去る4月25日にグランドオープンした「パタゴニア軽井沢ストア」。取材を試みたのは、ビギンスタッフでも随一のパタゴニア愛を胸に秘める(自称)二人。なぜ軽井沢に上陸したのか。そしてココだけにしかない魅力とは何なのか。根掘り葉掘り見聞きすべく、いざ潜入!
今回ガイド役を買って出てくださったのは、このお二方。各プロフィールを見ればわかる通り、どちらも“パタゴニアの直営店の在り方”そのものを熟知するプロ。このご両人に聞けば同店にしかない魅力も丸裸にできるはず!
レッスン①
パタゴニアの本気度は入口から!
ショーウィンドウには製品を置かない!?
まずお二人が最初に教えてくれたのが、店に入る前から=看板とも言えるショーウインドウからしてパタゴニアらしさが感じられる、ということ。言われた通り店外から眺めてみたら・・・なるほど、気づいちゃいました! そうなんです。普通のショップなら外から見て一番目立つウインドウには売れ筋製品だったり限定製品だったりと、何かしら引きのあるアイテムをディスプレイするはずですよね。
ですが同店が、名刺代わりとも言えるエントランス部分に据えたのはパタゴニアの核ともいえる数々のステートメント(声明文)なんです。“Evil always wins if we do nothing.(なにもしなければ悪が勝つ)”という、創業者イヴォン・シュイナード氏の名言をはじめ、“パタゴニアとはどんな企業なのか”、“何を大事にしているのか”を、如実に物語るステートメントをこの位置に掲げることで、同店を訪れる人々にの自己紹介してるってわけ。
川上さん曰く、「パタゴニアでは“売り上げ”以上に“ストーリーを伝える”ということを重要視しています。だからこそマネキンに製品を着せてディスプレイするよりも、ステートメントを掲げたいなと思ったんです」とのこと。
ちなみに同じエントランス部分には、「星の王子さま」でお馴染みのアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによるエッセイ集、「人間の土地」の一説も陳列。これはシンプリシティをブランドの在り方と捉える、パタゴニアを体現する一説だとか。島田さんはこれを見てもらうことが、パタゴニアを深く理解してもらえることに通じるはずと、自ら前身であるシュイナード・イクイップメント時代のヴィンテージツールを収集し、この額装を制作したんだそう。
で、ようやく店内に潜入したと思ったらまた凄い!!! エントランスの上部にはなんともセンスフルなステンドグラスが! これは軽井沢を象徴する浅間山と白樺を、フィッツロイカラーで描いたもの。これも島田さんが設置を発案し、友人のアーティストに頼んで制作してもらったものなんだとか。入店した瞬間からここまで“売る”より“伝える”を重視する姿勢には、ホント感服させられます。
レッスン②
新製品とアウトレット製品を平等にレイアウト
“アウトレット=安売り”という考えはOUTです
お二人が次なるキモとしてレクチャーしてくれたのが、取り扱っている製品のカテゴリー。なんと同店では現在販売している通称“インライン”の製品と、前シーズンまでにリリースされていた“アウトレット”の製品を、ほぼ5:5の割り合いで販売してるんです。川上さん曰く、この双方を扱うストアを“ハイブリッド型”と呼ぶそうなんですが、ユニークなのはそのレイアウト術。
アウトレット製品を明確に“お買い得品ですよ!”なんて前面に押し出すことはせず、むしろメインのアウトレット区画を各カテゴリーの最も奥にレイアウトしてるではありませんか!
島田さんはこの配置にもメッセージを込めたそうで、「最近では軽井沢といえば“安くてお得”なアウトレットを連想される方も多いと思います。ですがパタゴニアが考えるアウトレット像は別物。昨シーズンまでにリリースされただけの物で、製品には何の不都合もありません。お買い得だから買うのではなく、必要だから買う人に届けたい。だからこそアウトレットをあえて目立つように配置して特売扱いするようなことはせず、インラインの製品と同じように販売したいなと思ったんです」。
なるほどそうして眺めてみると、目につく位置に陣取られているのは顔とも言える「クライミング」カテゴリーの製品に始まって、服好きの大好物である「ライフアウトドア」や「ワークウェア」のほか、「ハイク」や「フィッシング」等インラインの製品ばかり。あくまでアウトドアフィールドにアクセスしやすい軽井沢の地だからこそニーズが予想される製品を、適切な配置で販売してるんです。
川上さんもまた、この軽井沢の地でアウトレット製品をインライン製品と区別せず販売することには特別な意味があると感じているそうで「軽井沢ストアが目指しているのは、言わば“パタゴニアのカタログ”になること。入店してまずパタゴニアの精神に触れてもらって、実際にそれが顕在化している製品を見ていただく。パタゴニアのAtoZを丸ごと体感してもらえるような店舗にしたいなと」。
そのためにアウトレット製品が果たす役割は大きいようで、「私自身もそうですが、やっぱり小難しい説明ばかり聞いていても、なかなか頭に入ってこないですからね(苦笑)。色々なストーリーを理解していただいた上で、いざ実際に製品を探す段になってアウトレット製品があれば、実際に手に取って生活の一部として活用していただける方も増えると思ったんです」。
ちなみに軽井沢近辺のアウトドアフィールドは天候が変わりやすいそうで、それを見越してレインウェア類も豊富に陳列されていました。「アウトドアよりもタウンユースメインの自分にとっても、梅雨を控えている今時期はこの手のレインウェアが気になる。なんだかんだ普段使いに利く製品が多いから、服好きの“掘る”需要にも応えてくれそうですね」(マスイ)。
レッスン③
パタゴニアの世界観をギュッと凝縮した
細かすぎる空間学
最後にお二方が“パタゴニアのカタログ”を目指す同店の本気度を、最も顕著に表した存在として紹介してくれたのが、レジカウンター奥に設けられたティンシェッドルーム! シュイナード・イクイップメント時代からのパタゴニア史を知る信者なら、このトタンを見ただけで胸がときめくと思いますが、(グッとこない人はググるべし!)、このトタンも母国アメリカから取り寄せ、要所をヴィンテージ加工したもの。この空間は同社がかつて販売していた名作アーカイブを展示したり、講演会をはじめとする各種イベントを開催する、コミュニティスペースとして活用されるそう。
他にも寡黙な島田さんにクロサワが粘り強〜く聞くと、もう出るわ出るわ! パタゴニアイズムを視覚的に訴えかける仕掛けが、誰も目を留めないような場所まで散りばめられているじゃありませんか。下写真はそのほんの一例。
カウンターに島田さんが懇意のアーティストに制作依頼したピトン型のペン立てを鎮座させいていたり。あるいは浅間山をハイクした時に自然から着想を得て、レジカウンターにギッシリ浅間山の溶岩石を埋め込んだり・・・。軽井沢ストア全体を触媒として、パタゴニアの世界観が細部まで投影されているんです。
そして最も目立つレジの背面にデカデカと展示されているのが、お馴染みのこの言葉。「We are in business to home planet.(私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む)」。ここに立つと、物欲を刺激されて買おうと思った製品が本当に必要な物かどうか、改めて再考できるはず。
パタゴニア軽井沢ストアが目指す
NEXT50とは?
問い合わせ先/パタゴニア日本支社 カスタマーサービス☎0800-8887-447 パタゴニア 公式ホームページ
写真/松島星太 文/黒澤正人 編集/増井友則(Begin NEWS)