パタゴニア冬の風物アウター「ジャクソン・グレイシャー」ミニマルに潜む大進化論

「もし奮発して一着だけアウターを買うとしたら?」 寒い時季になるとグルグルと頭を巡るこの問いに対するアンサーとして、すべての定番好きがリストアップすべきダウンがあります。「メンズ・ジャクソン・グレイシャー・ジャケット」。パタゴニア好きの間で根強い人気を誇るこの名品が、今季大幅にアップデートされました。

一体どこがどう進化したのか。そして見た目も機能も背景も妥協したくない!というモノ好きこそ、選んで後悔しない理由とは一体何なのか。ジャクソン・グレイシャーを知らない人にもわかりやす〜く理解してもらうため、贅沢にも同社のテニクカル部門とライフアウトドア部門、双方のキーパーソンを招聘! アーバンアウトドアという概念が醸成された現代のニーズに、パタゴニアが本気で向き合った都市型ダウンの大進化論をレポします。

テクニカル部門とライフアウトドア部門の
キーマンに語っていただきました!

片桐さん/米国の大学を卒業後、著名なスポーツ・アウトドアギアメーカーに勤め、幅広い職種を歴任。2011年にパタゴニアに入社してからは、主にテクニカル部門の製品担当として、米国本社と密に連携し、正確な製品情報を日本サイドと共有する架け橋になっているほか、新製品のテストサンプルのフィードバックなども行なっている。スプリットボードを溺愛するバックカントリースノーボーダーとしての顔も。細野さん/高校卒業後に渡米し、大学では繊維学を専攻。卒業後にテキスタイルメーカーやインテリア商品メーカーなどで勤務していたさなか、従来の大量生産よりもベターな商品開発に関心を持つようになり、縁あって2015年にパタゴニアに入社。本国のデザインチームと連携してライフアウトドアカテゴリーの商品開発を担っている。

【Jackson Glacier】
ミニマルな顔つきが
様々なライフスタイルにマッチ

“クリーネストライン”という言葉をご存知でしょうか。これはクライミング用語で、岩壁を最もクリーンに登攀できるラインを示す言葉。ですがパタゴニアの社内では、それ以外にも“目的に対して最善の手法をとる”、“過不足ないスペックでクリーンな外観にデザインする”、“より環境にクリーンな素材を探求&採用する”などなど、さまざまな意味合いを持つ隠語的表現として、各国のスタッフに愛用されているんだとか。そしてジャクソン・グレイシャーの魅力は、まさにこの“クリーネストライン”という言葉に集約されていると細野さんは言います。

「ライフアウトドアカテゴリーの製品として開発がスタートしたのは2015年頃。できるだけクリーンなデザインで、街中でも使いやすく、テクニカル部門からの技術流用も積極的に行い、機能的で幅広いシチュエーションに対応できるダウンとして、2年近い歳月をかけ、2017年に発売されました。以来同カテゴリーのメンズ製品のなかでは、冬のベストセラ―・トップ10をキープするほど、多くのユーザーに愛されています」

まず先進的なアウトドアギアを世に送り続ける同社が、都市生活での着用を念頭に置いて開発した、いわばアーバンアウトドア仕様のダウンって時点で異色の存在! ですが、決してトレンドを追っただけで内容の薄いファッションアイテムじゃないってことは、シンチラやレトロXをはじめ、傑作ひしめくライフアウトドアカテゴリーのなかで人気トップ10をキープし続けてるってことからも明らかです。

「しっかりとした保温性と、ミニマルでクリーンなデザインを両立させるために、アルパインカテゴリーのダウンに用いられている、縫い目のない3D・バッフル織りテクノロジーを採用しています。パーツの接合部以外はステッチングしていないので、表地と裏地が潰れず、コールドスポットも生じにくいですし、ロフトが減らない分、700フィルパワー・リサイクル・ダウンのポテンシャルも損なわれず、十分な暖かさを保ってくれます。またデザイン面においても、マットな質感の表地と相まって、よりクリーンで都会的な顔つきに仕立てられているので、“いかにもアウトドアギアを着てるぞ!”という印象にならず、通勤用のアウターとしても活躍してくれるはずです」

都市でも快適に♪という目的のためにアウトドア由来の機能を投入し、それをミニマルなデザインにまで繋げるなんて、まさにクリーネストライン! 

「内部に設けたジップポケットはスマートフォンなどの収納にも適していますし、インサレーション入りのストームカフスやフードも備えているほか、両サイドに起毛素材の裏地を付けたポケットも設けているので、しっかりと暖をとりたい方にも最適です」

そう補足してくれた通り、すでにイジる余地なんてないほど細部まで考え抜かれた、まさにディス・イズ・パタゴニアプロダクト! ではすでに完成の域に達した感のあるこの優良ギアを、これ以上どうアップデートしているのか。次章ではテクニカル部門のキーマンである片桐さんにお聞きします。

【EVOLUTION】
防水性・透湿性を備えつつ
PFASを使わない撥水加工で進化!!!

今季装い新たに生まれ変わったジャクソン・グレイシャーの進化点とは一体何なのか。片桐さんに単刀直入にお聞きすると、「“防水透湿”仕様になったのが最も大きなポイントです」と明快なアンサーが。これまでも細か〜な部分はマイナーチェンジされていましたが、今回はジャクソン・グレイシャー史に残るほどの大進化を遂げてるそう! 

「パタゴニアでは“防水透湿”を謳うウェアに独自の基準を設定しています。採用する生地の段階からテストするのはもちろん、試作品の段階でもフィールドテストを行いますし、24時間洗濯機を回し続けて長期間着用した状況下を再現する『キラーウォッシュ』をはじめ、製品化するまでにさまざまなテストを課しているのです」

そう! 同社の製品はこのテスト祭りをすべてクリアした生地だけが、晴れて「H2NOパフォーマンス・スタンダード」の名が冠され、“防水透湿”を謳えるんです。ただ今季のジャクソン・グレイシャーはそれだけの進化にとどまりません。

「今作の表地には、2層構造の3.6オンス・75デニール・リサイクル・ポリエステルを採用しています。ウルトラライトな生地だと雰囲気が出にくいのですが、この生地は適度な厚みがある。ただポイントは、この生地にPFAS(ピーファス)を使わずにDWR(耐久性撥水)加工を施している部分にあります」

PFASというのは、ザックリ言うと有機フッ素化合物の総称で、昨今見聞きする機会の増えたPFC(フッ素系化合物)なんかもこれに含まれます。PFASで加工した製品は、水や油をはじき、分解しにくいという性質があるため、幅広い製品に活用されてきましたが、現在では有害性が指摘されるようになり、意識の高い企業ほど脱PFASの流れに。

「パタゴニアではPFASやPFCを使用しないのDWR加工を10年以上前から研究していたのですが、当初、撥水性はまだしも、耐久性を維持するのがかなり難しく、加工した生地は紙切れのようにすぐにビリビリに破けてしまったんです。各種企業との連携によって研究開発を続けたことで、近年ではPFCを使用しなくても耐久性と撥水性の双方を強化することに成功。今作は環境への貢献度という意味においても妥協せず、最良の加工技術が採用されているのです」

防水透湿性を備えたことで、ダウンの本分である保温性の底上げにも繋げたという本作は、タウンユースのギアとしては十分すぎるほどハイスペックだし、環境への配慮という側面においても抜かりなし。まさにパーフェクトな完成度を誇っていますが、服好きとしては、そうした機能面や背景と同じくらい希少なモノトーンのP6ロゴにも胸が高鳴る〜♪ と、煽りたいところなんですが、ちょっとお待ちを。実はこのロゴがレアかどうかなんて、大した問題じゃなし。むしろ昨シーズンまで採用されていたプリントロゴから、このモノトーンP6ロゴに“変更されるまでのプロセス”にこそ、パタゴニアをパタゴニアたらしめる魅力が秘められてるんじゃないかなと。細野さんはいいます。

「実は今回アップデートするにあたって、今作のロゴを変更するかどうかについて、最後の最後まで議論が交わされました。ヨーロッパ、韓国、日本、オーストラリア、北米と、世界中のバイヤーやラインコーディネーター(製品の企画担当者)たちが意見を交換しあったのですが、ある地区からはオーソドックスなP6ロゴに変えた方がいいという意見があったり、また別の地区からはプリントのままでいいという意見があったり、なかなかどのロゴにするかまとまらなくて。最終的にはデザイナーの意見も反映され、タウンユース向きに開発された今作のデザインにはモノトーンロゴの方がしっくりくるね、ということで着地しました」

ブランドロゴは、ある意味その製品の顔。レアなロゴをバンバン投入すれば大々的にPRできるはずですが、セールスにだけ突っ走らないのがパタゴニアイズム。ロゴひとつ変えるために、さまざまな立場のスタッフが集い、ディスカッションし、みんなで葛藤し、迷いに迷う。プレミアム化を狙い、希少性を喧伝するロゴが氾濫している現代において、このプロセスを経るブランドがどれほど希少かは想像に硬くないはず。葛藤が生んだモノトーンロゴが採用されたジャクソン・グレイシャーには、資源を使ってモノ作りすることに、常に懐疑的な目を向け続ける同社のフィロソフィーが投影されているんです。

【PRODUCT GUIDE】
進化したジャクソン・グレイシャーを
最後にオサライ

メンズ・ジャクソン・グレイシャー・ジャケット/H2No パフォーマンス・スタンダード採用の2層構造シェルで仕立てた、防水透湿性に優れる新生ジャクソン・グレイシャー・ジャケット。700フィルパワー・リサイクル・ダウン100%(ダウン製品から再生されたダックダウンとグースダウン)のインサレーションを封入しつつ、ステッチングではなくテープ処理を施し、ダウンの片寄りを防ぐバッフル構造を採り入れることで、タウンユースでは十二分な保温性を確保。ジャクソン・グレイシャーの持ち味でもある、流行り廃りがないクリーンなデザインはきっちり踏襲してるから、休日の外出だろうが通勤だろうが違和感なく対応してくれる。各71500円。※ノーブルグレーはEC限定。

ジャクソン・グレイシャーの特設ページはコチラからご覧ください。

ビジネス街にして、観光地でもある丸の内にひっそりと佇む同店には、ライフアウトドアカテゴリーの製品を中心に、ビジネスからトラベルまで幅広いシチュエーションに対応するギアが集う。
住東京都千代田区丸の内3-1-1 国際ビル1F
03-3214-2101
11:0019:00
休毎月第3水曜日

 

問い合わせ先/パタゴニア日本支社 カスタマーサービス☎0800-8887-447 パタゴニア公式ホームページ
写真/松島星太 文/黒澤正人 編集/増井友則(Begin)

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