特集・連載
いつか“22世紀”のヴィンテージ古着に。職人の技とプライドが詰まったライティングコート
結局得する新・一点豪華主義 「え!? これがこの値段?」。ここ数年、安くていいモノが本当に増えました。一方で、それに慣れてきて無意識に“安いこと”が買い物の条件になっていませんか? そこでオススメしたい選びのポイントが一点豪華主義。多少値が張ろうが張るまいが「これはイイ!」と思える今の時代の“新しいリッチ”をお届けします! この記事は特集・連載「結局得する新・一点豪華主義」#11です。
クリエイターの理想を現実にする確かな手技
― 談・ファッションデザイナー 吉田十紀人さん
古い話になりますけど、21世紀を迎える直前のメディアの取材で「次の世紀にどんな服が作りたいですか?」という質問をよく受けたんです。そんなときは決まって「21世紀のヴィンテージとなりうる服が作りたい」と答えた。
たとえば古着屋に並ぶミリタリーウェアやワークウェアのように、仕立てがしっかりしていて、いつの時代のどんな着こなしにも馴染む普遍的な服ですね。この気持ちは今も変わりません。
というか、ボクのように男の服を長年作り続けてきたクリエイターなら、誰しも似たような気持ちがあると思う。
このライディングコートもそんな“将来のヴィンテージ”を念頭に作りました。そもそも今回の企画の発端は、日本最高峰のコート専業工場であるサンヨーソーイングを擁する三陽商会さんからのお声がけでした。
50年の歴史を持つ同工場は三陽商会のみならず、いろんなブランドを顧客に持ちますが、今後はそのクラフツマンシップを海外にも発信したい、そしてそのきっかけとなる製品を一緒に作ってほしいと依頼されたんです。
このお話はボクにとって願ってもないものでした。というのも自分の作る服はパターンが複雑で、パーツ数もやたらと多い(笑)。そのうえ細かなところまで妥協しない性格ですから、いつも協力してくれる工場の確保に苦労してきたんです。
でも今回のお相手は三陽商会のあの「100年コート」を一手に引き受けている工場。ここなら自分が温めてきたアイデアを思う存分ぶつけられる、と。
とはいえ先方もここまでマニアックとは思わなかったみたいですね。青森・七戸にある工場で打ち合わせしたときも「通常のコートの5倍以上の手間がかかる」とぼやかれた(笑)。
それでも職人さんたちはボクの考えたデザインやギミックを崩さぬよう奮闘してくださいまして、熱のこもった素晴らしいコートを作り上げてくれた。
繊細なステッチや衿周りの美しいラインなど見所はいろいろあるのですが、とくに素晴らしいのが生地の落ち感です。真っ直ぐにストンと落ちるから、ベルトをキュッと絞ったときにとても綺麗なドレープが楽しめる。後ろ姿なんて惚れ惚れするほどです。
これはサンヨーソーイングの精密な縫製技術があればこそ。ほかではここまでの出来映えにならないでしょう。
まさに日本の職人の技とプライドが詰まった一着。このコートなら、21世紀どころか22世紀の古着屋に並んでいるかも、なーんて夢想しているんですよ(笑)。
ファッションデザイナー
吉田十紀人さん
1955年生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、メンズビギのデザイナーに。その後「ポパイ」や「ブルータス」などの編集者を経て、フリーのデザイナー兼クリエイティブディレクターへと転身。’97年に「トキト」発足。バブアーやウールリッチとのコラボも話題に。
SANYO SEWING DESIGNED by TOKITO
サンヨーソーイング デザインド バイ トキト
ライディングコート
クラシックな迫力に満ちたデザインは軍用バイクコートから着想。裾のボタンで左右の身頃を拝むように留めるとオーバーオールのようになる。風合い豊かな高密度平織りコットン生地も魅力だ。18万円。(SANYO SHOKAI カスタマーサポート/ビギンマーケット)



SANYO SEWING DESIGNED by TOKITO/サンヨーソーイング デザインド バイ トキト
美しさを支える青森の一流工場
美しい衿を生むアイロンと手まつり
コートの生命線である衿周りの仕立てにはさまざまなテクニックを駆使。アイロンを先に行ったうえで身頃と手まつりで接続するのも、美しく立つ衿の形を維持するため。
“引き縫い”で2枚を完璧に結合
前身頃と後ろ身頃を結合する脇の2本ステッチは、2本針ミシンではなく、本縫いで一本一本入れている。この際、縫い縮みを見越し、生地を前後に微妙に引っ張りながら縫製(引き縫い)。この手間のかかる縫製により2枚の生地が完璧に馴染み、美しい落ち感に。
着用時に近い“吊るし”で仕上げのプレスを行う
部位ごとに専用アイロンでプレスした後、仕上げは吊るして空中プレス。立体的で美しいシルエットが際立つ。
SANYO SEWING/サンヨーソーイング
※表示価格は税抜き
[ビギン2019年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。