好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
正統“スツール”。時経ても三本柱揺るぎなく
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
重さが可視化されているのも面白い
どれだけ続くかもわからず始まったこの連載も、長期連載になりました。改めて見返してみると名作から詳細不明なもの、悪ふざけのようなものまで、色々出してますね(笑)。今回は節目なので、正統に良いものを出しておこうかなと。
シャルロット・ペリアンのベルジェスツール、’50年代のオリジナルです。元々は羊飼いが使うイスをベースにデザインされていて、名前にもそうした意味があるそうです。
何度か言ったことがあるんだけど、僕はイスは4本脚よりも3本脚が美しいと思っていて、このスツールがもし4本脚だったら要らなかったんだろうなと思います。木をそのまま使っているから個体ごとの表情にもかなり違いがあって、ずっしりとした重さが可視化されているのも面白い。
どんどん相場も上がってきていておいそれとは買えないんだけど、それ以上に気に入る質感のものがなかなか出てこないんです。この個体は木目の感じもすごく好み。正直、普段座るには低すぎるんですが、だからか置いてあると木工作家のオブジェを見ているような気分になるんです。
アフリカの古物を掘ると、実はこれに似たようなものはいっぱい出てくるんですが、やっぱりペリアンのデザインはよりモダンですよね。女性らしさも感じるし、フランスの家具デザイナーでは僕は彼女が一番好きだなぁ。…と、こんな感じでゆるくマイペースにやってるのが、この連載が長続きする秘訣なのかもしれませんね(笑)。(南 貴之)
「時経ても 三本柱 揺るぎなく」
ITEM:STOOL
AGE:1950s
プリミティブとコンテンポラリー両側面を併せ持つ傑作
1953年にデザインされ、’55年に日本で行われたル・コルビュジエ、フェルナン・レジェとの合同展で発表されたとされている。切り株からそのまま切り出したようなシンプルな素材使いと設計は、時代を経ても色褪せない。
DETAIL
座面のサイドに見られる、2箇所の楔もベルジェスツールの特徴。徹底して異素材を排した外観にペリアンの美意識が垣間見られる。木目の美しさは使い込むことでより顕著に。
好事家
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年7月号の記事を再構成]写真/椙本裕子 文/今野 壘