史上最強のパイロットウォッチ!? 新型「G-SHOCK」のスゴさを開発者に聞いた!
梅雨空のある日、Begin編集部に突如1本のニュースが飛び込んできました。「7月10日に、カシオが『グラビティマスター』の新作を発売」。7月10日……え? もうすぐじゃん。うかうかしてはいられません。どんな新作か? どんなスゴさが盛り込まれているのか? 爆速で開発担当者に詳しい話を訊きに行きました!

G-SHOCKから、史上最強レベルのパイロットウォッチが出る!

すぐにでも開発担当者の元に駆けつけたいところですが、その前に「グラビティマスターのことよく知らないよ」という人のために概要を軽くおさらい。
G-SHOCKの中でも、陸・海・空それぞれの領域で、過酷な環境に身を置きながら任務を遂行するプロたちに使い倒されることを想定した「Master of G(マスター オブ ジー)」シリーズ。その中の「空」に特化したコレクションが「グラビティマスター」――通称“空G”なんです。
空中を高速で移動する航空機の狭いコックピットの中で、操縦桿を握るパイロットが必要とする機能やスペックを過不足なく搭載しているのが特徴です。
取材に行ってきました

東京都の北西部に位置する人口5万3千人ほどの小規模都市、羽村市。JR羽村駅からクルマで5分ほど行くと見えてくるのが、カシオが誇る製品開発の拠点「羽村技術センター」です。
文字どおりG-SHOCKの聖地であり、耐衝撃性を検証するため、社屋3階のトイレの窓から硬い地面に向かって試作品を何度も何度も投げつけた! という初代G-SHOCK誕生のエピソードは誰もが知るところでしょう。
開発者が直々に教えてくれました!

今回、グラビティマスターの新製品開発を担った「時計事業部 商品企画部」から2人のキーパーソンが取材に応じてくれました。
右が第一企画室 チーフプランナーの小島一泰さん。1969年茨城県生まれ。1992年にカシオ入社。時計のデザイン部門で経験を積んだ後、2019年に現在の部署に異動。おもに「Master of G」の商品企画を担当。企画全体を取りまとめている開発責任者です。
左が第三企画室の黒羽晃洋さん。1990年千葉県生まれ。2014年にカシオ入社。時計のソフトウェアを開発する部門で3年間勤務した後、現在の部署に配属。商品企画の中でも、「Master of G」に搭載されるような高機能ムーブメントの企画開発を担当しています。
最強ポイント① 「壊れない」だけじゃなく「狂わない」!

早速、お二人が見せてくれたグラビティマスターの新作「GWR-B3000」。
従来モデルに比べると、肉が削ぎ落とされ、かなりスッキリした印象です。これまでも小型・軽量化が図られてきた歴代グラビティマスターですが、それでもまだまだゴツい印象が否めませんでした。それが今回ばかりは劇的なほどスマートに仕上がっているんです!
それだけじゃありません。これまでも耐衝撃構造、耐遠心重力性能、耐振動構造をコンボした「トリプルGレジスト」の搭載で“壊れにくさ”には定評がありましたが、今回、刷新されたムーブメントを搭載したことで、“狂いにくさ”までプラスされているんだとか!?
18年ぶりにムーブメントが進化

新生“空G ”である「GWR-B3000」に搭載されているのが、TOUGH MVT.2(タフムーブメント2)。従来のTOUGH MVT.(タフムーブメント)を、18年ぶりに刷新した新開発の自動時刻修正機能付きソーラーアナログムーブメントです。
「従来型と新型、どちらのムーブメントも目指すところは同じ。“絶対精度の追求”です。信頼性という意味では、従来のTOUGH MVT.も極めて完成度の高いムーブメントでした」と、開発担当の黒羽さん。
確かに、18年も使い続けられてきた事実が、完成度の高さを示す何よりの証拠かも。
「一方、18年で著しく進歩したのが、ソーラー技術や低消費電流に関する技術。実際、GWR-B3000もインダイヤルの小さな窓3個分のソーラーパネルだけで、必要な電力を発電しています。低消費電流に関しても同様。常時監視を続けながら磁場や衝撃といった外乱要因を検知するなり、一時的に針を止める機能を盛り込んでも、問題ないくらい低消費電流に関する技術も進歩しています」
なるほど、コアテクノロジーの進化が重なったタイミングゆえの刷新だったわけですね。ん? 黒羽さん、今、サラッとスゴいことを言いましたよ。磁場や衝撃を検知して針を止める!?
強い磁場を感じると針がSTOP!



パイロットの中には一瞬一秒を争う世界でフライトを行っている方もおり、そうした環境下で使用されるパイロットウォッチには、磁場で時刻精度に狂いが生じないよう耐磁性能を盛り込むのが常識。なのですが、「TOUGH MVT.2」の磁場対策は、従来とはまるでアプローチが異なると、黒羽さんは言います。
「軟鉄製のインナーケースでムーブメントを囲んで、磁気が中枢部に及ぶのを防ぐのが機械式時計などに見られる耐磁性能。これに対してTOUGH MVT.2には、専用のセンサーが搭載されていて、強い磁場を検知するなり針の動きを一時的に停止。磁場が消えると正常な位置に針が復帰、動きを再開するという機能が採用されています」
そもそも機械式よりクォーツの方がムーブメントとしては磁気帯びなどのリスクが低いとのことですが、それでもアナログ針がズレたりすることがあるんだとか。ワイヤレス充電器のような強力な磁気を発生させる機器が身の回りにありまくる昨今、この機能はパイロットでなくても恩恵に預かれますね♪
衝撃検知機能もこだわり尽くし

磁場だけでなく、衝撃に対しても自律的に対応する機能が新たに搭載されましたと黒羽さん。じつは従来のムーブメント「TOUGH MVT.」にも、一定時間毎に針位置を自動補正する機能は搭載されていました。「TOUGH MVT.2」には、それに加えて衝撃検知付き針位置自動補正機能が新たに搭載されたんだとか。
「ザックリ言うと、時計が強い衝撃を受けるとLSIがそれを瞬時に検知して、針位置を自動で補正する機能です。衝撃に対して常時監視態勢を敷いているようなイメージですね」
感度調節には苦労したと黒羽さんは言います。衝撃を検知する度に何でもかんでも針位置を補正していてはさすがに煩わしすぎる。針をズラすほどの衝撃は確実に検知するけど、そうでなければ反応しない、そのバランスを見極めるのが大変だったようで。
「我々開発担当のメンバーが実際に腕に着け、日常生活の中で様々なシチュエーションを想定しながら幾度となく検証を重ねて導き出しました」 いや、ご苦労さまです~。
最強ポイント② 新たな手法で「ゴツいのに薄い」を実現!

先述したように、我々取材班がGWR-B3000に抱いた第一印象は、「従来モデルに比べて、かなりスッキリした!」でした。より正確にいうなら、グラビティマスターらしいゴツさをわずかにとどめながらも薄型化に成功したという印象。
新生「空G」の企画開発を統括するチーフプランナーの小島さんは、薄型化に成功した理由のひとつに「トポロジー解析の成果」を挙げています。ト、トポロジー? なんですか?
“トポロジー解析”を活用!

GWR-B3000で目指したのは、空Gに欠かせない「トリプルGレジスト」と薄型化の両立と、小島さんは言います。
「そこで試みたのが、コンピュータ解析の一種であるトポロジー解析でした。トポロジー解析とは、製品や部品を設計するにあたり、決まった空間の中で、荷重にはしっかり耐えうる剛性を保ちながら、可能な限り材料を削ぎ落とすにはどうしたらよいか? その材料配置の最適解を導き出す構造解析手法です」
クルマの車体フレームやロボットアームの設計などにも用いられる手法で、コンピュータの解析結果を担当デザイナーが受け、機能的にも外観的にも美しく仕上がるように設計。これを再度トポロジー解析にかけ……という作業を繰り返しながらブラッシュアップしていくんだとか。
「耐衝撃、耐遠心重力、耐振動と3要素を包括する『トリプルGレジスト』ですが、これまでは各要素に個別対応せざるを得ず、どうしても大型化が避けられませんでした。今回、トポロジー解析によって総合的に解析することが可能となり、“デュアル中空構造”という仕組みを得ることができました。軽量・薄型化はその結果といえます」と小島さん。
余分な部分を削いで薄型化!

従来の厚くてゴツい外観も「グラビティマスター」らしさと言えますが、軽量・薄型化された新生「グラビティマスター」もまた新鮮。汎用性も高そうです。どれくらい軽量・薄型化されたのか、具体的な数値を小島さんが教えてくれました。
「トポロジー解析で得た“デュアル中空構造”により、かなり軽量・薄型化されています。具体的には、従来モデルの多くが厚さ17㎜~18㎜台だったのに対し、GWR-B3000は厚さ14.1㎜と3~4㎜近くも薄くなっています。重さも従来モデルが180~200g台だったのに対して、102gと80~100gほども軽くなっています」
これは驚きの数値。取材班の予想の、遙か上いく軽量・薄型化でした!
ご覧の通り、収まりよし

「グラビティマスター」の場合、新製品開発がスタートすると、最初に航空機を操縦するプロフェッショナルたちにヒアリングを実施、彼らが真に必要とする要望を採り入れながら開発プロセスを進めていくのが流儀とか。
ここでいうプロフェッショナルとは、救急ヘリや山岳救助ヘリのパイロットなど、国内外を問わず空の仕事に従事するエキスパートのことです。
「そうしたプロから頂いた要望のひとつが、薄型化でした。狭いコックピットの中で大事な機器に引っかけてしまいそうと、時計の厚みを気にする方が多かったですね。それから、ピシッとしたスーツに身を包んで、式典など改まった場に出席する際、分厚すぎる時計は着けていけないという声も少なくありませんでした」と小島さん。
以前から寄せられていたこの要望に、新作「GWR-B3000」が、満を持して応えたというわけです。もちろん、空のプロではない我々にとっても、仕事に着けていける「グラビティマスター」は、大歓迎以外の何ものでもありませんね。
最強ポイント③ 「視認性MAX!」な文字板

コックピットでは様々な方向から太陽光が差し込むため、その反射光で時計の視認性が著しく低下しがち。パイロットからも、とにかく反射光を抑えて欲しいとの要望が多く寄せられていると言います。
こうした場合、文字板に艶消し剤を吹いて、反射光を抑えるのが一般的。ところが「GWR-B3000A」はさにあらず! 今までの発想にない独自の方法で文字板を加工、視認性MAXを達成しているんです。
文字板にはあえて塗装をしない

「GWR-B3000A」が採用する独自の方法とは、“文字板にはあえて塗装をしない”というもの……。えっと、どゆこと? 小島さんは次のように説明します。
「振動や衝撃に晒されることを前提にする『グラビティマスター』の場合、衝撃によって文字板表面にアナログ針が、局所的かつ瞬間的に触れることがあります。文字板に塗装を施していると、そのはずみに文字板が傷つき、吹いてある塗装が剥がれてしまうことがあるんです」
それがたとえ微細な剥離片であっても、機能面にトラブルを引き起こさないとは限りません。そうしたリスクを回避するために、あえて文字板を塗装レスにしているんですね。
もちろん、単に塗装レスにしただけでは、反射光は抑えられません。そこで、文字板に採用されたのが新発想の金属加工。おそらくこれが業界初となる方法です。
細かい凹凸が入射光を拡散

塗装レスにした上に、反射光まで抑えるにはどうすればよいか? 開発チームが出した答えは、文字板一面に肉眼で見えるか見えないほど小さなピラミッドを敷き詰めること。小島さんが次のように解説してくれました。
「肉眼ではなかなか厳しいんですが、よく見ると文字板に極めて小さなピラミッド状の刻みが隙間なく並んでいます。これが入ってきた太陽光を乱反射させることで、視認性を低下させる反射光を拡散。陽光が差し込むコクピットの中でも、文字板が見やすくなっているんです」
しかも、均一のピラミッドが単に並んでいるのではなく、大きさの異なる2種類のピラミッドを組み合わせることで、反射光を可能な限り防いでいるといいます。
どデカイ“12”にもこだわり

視認性を確保するための工夫はまだあります。かなり大きめに強調されたアラビア数字のインデックス「12」、これにも理由があると小島さんは言います。
「回転したり逆さになったりするため、機体操縦時のパイロットはどうしても方向感覚が狂いがち。そんなときでも瞬時に上下が判断できるように12のインデックスをどデカく強調しているんです」
また、夜間の視認性にも配慮して、12のインデックスには、面積一杯に蓄光塗料を盛り込んでいます。
その他機能も一切抜かりなし!

コアとなる機能のほかにも、便利機能が満載です! たとえば「フライトログ機能」。ボタンをワンプッシュするだけで、時刻と場所のログが残せるタイムスタンプ機能の一種です。Bluetooth®接続でスマホとリンクすれば、記録したログを後からスマホで編集したりグルーピングしたりできるスグレモノ。
「これも航空関係者に行ったヒアリングをヒントに作った機能です。経由地の多いフライトでは、グルーピング機能が重宝するそうです」と黒羽さん。
散歩の途中で見つけた気になる店をログに残して後で編集、なんて使い方も楽しそう♪ さらにもうひとつ、航空関係者から熱烈に要望されたのが、「UTCダイレクト呼出機能」だと黒羽さんは言います。
「世界中を飛び回るパイロットの中には、基準となる時刻をUTC(協定世界時)にしている方が少なくありません。そうした方々の声に応えて、ワンアクションでUTCが呼び出せる機能を盛り込んでいます」
時計好きにこそ響くはず!

現時点における最高のムーブメント「TOUGH MVT.2」を積んだ新生グラビティマスター「GWR-B3000」。この完成度が時計好きに響かないわけがありません! 開発を担当した小島さんも黒羽さんも、本作が人気を博すこともさることながら、G-SHOCKの中で確固たるポジションを築いていくことを期待していると言います。
「シリーズのリーディングモデルなので、かなり力を入れて開発したことは間違いありません。この空Gを皮切りに、陸海空を擁するMaster of Gが構築された姿になれば、カシオの時計全体に訴求していくことを期待しています」と小島さん。
「ムーブメント視点でのコメントになりますが、今回のTOUGH MVT.2がそうであるように、今後もグラビティマスターがアナログ式の中で、最も先進的なムーブメントを真っ先に搭載するコレクションになって欲しいと思っています。TOUGH MVT.2も今後、他ブランドでの展開があるかもしれません。そんな風にここが始まりで、徐々に波及していく。そうしたポジションになってくれたら嬉しいですね」と黒羽さんも語っています。
INFORMATION

スペックは共通して、タフソーラー。トリプルGレジスト。世界6局の標準電波受信機能(MULTIBAND6)。ワールドタイム。モバイルリンク機能。カーボンファイバー強化樹脂ケース。ソフトウレタンバンド。H56.7×W47.3×D14.1㎜。20気圧防水。左/GWR-B3000A-2AJF。12万6500円。中/GWR-B3000-1AJF。11万円。右/GWR-B3000-8AJF。13万7500円。
カシオ計算機お客様相談室
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写真/工藤 恒(アルフォース) 文/星野勘太郎