ミュージアム名品を通してアートを楽しむ[博ブツ観]
明日香の石室に遺した 天文への魂とロマン
ミュージアムグッズは、単なるお土産品にあらず。旅好きのグッズ愛好家・大澤夏美さんによる、掘れば掘るほど面白いグッズとアートのお土産バナシをどうぞ。
ミュージアムグッズ愛好家
大澤夏美さん
博物館経営論を軸に、全国の博物館を訪ねてグッズも研究。著書に『ときめきのミュージアムグッズ』(玄公社)など。昼間はeスポーツ専門学校の講師として活躍する一面も。
残してくれた人、つなげてくれた人を想って
連載2回目にしていきなりの独白なのですが、実は私は「宇宙」が苦手。小学校中学年くらいから銀河や惑星など宇宙にまつわるものが怖くて、今もプラネタリウムに足を運ぶのは苦手←なんです。宇宙の誕生から何億年という膨大な時間が経過している、と思ったら、そのあまりの長さに飲み込まれてしまう感覚が怖かったのでしょう。ただ、ミュージアムの研究を始めてから、その時間に抗い、未来の世代のために懸命に資料を研究し残そうとする研究者やミュージアムの中の人の存在を知り話をすることで、少しずつ宇宙への怖さが薄れていきました。
奈良文化財研究所 飛鳥資料館を訪れたのは『ミュージアムグッズのチカラ』の取材がきっかけ。資料館へ向かう道すがら、揺れるバスの中で周囲の様子を観察し、地図と照らし合わせていたのを覚えています。車窓からこんもりと緑が茂る丘を見つけ、調べると古墳。寺跡に城跡に古墳に…遺跡だらけのここは、本当に現代なのかしら。
資料館で印象に残ったのは、第一展示室にあるキトラ古墳壁画の精巧な複製陶板。キトラ古墳は7世紀末〜8世紀初頭頃に造られたと考えられており、石室内の壁画は国宝。天井の天文図は中国式の天文図としては世界最古とのことです。学術的な価値はもちろん、今なお維持されるその美しさに感動し、よくぞ残ってくれた、残してくれたと泣きそうになりました。あんなに宇宙にまつわるものが苦手だったのに。
ミュージアムショップで購入したのは「キトラ古墳の天文図ブックカバー」。ブルーが基調であまり直接的に宇宙を連想させないので、私でも大丈夫。ブックカバーと本の内容をリンクさせるのも楽しいので、SFや歴史系の本に使ってみようかな。
1000年以上前の昔、一生懸命石室に天文図を残した人たちがここにいた。それを私たちが体感できるのも、資料を次の世代へつなげてくれる人がいるからです。このブックカバーを文庫本にかけて、今日も私はミュージアムへ足を運ぶ。天文図を描いた人たちはもう誰もいないけど、私はあなたの絵を見ていつでも感動を呼び起こせる。同様に、私がいなくなっても残してくれる人がいれば、きっと誰かが未来で私の本を読んだりするんだろう。そんなことにいつも救われています。
ブックカバー(キトラ古墳天文図柄)
360個ほどの星を結び、74の中国の星座が描かれた古墳の石室内天文図がブックカバーに。ブルーは濃淡をつけて、空をリアルに表現している。文庫本サイズ。600円(飛鳥資料館)
キトラ古墳[Kitora Tumulus]7世紀末~8世紀初頭に造られたとされる小さな円墳。昭和58年からの調査で、石室内に古代の神獣である四神や世界最古の天文図など極彩色壁画が発見された。現在、一般公開は年4回の申込み制。

どこか懐かしい風景と古代の遺跡が一面に!
「飛鳥資料館」
「飛鳥」の歴史と文化財の調査・研究を専門におこなう奈良文化財研究所の展示施設。近隣の庭園も人気。
- 住所 :
- 奈良県高市郡明日香村奥山601
- 電話 :
- 0744-54-3561
※表示価格は税込み
[ビギン2023年7月号の記事を再構成]写真/伏見早織 文/大澤夏美 イラスト/TOMOYA