特集・連載
キャンパスノートはもはや”大学”ノートではありません【文房具グルメvol.2】
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#02です。
ノートは文房具界の白ごはんである
コクヨの大人キャンパスシリーズ
人はひとりでは生きていけないように、文房具もまた相互の関係性の上に成立している。例えば、どんなによいペンがあったところで、筆記具の「書く」という能力は、「書かれるもの」があってはじめて発揮される。書かれるものとは即ち紙であり、多くの場合、それはノートのことである。
ノートが常にペンに対して受け身の立場だからといって、控えめな存在かというと、そうでもない。美味しいお米があると、おかずの味がグッと引き立つように、よいノートというのは「書く」ものの潜在能力を余すところなく引き出してくれるもの。映画でいうならダブル主演。スポーツならば宿命のライバル。宝塚でいうところのトップスターと娘役のトップ。両方が揃ってこそ、お互いの魅力と実力を発揮できるものなのだ。
そんな文房具界の白ごはんのなかでも、気兼ねなく毎日食べられて飽きがこず、どんなおかずにもマッチする、いい意味で「超普通」のブランド米。それが、コクヨの「キャンパスノート」である。
「今さらキャンパスノートか〜、どこにでも売ってるじゃん?」と侮ることなかれ。キャンパスノート専用に製紙されているというオリジナルの中紙は、えんぴつ、シャープペンシル、ボールペンにとどまらず、万年筆からマーカーやサインペンまで、あらゆる筆記具をぴたりと受けとめてくれるバランスのよさがある。それでいて、価格も大変リーズナブル。発売から44年経ってなお年間で1億冊を出荷しているのも納得の、まさに国民的ノートである。
だがこのキャンパスノート、一般的に「大学ノート」とも称されるように、なんとなく学生のものというイメージがついている。社会人になって、スーツやジャケット姿で使うには、ちょっとカジュアルすぎるような……と思われる方もいるようだ。
たしかに、大人になっても子どもの頃と同じお茶碗でごはんを食べている人は少ないかもしれないが、大人になったからといってごはんを食べなくなったわけではないだろう。どこかのタイミングで、お茶碗を大人用に買い替えたはずだ。
……と、コクヨの開発者が考えたのかどうかはわからないが、キャンパスノートにも「大人キャンパス」というシリーズができた。2015年のことである。中紙は従来のキャンパスノートそのままに、表紙はモノトーン系でキリッと大人っぽい雰囲気になっている。5mm方眼の罫線や、A4横型のノートパッドなど、ビジネスで使い勝手のいいラインナップが充実しているのも大人には嬉しいところ。
飾り気のないシックなお茶碗に、お腹いっぱい食べられる白ごはん。大人だから、きょうの「ふりかけ」はちょっとよい万年筆にしちゃおうかな? などと考えを巡らせるのもまた、日々の生活の楽しみである。
170円(A5、40枚、方眼罫)
https://www.kokuyo-st.co.jp/
※表示価格は税抜き
ヨシムラマリ
神奈川県出身。子どもの頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がけている。著書『文房の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。