ミュージアム名品を通してアートを楽しむ[博ブツ観]

素材の味が浮かぶ持ちたくなる扇子

東京・浅草の池波正太郎記念文庫 扇子

ミュージアムグッズは、単なるお土産品にあらず。旅好きのグッズ愛好家・大澤夏美さんによる、掘れば掘るほど面白いグッズとアートのお土産バナシをどうぞ。

Profile
ミュージアムグッズ愛好家 大澤夏美さん

ミュージアムグッズ愛好家

大澤夏美さん

博物館経営論を軸に、全国の博物館を訪ねてグッズも研究。著書に『ときめきのミュージアムグッズ』(玄公社)など。新著『ミュージアムと生きていく』(文学通信)が発刊中。

「粋」を持ち歩こう! 扇子選びに光るセンス

出張で全国各地をめぐるようになってから、夏は必ず扇子を持ち歩くようになりました。日頃北海道で生活していると、扇子を持ち歩かなくても案外夏を乗り切れてしまうんですよね。夏の道外の暑さにいつも戦々恐々としながら、身体を冷やすアイテムをスーツケースに入れています。

ミュージアムショップでも最近は扇子の取り扱いが一般的になってきて、所蔵品を生かしたオリジナルデザインのものを製作するところも増えてきました。今回ご紹介したいのは、浅草にある池波正太郎記念文庫の扇子です。

池波正太郎といえば『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』などの時代小説。展示室にはこの人気3作品の世界観を紐解いたコーナーや、池波の書斎を復元したコーナーも。館内で販売されているオリジナルの扇子には鬼平が描かれているものもあり、愛読者にはたまりません。

でも私のお気に入りは、甘鯛や野菜などの食材が描かれたデザインの扇子です。池波は幼い頃から絵を描くのが好きで、絵画作品も多く残しています。ミュージアムグッズにも池波の絵を使用したものがたくさん。

なかでも美食家としての慧眼を生かした食材の絵には、食を取り巻く江戸の「粋」が映し出されています。池波が描きたかったのは、文化そのものなのでしょう。

扇子と一緒によくカバンに文庫本を入れているのですが、旅先でも気軽に読めるようなエッセイが多いんです。池波は食にまつわるエッセイも多く、移動中に読んでは「美味しそう! 今日はこのお店でご飯にしようかな」とお店を決めることも。

池波正太郎記念文庫の展示室にも自筆画やエッセイのコーナーがあります。池波の審美眼が時を超え、現代の私に影響を与えている。それ自体が、愛好家として自分の価値観を世に出す仕事をしている身として何より襟を正されます。

今日は浅草や上野のミュージアムを回る予定。そんな日は池波氏の文庫本とこの扇子をカバンに入れていこう。扇子選びにも私の“センス”が宿っているから、なんちゃって(笑)。

街角でそうひとりで笑っていれば、ふと「そこに自分の粋はあるか?」と池波氏からの声が聞こえてきそう。彼に自信をもって答えられるように、これからも自分の眼を磨いていこう。

池波正太郎の自筆絵画を使用した扇子
池波正太郎の自筆絵画を使用した扇子

当記事冒頭の写真「あま鯛」と「野菜」は『剣客商売庖丁ごよみ』の挿画を採用している。ほか『鬼平犯科帳』の「長谷川平蔵市中見廻りの図」の「鬼平」柄(写真上)もあり。各3000円(鬼平は4000円)。

ミュージアムグッズから学ぶ博識キャプション

池波正太郎

池波正太郎[Shotaro Ikenami]
1923年、東京・浅草生まれ。終戦後劇作家から執筆を始め、戦国・江戸時代を舞台にした時代小説を数多く残した。美食家としても知られ、『食卓の情景』など食に関するエッセイも多数執筆している。

information
池波正太郎記念文庫

江戸を舞台に描いた作家の世界観を堪能
「池波正太郎記念文庫」

池波氏の作品に関する資料を収蔵し、書斎の復元や著作・ 自筆原稿・絵画等の一部を常時展示している。

住所 :
東京都台東区西浅草3-25-16
電話 :
03-5246-5915

 
※表示価格は税込み


[ビギン2024年7月号の記事を再構成]写真/伏見早織 文/大澤夏美 イラスト/TOMOYA

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