好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
実用性特化の往時の備品は機能に劣らずデザインも秀逸
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
気を使わずに使える分、愛着がわく
すごいデザイナーの家具や作品にはおもしろいものがたくさんある。だけど、そういう銘のあるものにずっと触れていると、ふと飽きてしまうことがあるんです。楽しむうえで情報が邪魔になっちゃうのかな? その点、アノニマスなグッドデザインは気を使わずに使える分、愛着が出てくるし身近に感じます。
洋服でいうノーブランドの感覚ですね。“○○っていうブランドのアレ!”って特定されるようなものを着ているのが恥ずかしくなるときがあって、だったら「それ何!? どこの?」って聞かれるようなもののほうがいい。
この椅子も、誰が作ったのかまったくわからない無名のもの。内装の仕事で椅子を探していて、「とにかく数が揃うもので、いいヴィンテージがあったら教えて」と知り合いのドイツのディーラーに伝えたところ、提案されたのがこれです。「50脚くらいあるよ」と(笑)。
学校やオフィスで使われていたんじゃないかとのことで、シンプルなデザインとスタッキングできること、そのための脚の角度がデザインとしても成立しているところに惹かれました。後ろ姿も美しくて、補強のために貫(ぬき)が1本入るんですが、それも利いてる。
股下長めでバックシャン、脚好きの僕にはすごくグッとくるデザインです(笑)。無名だから値段も手頃なんですが、実は探すのが難しいのは有名なデザイナーの家具よりこういうもの。なぜなら、背景が明確じゃないから。それを想像するのが楽しいんですよね。(南 貴之)
「粋なれや 名もなき椅子の なりかたち」
BRAND:−
ITEM:CHAIR
AGE:UNKNOWN
1960〜70年頃のものとされる、木製のスタッキングチェア。座面は合板で、前側が脚に沿う曲木細工で座り心地も良好。座面は高すぎないので、子供用の可能性が高そうだ。1脚4万1800円(フレッシュサービス ヘッドクオーターズ)
DETAIL
脚部はボルトでしっかりと固定されている。座面右側には2か所の穴があるが、左右非対称なので、おそらくはアームレストではなくメモ台などを取り付けるためのものだろう。
好事家
南 貴之
1976年生まれ。PR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2022年7月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘