数多のモノ作りを見てきた賢人の服にかける想い“服ショーグン”が絶滅を危惧する服について
ウワサの服 希少予報[職人がヤバい!? 絶滅危惧服]
15年間にわたってビームスのバイヤーを務め、B印MARKETで展開する「和田商店」も絶好調の和田健二郎さんは、服ショーグンの異名を持つ服飾賢者。絶滅危惧服への想いもひとしおです。服ショーグンが想う、守るべき価値のある服とは?
教えてくれた人

ビームス ジェネラル スタイル クリエイター
和田健二郎さん
1969年生まれ。スタッフ3000人が日々投稿し、服を宣伝するビームススタイリングSNAPで、10シーズン連続売上1位に輝いた記録をもつ。インテリアや器にも精通する、センスの鬼!
「ともすると売れない!? トンデもない服作りを守りたい」
絶滅危惧服ですか、面白い言葉ですね。でも、ウチのクローゼットにある服は、絶滅危惧服ばかりかもしれません。昔から他人とカブらない服だったり、大量生産できない手の込んだ服が好きなものですから──。
サイのドルラグジャケットには、僕がバイヤーをしていた1999年に出会いました。デザイナーの日高さんとパタンナーの宮原さんが、ビームスのバイヤー陣の前でプレゼンしてくれて。ドルマンスリーブとラグランスリーブが交わったような、唯一無二の作りでね。
袖の前振りも強く、カラダの構造に合った、着ていてストレスがない作りになっている。これはスゴい、トンデモないパターンだ!と感動し、早速買い付けました。これだけ立体的だと、縫製も大変だったでしょうね。
とにかくパターンがトンデモない「サイ」のドルラグジャケット。
2001年を総括する「BB100」では1位に!
パターンがスゴいといえば、さまざまなブランドから型紙製作を請け負ってきた安島さんというベテランが手掛ける、コパノ86というブランドのジャケットもスゴい。アンコンなのに肩周りに構築的な丸みがあって、素晴らしい着心地なんです。
それから、パンツのディテール1つをとっても手抜きがない。座ったときに突っ張らないよう、背面のベルトループは下端のみを縫って、ふらしループになっていたりね。
現代でこんなに手間の掛かることをわざわざやるブランドって、ないですよ。ちなみに安島さんとサイの宮原さんは、今なお型紙を手描きで引かれている御方。今は工場とのパターンのやりとりもデータですから、本当に絶滅危惧な服作りをしていますね(笑)。
現代ではまずやらない凝った作り「コパノ86」のセットアップ
そして最近、最も感銘を受けているのがタカヒロミヤシタザソロイスト.の服。宮下くんは友人でもあるのですが、彼の世の中にないものを作る姿勢、ミリ単位で修正を掛けながら、緻密に服を作り込んでいく姿勢を尊敬しています。
お気に入りのボンバージャケットは、中央アジア伝統のラリーキルトを解体して再構築したもの。ラリーキルトとは古い布地を重ね、針を行ったり来たりしながら手で縫いあわせたキルトですから、当然、すべてが一点モノです。
これを服地にするアイデアもさること、柄合わせも完璧!の一言。裏のパイピング処理も非常に美しい。この裏返して着られるほどキレイな作りは、紹介した3着に共通する魅力といえますね。
「タカヒロミヤシタザソロイスト.」のボンバージャケットは、真性の唯一無二
丁寧に作り込まれた服は値段もしますし、万人にウケるわけではありません。守る意識がないと職人も減るばかりでしょう。だからこそ僕は、服屋として、いちファンとして、丁寧なモノ作りをしている人々を応援したい。それに、手放したくないと思えるこうした絶滅危惧服こそ、SDGs時代に求められる服なのだと思いますよ。
和田さんの本が発売!
服装術に調度品、器に格闘技まで。和田さんが敬愛する選りすぐりのモノ・コト・ヒトにフォーカスした書籍が発刊。全国書店やビームスにて絶賛販売中だ。1760円。世界文化社刊。
※表示価格は税込み
[ビギン2023年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。