特集・連載
プラチナ万年筆のプレピーと缶コーヒーの奇妙な関係!? 【文房具グルメvol.1】
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#01です。
こだわりのドリップコーヒーより安い!?
プラチナ万年筆のプレピー
文房具に興味を持ちはじめた人が、最初に憧れ、そして最初に挫折するもの。それが「万年筆」ではないか、と私は思う。
単純に「書く」という機能に目を向ければ、ボールペンでこと足りる。買えばすぐに使え、メンテナンスの必要もなく、価格も安い。にもかかわらず、私たちが手間も時間もかかる万年筆にボールペンにはない憧れを抱くのは、それが機能性だけでは満たされない「何か」への渇きを癒やしてくれるからだ。
たとえるなら、コーヒーを飲む際に自動販売機で缶入りのものを買うか、ゆっくりハンドドリップで淹れるか、の違いだろうか。サッと飲める缶コーヒーも忙しい現代人にはありがたいけれど、たまには豆を選ぶところからこだわったコーヒーも味わいたい。淹れている時間も含めて、すべてをじっくりと楽しみたい。そんな思いを受け止めてくれるのが、万年筆という筆記具なのだ。
だが悲しいかな、ボールペンより手がかかることが、「書く」行為をスタイルにまで押し上げてくれている反面、「挫折」の大きな要因にもなっている。
万年筆の最大の敵は「乾燥」である。毎日使ってこまめにメンテナンスを行う分には問題にならないが、数週間でも使わずに放置すると、インクの水分が蒸発して濃くなり、かすれ気味になってしまう。完全に乾ききってしまうと、もうお手上げ。インクの成分が内部にこびりつき、専用のクリーニングキットやメーカーでの分解洗浄などに頼らざるをえなくなる。
正しく手間をかければ極上が味わえるとわかってはいるのだが、やっぱり忙しくて面倒で、今日も缶コーヒーに手をのばしてしまう。そんな挫折を経験した現代の大人たちにこそ試してほしいのが、プラチナ万年筆の「preppy(プレピー)」である。
preppyの最大の特徴は、「1年使用しなくてもインクが乾かない」と評判の高い気密性を実現した、スリップシール機構のキャップである。何しろ、これが本当に乾かない。「おっと、今日は万年筆でも使ってみようかな?」と思い立ったときに、どれだけ引き出しの中で放ったらかしにした後だとしても、つい昨日インクを入れたばかりのようにさらりと書きはじめることができるのだ。
価格も1本300円から400円とボールペン並みなので、他の筆記具といっしょくたにペンケースに放り込んで、ガチャガチャと持ち歩いても心が痛まない。値段が値段だけにペン先はステンレス製だけれど、なかなかどうして、書き心地も侮れない。程よいシャリシャリ感がありながら、紙の上をなめらかに走っていく。ボールペンと変わらない気軽さで、しっかり万年筆で書いている気分を味わえる。
私は文房具マニアだから、万年筆も高級品やヴィンテージ品など、いわゆる「イイモノ」もいろいろ持ってはいるけれど、「今日は何で書こうかな」と筆記具を選ぶときに、気がつけばいつもpreppyにばかり手がのびてしまうのも道理である。
そんなわけで、「万年筆にちょっと興味があるけれど、高価だし、挫折してしまったらもったいない」という人には、迷わずpreppyをオススメすることにしている。「タバコ1箱、コーヒー1杯の値段で、憧れの大人に近づけるんだから、いちおう試してみる価値はあるんじゃないかしら?」ってね。
400円(クリスタル〈03〉細字 F、〈02〉極細 EF)、
300円(〈03〉細字 F、〈05〉中字 M)
http://www.platinum-pen.co.jp
※イラストは「クリスタル〈03〉細字 F」
※表示価格は税抜き
ヨシムラマリ
神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。