好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
機能性を補って余りあるフォルムの洗練と独創性
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
そこにあるだけで気分をよくしてくれる
この連載ではもう何度も触れてきましたが、僕が一番惹かれるのは削ぎ落とされた機能美を感じられるもの。だけど、この「セコンダチェア」はそれとは少し違います。
椅子だから当然座るためのものなんですが、座り心地がすごくよくて快適だとか、機能性のために引き算された設計だとか、そういうものじゃありません。デザインしたのはマリオ・ボッタというスイスの建築家で、サンフランシスコ近代美術館や日本だとワタリウム美術館を手掛けた人。
で、この椅子、フレームはメタルで背もたれにウレタンのような素材の円柱形のパーツが付いています。メッシュの座面も鉄製で、一応素材のしなりでクッション性はもたせているんですが、正直めちゃくちゃ座りにくいです(笑)。
だけど、その分デザイン性の高さをはっきりと感じられるのが’80年代のイタリアらしいですよね。出自も考えると、建築っぽいってことなのかな。ちょっと発想が普通じゃない。ミニマルなものとは対極だけど、引き算された空間に、こういうものが唐突に置かれているのが好きなんです。
極論を言ってしまえば、座らず眺めているだけでもいい。むしろ、人が座っていないほうが成立する格好よさなのかもしれません。椅子本来の用途とは真逆だけど、ただそこにあるだけで気分をよくしてくれるような力がある。
言ってみれば、彫刻とかアートを置くのと同じような感覚です。それだって、立派な用途なんじゃないかと、僕は思います。(南 貴之)
「座るより 眺めて愛でる 形式美」
BRAND:ALIAS
ITEM:CHAIR
AGE:1980s
アリアスはカッシーナ社傘下の1ブランド。丸、三角、四角と見る角度によって様々な図形が現れる幾何学的なデザイン。オリジナルが発表されたのは1982年で、その名の通り世に出た自身2作目のチェアだった。
DETAIL
ポップな円柱形のパーツはわずかなクッション性こそあるが、背中を預けた感覚は快適とは言い難い。それを差し引いても、このデザインの肝であるのは明らかだ。
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPRなど、多方面で活動中。公私混同しながら世界中を巡り、日々良品を探している。
[ビギン2022年3月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘