社会全体のシステムチェンジを促す「中古買取・再販」から紐解く
51年目のパタゴニアが示す矜持
5月24日、「パタゴニア東京・渋谷」を訪れると店先の看板に目を奪われた。
“ファッションじゃない”。
韻を踏むわけでも、言葉遊びをするわけでもない、ストレートすぎるパンチライン。
ただ、その短い言葉にはパタゴニアの想いの丈が込められている。
以下、同社代表であるジェナ・ジョンソン氏の日経MJでのインタビューを引用する。
―――今年、パタゴニアは「アンファッショナブル」を打ち出しています。ファストファッションなどのトレンドを追うファッションは、地球にとって有害な「使い捨て経済」の一因となります。「アンファッショナブル」は、流行に追随せず、高品質な製品を長く使い続けるべきだという私たちの考え方を表しています。これが私たちの製品に名誉と尊敬をもたらす手段です。―――
ファッションとは、実態があるようでない魔法のような言葉で、捉える人によって唱え方も変わってくる。ただ、同社が示すファッションとは、近年アパレル界において市場規模を拡大してきた“一過性の大量生産・大量消費”に対するレジスタンスであることは間違いない。品質にとことんこだわり、一生使い続けられる本物しか作らないというスタンスは、昨年50周年を迎えた同社の製品を取材した「ナチュラル・アイコン」を通して十分感じられた。
そしてジェナ氏はこう続ける。
―――新品の販売に加えて、修理や古着の販売は私たちのビジネスモデルの一部となっています。事業にとって成長はもちろん重要ですが、私たちは運営する事業の本質に基づき意思決定しています。事業を「採取」から「再生」へと移行する上で世界の消費を減らす必要があり、修理や古着の販売が実現の鍵であると考えています。―――
51年目のパタゴニアも、本気だ。
中古買取・再販という選択肢
この日同店を訪れたのは、Worn Wearプログラムにてパタゴニアの中古買取・再販がスタートするため。なんと、新品を買わず世にある衣類の寿命を9か月間延ばすことによって、炭素排出・廃棄される物・水使用のフットプリントをそれぞれ20~30パーセント削減することができるんだとか!
買取の対象製品は、機能に問題がないパタゴニアの中古のウェアやラゲッジ、アクセサリーと幅広く受け入れ、衣類やギアの寿命を延ばすことによって循環性を高める意図がうかがえる。
ストーリーを知る
「パタゴニア東京・渋谷」でスタートした理由のひとつは、渋谷という街には年齢性別、人種を問わず、多種多様な人たちが行き交っており、より広くメッセージを伝えられること。
店内に入ると、すぐスタッフさんなどが何十年と使い続ける愛用品が展示されている。歴史が刻まれたリペア跡が、語らずとも数々のストーリーを物語っている。
2階に上がると、中古製品とリペアブースが現れる。そのすぐそばには、新製品が置かれているのだが、これは中古・新品を分け隔てなく提案し、サイズ比較などをすることによって、お客様が本当に必要とする製品を提案できるようにするため。また、古着店と違い、同社のメッセージを直接伝えられることも自社の店舗で中古製品を販売する意義である。尚、リペアブースでは週末毎にイベントが開催され、お客様自身でリペア体験ができたりもする。
店内を見渡すと、いたるところに”必要ないモノは買わないで。”と多言語で記されたサインボードが目に飛び込んでくる。
「サイズが合わなくても、市場価値があるから」などの理由で流通していくことに、これでもかと警鐘を鳴らしている。 ここに来れば、感覚が麻痺してしまう前の、正しくモノを買う感覚を取り戻せるかもしれない。
ストーリーを紡ぐ
息子たちのために購入した中古のダウンセーター。縫い目から少しダウンが出てきている部分に息子と一緒にリペアパッチを貼った。
外で遊ぶのが大好きだったんだろうと容易く想像できるキズ跡を眺めていると、
この先、これを着た息子たちと遊ぶのがより一層待ち遠しくなった。
やっぱり、新品よりもずっといい。
INFORMATION
「Worn Wearポップアップストア パタゴニア 東京・渋谷」
開催期間:2024年5月24日(金)~ 2024年8月19日(月)
開催場所:パタゴニア東京・渋谷ストア2階
住所:渋谷区神宮前6-16-8
営業時間:11:00~19:00
定休日:第三水曜日
買取お申し込みwebサイト
https://www.patagonia.jp/wornwear/trade-it-in/
文/増井友則