縁起物にもやっぱりカルチャーがある
元々僕は縁起物とかゲン担ぎにはあんまり興味がない人間だったんです。だけど、そういうところにこそ日本のクラフトだったり、日本の意匠とかっていうものが息づいているっていうことにだんだん気がつくようになりました。
年末に飾るしめ縄だとか、神社仏閣のお札だとかもそう。この福助人形も福をもたらすと言われているものなんですが、正直僕にとって由来やエピソードはどうだってよくて(笑)。どちらかと言えばミッキーマウスとかみたいな古くからあるキャラクターのひとつという感覚で見ていますね。
僕はそういうものをまず面構えで選ぶんですが、この福助はお辞儀をしていて顔が見えない。そのスタイルにすごく惹かれてしまいました。“実るほど頭を垂れる稲穂かな”なんて言うけど、我々も客商売なので感謝の気持ちを忘れちゃいけないな、と思って事務所に飾っています。
買ったのは「郷土玩具 平田」という京都の老舗なんですが、この福助もピカピカに新しいものだったらそこまで魅力がなかったんじゃないかと思います。張り子とかだるまとかもそうですが、こういう縁起物にもやっぱりちゃんとカルチャーがあって、日本のキャラクターグッズのルーツはそういうところにある気がしています。
こいつが手元に来てから何か変わったのかって言ったら特に変化はなくて、平常運転なんですけどね。僕は依存しないタイプなので、かわいいと思えればそれでいいんです(笑)。(南 貴之)
「顔見えず されど饒舌 深座礼」
BRAND:UNKNOWN
ITEM:PAPIER-MÂCHÉ
AGE:UNKNOWN
諸説あるが、江戸時代にその容姿がきっかけで農家の息子が武家に召し抱えられ、以来その家に幸運が続いたのが福助人形の縁起物としての起源。本作は水玉模様が映える繊細なブルーの羽織りなど、見栄えもいい。
横から見るとよりわかりやすい「深座礼」。南さんが本作(現在は完売)を購入された「郷土玩具 平田」は、江戸時代から現代までの全国各地の郷土玩具が集まる名店で、店内には約1500点の郷土玩具が揃う(郷土玩具 平田)
DETAIL
背中を丸めてしっかりと地面に額をつけた、深々としたお辞儀姿が印象的。表情こそ見えないが、ほんのり赤らんだ頬や耳には温もりと、どこか真に迫るような説得力がある。
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中のマーケットを巡り、日々新たな良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2021年6月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘