残っていくのは、デザイナーの意図が反映されたもの
今回取り上げたのは、ワシリーチェア。この連載では2回目になるマルセル・ブロイヤーのデザインです。今では当たり前になったスチールパイプと張り地でイスを作るということを初めて行ったのがこの人だといわれていて、オリジナルは1925年に発表されています。
数社を経て今もノル社が生産しているモデルですが、個人的に思い入れが強いのが今はなきイタリアのガヴィナ社製のもの。何でも、聞くところによるとブロイヤーさんと社長のガヴィナさんが相当やりとりを重ねて生産していたそうで、確かに他のメーカーのものとは少し佇まいが違う気がするんです。
ワシリーチェアに限らず、現代だと意匠権が切れた名作家具を“ジェネリック”と呼んで安価で再生産して販売している場合もありますが、正直微妙なものも少なくないんです。やっぱり、100年、200年というふうに残っていくのは、デザイナーの意図がきっちり反映されたもののはず。
その部分で、やっぱり古くてもこういうふうに作りがしっかりしたものを買うべきだと僕は思います。現行のノルももちろんいいし、ガヴィナはそんなエピソードを聞いたぶん、僕にとってはさらに魅力的(笑)。
そうそう、今ではすごく好きなこのワシリーチェアですが、昔は“’80年代バブリー”な場所でよく見かけるイメージがあって正直苦手でした。今も定番の黒より茶色に惹かれるのは、そのとき感じた艶っぽさへの抵抗の表れなのかもしれません(笑)。(南 貴之)
「なきガヴィ 作り手の意志 これにあり」
BRAND:GAVINA
ITEM:Wassily Lounge Chair
AGE:1960s
当時革新的だった構造は、自転車のフレームから着想を得たもの。発表当時にこの呼称はなく、のちに抽象画の元祖といわれるワシリー・カンディンスキーに称賛されたことで、この呼び名が定着した。本人私物。
DETAIL
座面後ろ側のパイプに貼られたステッカーが、ガヴィナ社製の証。歴代のワシリーチェアの生産メーカーの中でも、同社を名指しで探すファンが世界中に多数存在する。
今買える![ワシリーチェア]
現行では米国・ノル社生産のワシリーチェアが正規品。見た目の美しさはもちろん、機能性も保証されている。レザーのエイジングを楽しむなら、新品を選ぶのも大いにアリ。32万9000円(YAMAGIWAオンラインストア)
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中のマーケットを巡り、日々新たな良品を探している。
[ビギン2020年12月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘