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清澄白河BASE

数年の間に世界を一変させる可能性を秘めているDXにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える、優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やそこに込められた思いを紹介していきます。

今回訪れたのは、最先端技術を使って新たな表現手法を追求することを目指す「清澄白河BASE」。先端テクノロジーを使ったコンテンツ制作を行う「ソニーPCL」が、昨年の2月、東京都現代美術館にほど近いビル内にオープンした、時空を越える!?クリエイティブ拠点です。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.3〜ソニーPCL社の「清澄白河BASE」バーチャルプロダクション

突然ですが、昨秋に公開された「ユニクロ」のウルトラライトダウンのウェブCMをご覧になったことはありますか? 紅葉した山中や雪で覆われた銀世界など、モデルの背景が次々と切り替わり、その映像美につい見入ってしまいます。「すごい合成技術!」と安易に決めつけてしまいがちですが、そのCMを最後まで見れば室内のスタジオで撮影している様子が映し出され、合成によるものではないことがわかります。

清澄白河BASE

このCM作品が撮影されたのが「清澄白河BASE」です。施設内にあるスタジオでは、大型LEDディスプレイ、カメラトラッキングシステム、リアルタイムエンジンを組み合わせた、バーチャルプロダクションという最先端の手法を使った撮影を行うことができます。

バーチャルプロダクションとは、空間を活用したリアルタイム映像制作を行う新たなプロダクションワークフロー。さまざまな最先端の技術を組み合わせて、リアルなロケーションで撮影したかのように被写体とバーチャル背景を撮影できます。合成の手間がかからず場所の制約もない、出演者の拘束時間も短くできるため、ユニクロをはじめ、人気アイドルグループのミュージックビデオや有名映画監督の最新作でも取り入れられています。

映像業界の注目度が高まる映像クリエイティブのDX化。「清澄白河BASE」のバーチャルプロダクションスタジオについて、その誕生のきっかけと魅力に迫ります。

柱のない大空間は、体育館をリノベーション

清澄白河BASE

バーチャルプロダクションは超大型ディスプレイ(「清澄白河BASE」は約635インチ相当!)に3DCG映像を映し出し、その手前に配置した被写体をカメラで撮影するため、十分なスペースが必要です。そのため「バーチャルプロダクションスタジオ」の床面積は約760m²(「清澄白河BASE」の延べ床面積は約1430m²)にもなります。ちなみに「清澄白河BASE」には、「ボリュメトリックキャプチャ」というこれまた最先端の撮影手法を使って撮影できるスタジオもあります。

ソニーPCL株式会社 クリエイティブ部門 小林 大輔氏
ソニーPCL株式会社 クリエイティブ部門 ビジュアルソリューションビジネス部 統括部長 小林 大輔氏

「ソニーPCL」は、2020年にバーチャルプロダクションの商用利用の検討をはじめました。当初は小規模なオフィスビルの一角からスタートしましたが、映画やドラマの撮影スタジオに拠点を移動。2021年4月に東宝スタジオ(東京都世田谷区)内に独自のバーチャルプロダクションスタジオを設置し、本格的な商用利用を開始しました。

そして2022年2月、バーチャルプロダクションのさらなる普及を目指し、初の自社スタジオとしてオープンしたのが「清澄白河BASE」。以前は企業の体育館として利用されていたというビルのフロア。広いスペースはもちろん、天井が高く柱がないことが決め手となりました。「清澄白河BASE」の立ち上げを担当した一人、ソニーPCLの小林さんによると、場所が決まってからも、体制の整備やスタジオの構築のために半年間も要したと言います。

リアルな3DCG空間を作り出せる

3DCG映像を映し出す大型ディスプレイには、ソニーの開発した高輝度、高コントラストで照明の映り込みも少ないCrystal LED Bシリーズが使用されています。ディスプレイは長方形のパネルを緩いカーブを描くように繋ぎ合わせて成形されており、サイズは横幅15.2×高さ5.4メートルです。解像度は8K相当(フルハイビジョンの16倍)と言うから驚きです。

清澄白河BASE

上写真の「BASE」ロゴや上部の照明はじつはすべて映像。バーチャルだと知っていても、触って確かめたくなるほどリアルに浮かび上がっています。まるで超リアルなセットの中で撮影しているような画を撮れるのが、このスタジオの特徴です。

バーチャルとリアルをその場で融合

合成技術を用いた撮影では、一般的にグリーンバックというシートの前で被写体をカメラでおさえ、そのデータをCGや別で撮影したリアルな背景と重ねて映像作品にまとめます。ですがこの方法だと、撮影後、合成の違和感をなくすために大きな労力がかかります。例えば、人の瞳の写る背景を描いたり、光の違和感を調整したりなどです。もちろん求めるクオリティにもよりますが、膨大な作業が必要となるため、制作に時間がかかってしまう弱点があります。

サングラスやサイドミラーにも森の風景が!

バーチャルプロダクションで撮影をすると、この撮影後の処理を劇的に減らすことができます。赤外線センサーを使って、リアルなカメラがどの位置でどの角度で被写体と背景を撮影しているかに応じて、3DCGをディスプレイに瞬時に映し出します。これは「インカメラVFX」と呼ばれる、被写体とバーチャルな背景をシームレスに統合する技術です。

例えば緑道をドライブするシーンを撮影すると、木々の影がボンネットやサイドミラーに写り込む様子を、ほぼ完璧に撮影することができます。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも一部、この技術が採用されているんだとか。

時間や場所、重力にも縛られない

被写体が夕日に照らされているカットを撮影できることもバーチャルプロダクションの魅力の一つ。高輝度で高コントラストのLEDライトが、壁面だけでなく、天井にも備わっており(こちらもカメラ位置と連動)、光の映り込みを表現できます。

さすがに本物の太陽光と比較するとその明るさは劣りますが、リアリティの精度は変わりません。なぜならリアルな景色もカメラで撮影するから。カメラの感度で拾えないものは映像作品に反映することはできません。バーチャルプロダクションは、カメラの感度が拾える範囲での太陽光を超高精度でディスプレイに出力し、それを背景としてまたカメラで撮影します。つまり、その結果として出来上がる映像作品は、本物の太陽光と遜色のない仕上がりになるんです(筆者は難しい説明を受け、そう理解しました)。

マジックアワーも永遠に続く

さらに現実と見紛う3DCGに、現実ではまず不可能なことを加えることもできます。渋谷のスペイン坂に無数のスーパーボールを転がしてみたり、太陽が沈む瞬間の美しさのなか、何テイクも撮影を重ねることが叶うのです。

「清澄白河BASE」では、3DCGのアセットライブラリも用意していて、それらを使って撮影することもできるそう。仙台空港の3DCGなんてのもありました。コロナ禍で国際線がストップしたときを狙って撮影したと言います。完全CGのデータもあり、宇宙や異次元空間を目の前に再現することも可能!

デジタルとアナログで作り上げる第三の撮影手段

ソニーPCL株式会社 クリエイティブ部門 小林 大輔氏

バーチャルプロダクションは撮影や合成のDX化を進める一方で、撮影時の照明や美術、撮影技術といった人の手によるクリエイティブをとても大切にしており、アナログに回帰している側面も持ち合わせています。「人の手が加わっていることが重要。現場のスタッフも“変化”を受け入れやすいのでは?」と、小林さんは話します。

「リアルで撮るか、グリーンバックで撮るか、バーチャルプロダクションで撮るか。撮影手段が増えれば、これまでの想像を超えるクリエイティブが生まれるはず。新たな技術者も出てくるでしょうし、これまで以上に映像制作の自由度があがるようになると思います」

クリエイターとクリエイターが出会い、感動を生み出す場所

清澄白河BASE

現在「清澄白河BASE」のバーチャルプロダクションスタジオは毎日フル稼働。撮影目的の利用だけでなく、新しい表現手法を可能にする技術の実験にも利用されています。つまりは映像作品以外のクリエイティブにも貢献しているということ。「清澄白河BASE」はクリエイターとクリエイターが出会い、感動を生み出す拠点として機能しています。取材に訪れた日もスケジュールがギッチリだった模様。「バーチャルプロダクションが作り出す3DCG空間を、もう少し長く体験したかった〜」と後ろ髪引かれる思いで現場を後にしました(笑)。


写真/伏見早織 文/妹尾龍都

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