特集・連載
「糸視点」でみる、オーラリーのニットに対するハンパない熱量とは
オーラリーのニット入門 デビューは2015年。わずか6年前のことです。しかしイイものを長く!と願う誠実な服好きにとって、オーラリーはすでに“ファッション”ではなく、長い歴史を持つ名門と同様に“定番”ブランドとしてカテゴライズされているのではないでしょうか。ロゴをデカデカと配してネームバリューをゴリ押すわけでも、奇抜なデザインで目を引くわけでもない。むしろシャツもニットもパンツもアウターも、一貫して装飾性は控えめで、パッと見はごくベーシック。なのに不思議と見た瞬間に“なんかイイ”と直感してしまう……。その秘密は、素材や生地の段階からスペシャリストたちと二人三脚で創り出す、という物作りのアプローチに隠されていました。ここではそのプロセスが色濃く反映されているニットを教科書代わりに、作り手自らに“なんかイイの向こう側”を紐解いていただきました。 この記事は特集・連載「オーラリーのニット入門」#01です。
オーラリーのニット読本【 糸視点 】
ニットと聞くと条件反射的に、まず“編み”を注視しがち。ですが、オーラリーのニットはそれより遥か前の、“糸を紡績する”段階からハンパない熱量が注ぎ込まれています。
独白したのはこの人
オーラリー デザイナー 岩井良太さん
1983年兵庫県出身。国内のさまざまなブランドでデザイナーを務め、2015年にオーラリーをスタート。原料の選定や糸の紡績段階から注力する物作りで世界中から注目の的に。
作り手のかく語りき
糸作りは理想とするニット作りの出発点
オーラリーの物作りは、各分野のスペシャリストたちとの共同作業。例えばニットを作るときは、まずニッター(※①)さんを訪ね、時に糸の紡績屋(※②)さんも交えて、自分が思い描いているニットの概要を説明します。
それから意見交換しつつ、そのニットを作るためにはどんな生地が適しているのか→その生地を作るためにはどんな糸がベストなのか→その糸を作るためにはどんな原料が必要なのか……と逆算。そう考えると、実は“糸作り”がニット作りの最初の関門かもしれません。
この流れで完成させた製品のうち、とくに思い入れが深いのがベビーカシミヤニットでしょうか。2017年から展開している定番品ですが、当時うちにはなかったようなカシミヤニットに挑戦したいと思い、ある紡績屋さんに相談。
すると、こんなに糸に熱い若者は珍しい!と感激してくださって(苦笑)、モンゴルにあるカシミヤの紡績工場を紹介していただき、一緒に現地を視察させてもらえることに。
さらにそこでベビーカシミヤを飼育している遊牧民の人たちも紹介してくださって、ゲルにも招いていただけることになったんです。
カシミヤ山羊を飼育する遊牧民を訪問した
ベビーカシミヤは極めて生産量が少ないうえに、そのほとんどは世界的な企業が契約し、新参ブランドがパッと買えるような代物ではありませんでした。しかし直接顔を合わせて信頼してもらったおかげで、とてもありがたいことに毎年オーラリー用に確保してもらえることになったんです。
こうしてたぐり寄せたベビーカシミヤは本当に素晴らしい風合いで、それをそのままニットに落とし込もうと、撚り方にも番手にも(※③)ヒネリを加えずニット糸に紡績。
もちろん仕上げ加工にはこだわっていますが。狙い通り素朴なのに艶やかで、肌触りも驚くほど柔らかいニットに仕上がりました。
どういう人たちが、どういう風土で、どんなふうに動物を飼い、どう刈り取っているのか……。オーラリーのニットは、そうした背景まで想像して、熱を込めて紡いだ糸で編み立てられているんです。(岩井さん)
※①ニッター/ニットの編み立て業者のこと。ニッターによって得意とするニットが異なるため、オーラリーでは製作するニットに合わせてニッターも厳選。
※②紡績屋/糸を紡績するスペシャリスト。原料や紡績方法をアドバイスされることも多いとか。
※③撚り方にも番手にも/同じ原料でも強く撚るか弱く撚るかで、糸の性質は大きく異なる。また番手とは糸の太さを表す単位で、数値が高いほど糸は細くなる。
「モンゴルのゲルに泊まって手繰り寄せた運命の糸です」ー岩井さん
AURALEE[オーラリー]
ベビーカシミヤニット
外モンゴルで育った生後6か月未満のカシミヤ山羊の毛だけを使用した、至高のニットポロ。「加工では出せない原料そのものの柔らかさやヌメリ感、光沢感などをそのままニットに閉じ込めるため未染色のまま仕上げました。毎日着たくなる一着です」。6万3800円。
ベビーカシミヤ
未染色だからこそ唯一無二の色合いに
「なんとなく化繊を使いたくなくてウール芯にしてみました」ー岩井さん
AURALEE[オーラリー]
ブラッシュド スーパーキッドモヘヤ ニット
“モヘヤ=チクチク”という既成概念を覆すために岩井さんが考案したのが、ウールの芯糸に甘撚りに紡績した南アフリカ産スーパーキッドモヘヤ糸を巻き付け、起毛仕上げを施すという前代未聞!?の手法。
「一般的に芯糸には化繊を使うケースが多いのですが、なんとなくギラギラした感じを出したくなくて、天然素材のみで構成したいなと」。おかげでストレスを一切感じさせない着心地に。「モヘヤニットならではの光沢感や毛足の長さなどはしっかりとキープしながら、軽くてチクチクとも無縁の、優しいニットに編み立てられました」。3万9600円。
キッドモヘヤ×ウール
モヘヤ特有の光沢感は残しつつチクチクを脱却
「編み柄をあえてぼかすにはベビーアルパカが必然でした」ー岩井さん
AURALEE[オーラリー]
ウール ベビーアルパカ ネップド ケーブル ニット
「凹凸がクッキリしたクラシカルなケーブルニットではなく、もう少し色気のあるケーブルニットを作りたくて」と、岩井さんはウールにベビーアルパカを混紡。「しなやかな素材を掛け合わせることで、狙い通り編み地がボヤけて柔和な印象に仕上がりました」。
またネップの出し方にもこだわり抜いたそうで、「ニッターさんにネップの出方や形状、色などを何度もやり直してもらった結果、わざとらしくないネップ感を表現できたと思います。ここまで太くて存在感のあるウールネップを入れられるニッターさんは、ほんとに希少な存在ですね」。4万8400円。
ウール×ベビーアルパカ
自然なネップ感も実力派ニッターの為せる業
※表示価格は税込み
[ビギン2021年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。