ミュージアム名品を通してアートを楽しむ[博ブツ観]
退屈しないTシャツはミュージアムに潜んでいる!?
ミュージアムグッズは、単なるお土産品にあらず。旅好きのグッズ愛好家・大澤夏美さんによる、掘れば掘るほど面白いグッズとアートのお土産バナシをどうぞ。

ミュージアムグッズ愛好家
大澤夏美さん
博物館経営論を軸に、全国の博物館を訪ねてグッズも研究。著書に『ときめきのミュージアムグッズ』(玄公社)など。新著『ミュージアムと生きていく』(文学通信)が発刊中。
旅の指南役として歩く日は、伊丹十三の力を借りて
ある日、「バイト代で今度友達と東京遊びに行くわ」と娘に声をかけられました。制服ディズニーといふものを我もしてみむとてするなりといって、飛行機や宿の手配も自分で行うそう。
娘が10歳くらいの頃から一緒に旅をしており、思い出し笑いしちゃうエピソードもたくさん。当時彼女に「自分の荷物は自分で準備してごらん」と専用のスーツケースを与え、いざ宿で荷ほどきしたところ……そのほとんどを占めていたのは、彼女がいつも使っているお気に入りの毛布だったことも! 自分でやってみないと分からないからこそ「お土産を買って帰るから、そのスペースを用意しておこうね」という私のアドバイスも響くのです。
「お母さんは旅の達人なんだね」と娘に言われると、少し誇らしい気持ちになったものでした。
伊丹十三のエッセイ『ヨーロッパ退屈日記』に、「スパゲッティの正しい食べ方」という一篇があります。皿の上を舞台にエレガントにフォークの腰に麵を巻き付け、すする音を立てずに食べる。1960年代初頭のヨーロッパ滞在時の思い出を書き留めるにとどまらない本著は、自身の美意識への矜持フルスロットル。読者の憧れを一身に集める「洒脱」の指南役としての役割を、今も昔もしっかり担っているのでしょう。
伊丹十三はイラストレーターとしても人気。彼のエッセイはその文章だけでなくコミカルな挿絵も人気なんです。この「スパゲッティの正しい食べ方」にも挿絵があり、愛媛県松山市にある伊丹十三記念館のミュージアムショップではオリジナルTシャツを購入することができます。「スパゲッティってのはこう巻くんだ」という彼の声が聞こえてきそう。ぜひ現地へ足を運んで購入し、着て帰りたいです。
娘との旅の行き先はほとんどミュージアム。テーマパークにあまり連れて行ってあげられなくて申し訳なかったな……と思いつつ、てきぱき支度をする娘を見ていると、旅慣れさせておいてよかった、旗振り役として色々一緒に行けてよかったなと感慨深い気持ちになりました。伊丹十三ほどおしゃれな指南役にはなれなかったけど。
「いいんじゃない? お母さんは『私にとっての』旅の達人だから」そう笑う娘の顔つきは、いつの間にかずいぶん大人になっていました。
伊丹十三のイラスト入りTシャツ
1965年に発表したエッセイ集『ヨーロッパ退屈日記』に掲載しているイラストがプリントされたTシャツ。薄手のコットンを使用した柔らかい着心地だ。M、Lサイズ。赤と黒の2色展開。3520円。
伊丹十三[Juzo Itami]
1933年京都府生まれ。商業デザイナーを経て、俳優として国内外の作品に出演。また雑誌『モノンクル』を創刊、『お葬式』で映画監督デビューと多岐に渡って活躍した。猫好き、料理通としても知られる。

マルチな才能を持つ所以を体感しよう
「伊丹十三記念館」
俳優、エッセイスト、映画監督など様々な分野で活躍した軌跡を13のコーナーに分けて展示している。
- 住所 :
- 愛媛県松山市東石井1-6-10
- 電話 :
- 089-969-1313
※表示価格は税込み
[ビギン2024年8月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。