特集・連載
たまらずハグしたくなる? 文房具界のスイーツカップルとは【文房具グルメvol.8】
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#08です。
人間を人間たらしめる「人間らしさ」とは何か、と考えたときに、「無駄を愛でる心」はその内のひとつではないか、と私は思う。
この連載のテーマである「グルメ」などはまさに、これを象徴するもののひとつだろう。単に生命を維持するための必要な栄養素を摂取することが目的であれば、水を飲み、生野菜や果物をかじり、ただ火を通しただけの肉や魚を頬張り、塩を舐めてさえいればいいのだ。だが、実際には多種多様な食の文化が存在し、私たちはそれを楽しんでいる。
人間がただ生きるだけではなく、「人間らしく」生きるためには、体の栄養だけではなく、心にも栄養を補給することが不可欠なのだ。「心の栄養」は、体からしてみれば「無駄」である。だがそのスイーツのような無駄こそが、私たちの日々を彩り、ワクワクやときめきでもって、生活を、そして人生を、豊かなものにしてくれるのだ。
文房具界のスイーツ的な存在といえば、マスキングテープが真っ先に思い浮かぶ。
マスキングテープは元来、文字通り塗装の際に色をつけたくない部分を覆い隠す(マスキングする)ためのテープであった。それが雑貨用に転身し、2008年にカモ井加工紙から「mt」ブランドで発売されるやいなや、瞬く間に社会現象となった。今となっては女性ならば誰もがひとつやふたつ、いや5つや6つ、場合によっては30や40、もしくはそれ以上を持っている人も少なくないかもしれない。
はっきり言ってしまえば、そんなにたくさんマスキングテープを持っていたところで、一生かかっても使い切れるわけではない。実用性という、「体の栄養」視点ではまったくの無駄なのだ。でも、眺めているとかわいいから。ウキウキするから。旅先で買ったもの、プレゼントでもらったものは、素敵な思い出が蘇るから。それこそが、心にとっては大切なことなのである。
そんなスイーツ文具の代表格であるマスキングテープ、せっかくであれば切るときにもかわいさにこだわりたいという人にオススメなのが、スガイワールドのマスキングテープカッター「アニマルハグ」である。
アニマルハグをテープに取り付けると、その名の通り動物がギュッと一生懸命に抱きついているようで大変かわいらしい。動物のおしりの部分がギザギザしていて、ここでテープが切れるようになっている。材質は紙だが、硬さがありしっかりとしている。
動物はクロネコ、モンキー、ベアーの3種類で、色はすべてブラック。さらに最近では、ホワイトカラーでシロネコ、シロウサギ、シロクマが追加された。どの動物も絶妙なかわいさで、目に入るたびに思わず顔がほころんでしまうので、あえて机の上に出しっぱなしにしておきたくなるほど。このテープカッターを使いたいがために、またマスキングテープが増える、というループにはまってしまいそうだ。
私の夫は問う。「そんなにいっぱいマステがあって、何に使うの?」と。私は自信に満ちて答える。「使うとか使わないとかじゃないの。持ってると嬉しいから持ってるの」と。ただ引き出しからあふれんばかりのマスキングテープを見ていると、こちらもスイーツと同じく食べ過ぎ注意、何事もほどほどが一番だなということは、薄々と感じてはいるのだが。
480円(2個入)
https://www.sugai-world.com/wordpress/?p=8823
※表示価格は税抜き
ヨシムラマリ
神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。