューをしていたり、アイリーン・グレイが出ていたりととてつもない顔ぶれで、写真家のマーク・ボスウィックもすでにフィーチャーされていたりと圧巻の内容。当時の時代感を知る上でも重要な資料だと思います。
インターネットが世界中に繋がってから、紙媒体が持つ価値みたいなものが問われていますよね。苦言を呈すようだけど、すぐ捨てられる、簡単に消費されるような紙媒体なら作る意味はないんじゃないかという気持ちがあって。『Six』を作っているとき、川久保 玲さんに"これが後年価値を持つはずだから" なんていう考えはきっとなかったと思います。
売るためでもなく、ただただ服だけでは語れないブランドの色を伝えるための自己表現。でも、この当時にしかできなかったことが詰まっているし、本としてのデザインや装丁、経年によるオーラもものすごい。そういうものがあるから、"所有したい"と思わせてくれる。希少性だけじゃなく、後の世に残るのがどういうものなのかを考えさせられるし、ブランドもお店もそういうものを作らなきゃなと、改めて思わされます。
なんて言いつつ、手元にあるのはほぼ未開封。もったいなくて開けられなくて、実は全貌はまだ見られていないんです。誰か中身、見せてくれないかなぁ(笑)。(南 貴之)
「紙廃れ 褪せても死なぬ こころざし」
BRAND:COMME des GARÇONS
ITEM:BOOK
AGE:1988〜1991年
シリーズは全8冊、当時の顧客や関係者に向けて配布されたもので、販売はされていなかったそう。A3よりも少しだけ小さい大きめの判型で、専用のビニール製スリーブに収められている。3万1900円(ギャラリー85.4)
DETAIL
さまざまな分野の世界的巨匠たちやその作品が登場する誌面。価格など、自社の洋服の直接的な販促につながる要素は排除され、ただクリエイティビティのみが集約されている。
好事家
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2022年11月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘