好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
空間に溶け込みながらも 確かに漂う存在感
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
やっぱり、内装をやっている人がたどり着く場所
ショップやオフィスとか、新しい空間を作るときによく思うんです。角にイスを置くのって難しいよな、と。それでもコーナーを攻めたくなるときがあって(笑)、いろいろ工夫をするんだけど、この「セプテンバー」にいきつく。
「そのまま角にあるだけで美しい」、インテリアデザイナー・内田 繁さんの1977年の作品です。ヨウジヤマモトのお店に代表される商業空間をたくさん手掛けられた方で、僕が70年代のデザインに興味が湧いて調べていた頃に彼の存在を知りました。
このチェアって全体が黒くて線が細く、ミニマルで空間を邪魔しないんですよ。その表現ってやっぱり、内装をやっている人がたどり着く場所なんだろうなぁ、なんて思うと感覚的にしっくりきます。以前何かのインタビューで(ドナルド・)ジャッドの影響を受けている、というようなことを言われていたと思うんですが、彼のデザインからもそれが伝わってきます。
逆に現代だったら、フィリップ・スタルクなんかが内田さんからの影響を感じさせるイスをデザインしていますよね。近代のデザイナーでもその仕事が今後20年、30年って確実に残っていくだろうなと思える人が個人的に何人かいるんですが、内田さんもその一人。すごく共感できるし、もしご存命だったら、いつかグラフペーパーのデザインも頼みたかったなぁ。
すごい人だし怒られちゃうかもしれませんが、意外と話が合うんじゃないかなって、そんな気がするんです。
「線と円 三角添えて 死角なし」
BRAND:内田 繁
ITEM:内田 繁
AGE:UNKNOWN
半円、直線、三角形と幾何学的な要素が、シンプルな設計の中にぎゅっと詰め込まれている。そんなフォルムのコーナーへの収まりのよさはこの通り。座面にはクッション性あり。
DETAIL
半円、直線、三角形と幾何学的な要素が、シンプルな設計の中にぎゅっと詰め込まれている。そんなフォルムのコーナーへの収まりのよさはこの通り。座面にはクッション性あり。
好事家
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年1月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘