モノ知り用語集
一口に「革製品」と言っても、その製作工程は多種多様。より丈夫にしたり優雅さを高めたり、アプローチ次第でさまざまな表情を見せてくれるものです。七色の職人技を、ぜひぜひ知ってみてください。
鞄にアウトポケットがあると、メイン室をいちいち開けることなく、名刺や定期入れ、携帯電話などの小物を素早く取り出すことができ、大変重宝する。ただしこれがあることで、鞄の外観がゴテゴテしてしまうこともある。これを回避するのがあおりポケットだ。簡単に言えば、鞄のデザインを壊さないようにメイン室開口部の前後に装備した”隠しポケット”のことで、場合によっては内部にジップ収納があったり、雑誌をラクに呑み込むサイズを確保しているものもある。
イタリアや英国などの有名革産地で昔から行われてきたナチュラルな革の染色法がアニリン・フィニッシュ。薄くベースカラーを手塗りした後、何度も染料を塗り込めていく手間のかかる仕上げで、天然由来のアニリン系染料を使用するためこう呼ばれている。色定着までに時間はかかるが、革深部まで染料が浸透するため、色がハゲたり褪せることなく、深い色合いの経年変化を実現させる。大量の顔料を塗布するピグメント・フィニッシュとは違い、革本来の風合いが楽しめるのも魅力だ。
オックスフォード・フィニッシュとは、ドイツ革小物界の古豪、「ゴールドファイル」が開発した独自の染色技法。極上のタンニンレザーを回転ドラムに入れて、まずはボルドーに染め上げる。その上に手仕事で黒の染料を塗り込み、拭き取ることで、シボの凹部や毛穴などに黒を残すのだ。深みのある色艶と、革の肌目が透けて見えるナチュラルな風合いとを両立する希有な技術だ。
柿渋とは、柿を搾った汁を熟成させた天然染料のこと。防水、防腐、防虫効果があることから、日本では平安時代より和紙や衣料の染色、また木の塗装などにも使われてきた。最近は革小物の染色にも用いられており、太陽の光に当たって徐々に色合いを深く変えていくさまが、エイジングレザーを愛する人たちの心をとらえている。
ドレス派に支持される薄作りの財布。札室だけの長財布なら話は簡単だが、最近は2つ折りで、カード室とコイン室を持ち、ライニングまで革を貼り合わせた贅沢仕様でいながら、極薄を実現したものまで登場。こういう財布に絶対欠かせないのが、革の床面を絶妙に削る、高度な革剝きのテクニックだ。
クラシックな意匠の革財布では、ヘリ(表革の端部分)を内側に返してステッチをかけるコバの始末がよく見られる。そうした財布ではコーナー部に注目してほしい。辺と辺が合わさるこの部分ではどうしても革が余るため、さまざまな対処がなされるが、もし細かくギャザーを寄せていたとしたら、それが菊寄せ。ギャザーが菊の花びらを連想させることからそう呼ばれ、ひとつひとつのヒダは千枚通しのような道具で入れられる。非常に手間のかかる仕立てで、昔の職人はこの処理の美しさで技量を競ったといわれている。
日本の革小物の伝統技法で、元はコバ(革の裁断面)をヤスリ掛けした後、「布海苔(ふのり)の塗布→乾燥→布などで磨く」を数回繰り返して表面を滑らかにする仕上げ。布海苔だけだと革の筋目が透けて見えることが多いので、最近は染料を加えることも多い。コバ塗りの際に顔料や化学系仕上げ剤を使ったものとは異なり、ヒビ割れや剝離がおきにくく、耐久性に優れる。
鞄や革小物、革ベルトなどにしばしば見られる「念」は、貼り合わせて縫合された革同士の密着性を高めるため、縫製とコバの間に熱ゴテを当て、そのコバに平行して施す細い溝のこと。念引きとは、その念を入れる作業を指す。これにより、見た目の高級感を高めることもできるが、正確で慎重な作業が求められるため、職人には熟練の技術が必要になる。もっとも、すべての念が革の密着性UPに貢献しているとは限らず、じつは単なる装飾として浅い念が引かれた製品も少なくない。
メッシュベルトは手編みのモノと機械編みのモノに大別できる。どちらでもいいように思えるけれど、じつは強いテンションを加えて編める分、前者のほうが伸びや型崩れがしにくいのだ。で、その手編みベルトを英語でいえば、すなわちハンドプレイテッドベルト。職人の手で編み上げられるため、概して機械編みよりお値段お高めとなる、ちょい贅沢なベルトである。
和装小物の技術がルーツで、アコーディオン(風琴)のジャバラに似ているため、こう呼ばれる。外折り構造ゆえ、収納物が引っ掛からず、また収納量に応じてよりフレキシブルに伸縮するのが特徴だ。
原皮から革に加工するなめし方法の一つであり、化学薬品を用いるクロムなめしと対にされることが多い。というのも昔ながらの樹木や植物などの天然の渋を利用する方法で、手間と時間を要しクロムなめしに比べて非効率。だが使い込むほどに味わいが増す革は、時間をかけて作るベジタンなめしだからこそ実現できるのである。
0.4mmという極薄に剝いた2枚の革を貼り合わせて薄いのにハリを出す技術で、この“ハリ”を出す最大のポイントは、特別な水性糊にあるという。糊の塗り方はもちろん、この薄作りは日本のとある職人にしかできないといわれるほど、世界的にも稀な職人技だ。
革小物のコバを丸みのある形に仕上げる技術。一般的に革小物のコバは、革を裁断した際に切り目がフラットになり、その切り目を直線的に整える平コバがほとんど。だがこの丸コバ仕上げは、カンナがけの段階である程度丸みをつけ、さらに丸溝のあるバフマシンで研磨する。そして染料を塗り、乾燥後に木製のヘラで磨く作業を繰り返してキレイなアールができ上がる。当然手間もかかるうえ、美しい丸みを作るための熟練した技術を要する、まさに職人魂を感じるディテールなのだ。
特殊なミシンを使い糸のピッチをジグザグに縫う“ミ”の字状の縫製方法を指す。通常の直線的な縫い方に比べて糸の締まりがよく、より強度に優れた仕上がりとなる。また見た目にも高級感と遊び心が感じられ、アイテムの見栄えもより美しいものとなる。
蜜ロウや獣ロウを配合したワックスを塗り、強度と撥水性を高めるコーティングのこと。革ではヌメ革の後処理として行われることが多い。その代表格が馬具用革として生まれたブライドルレザー。革の深部に染み込むまでロウ引きを行い、革の内部のロウ成分が表面にうっすら浮き上がってくるブルーム(白い粉状のロウ成分)が特徴。