北斎の“天井絵”を見上げながら歩く。「北斎館」のエモい晴雨兼用傘

ミュージアムグッズは、単なるお土産品にあらず。旅好きのグッズ愛好家・大澤夏美さんによる、掘れば掘るほど面白いグッズとアートのお土産バナシをどうぞ。
ミュージアムグッズ愛好家
大澤夏美さん
博物館経営論を軸に、旅をしながら全国の博物館を訪ねてグッズも研究。著書に『ミュージアムと生きていく』(文学通)など。最近は講演会で各地を巡り、グッズを探訪中!
傘を使う日は、天井絵を見上げた記憶と共に
ここのところの旅の必需品は晴雨兼用の折り畳み傘。ゲリラ豪雨、ジリジリ照りつける強い日差し……いずれも道産子の私には大変厳しい大敵です。雪には強いのですが雨は苦手。急な大雨に降られやしないかと……道外への出張の際、カバンの中に折り畳み傘を入れていないとちょっと不安になってしまうほど。大事な相棒として使っています。
そして特に最近は、性別年齢問わず日傘を使う人が増えましたよね。直射日光を防ぐだけでも涼しさを感じますし、紫外線を浴びると疲れやすくなります。日差しのもとを歩く機会が多い旅先では、とにかく疲労防止や熱中症予防として折り畳み傘を使いたい!
最近は、ミュージアムショップでも折り畳み傘を買えるところが増えました。おすすめは、長野県の小布施にある北斎館で販売中の「折傘」。北斎は晩年に、小布施の豪農・豪商である高井鴻山の招きにより、小布施で作品を制作します。当地で制作された作品が北斎館で展示されているのです。
特に好きなポイントは、傘の裏面に葛飾北斎の肉筆画の代表作《上町祭屋台天井絵怒濤図 男浪図》がプリントされているところ。この、裏面にプリントされているのが大事なんです。男浪図は、鴻山が私財を投じて制作した上町祭屋台の天井絵として北斎が描いたものです。だからこそ、傘の裏面にプリントされる意味がある! 見上げると、展示室で天井絵を鑑賞した時の思い出が蘇ります。
折り畳み傘ですがサイズも直径110cmあり、生地も厚手なのでちょっとした風雨にも負けません。表面のグラデーションカラーが薄墨を思わせ、雨の日はしっとりと濡れた質感が上品でじつに素敵……! 折り畳み傘って、コンビニなどでテキトーに買ったものを何となく使い続けちゃうことも多いので、そんな方への贈り物にしても良いかもしれません。
「男浪」とある通り、北斎が描いた天井画には「女浪」もあります。男浪が波の端々まで強いしぶきを感じさせるのに対し、女浪はぐるりと渦を巻いた様子が印象的。その違いもぜひ現地で見てほしい。そんなことを考えながらこの傘を使えば、旅先での紫外線や雨にも負けない強さを、北斎に分けてもらえそう!
表面はブラックだから派手になりすぎない

天、波をして八本の骨を授かしめば 真正の傘となるを得べし
北斎館オリジナルの折りたたみ傘。弘化二年(一八四五)から翌三年にかけて長野県小布施町で制作された、北斎の代表作『怒濤図 男浪図』を配している。φ110cm。6600円。
葛飾北斎[Katsushika Hokusai]
『冨嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」や「赤富士」が有名。90歳まで画業に勤しみ作品数は3万点以上。最期には「天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得べし(=天があと5年生かしてくれたら真の画家になれたのに)」と遺した。
葛飾北斎の専門美術館! 肉筆画や版本が見られる
「北斎館」
晩年に手がけた東町・上町の祭屋台天井絵「龍図」、「男浪図」、「女浪図」を常設展示する。
- 住所 :
- 長野県上高井郡小布施町小布施485
- 電話 :
- 026-247-5206
※表示価格は税込み
[ビギン2025年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。
