特集・連載
その美味しさを100%引き出す! カバーは手帳の“食器”である【文房具グルメ vol.18】
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#18です。
本にブックカバーがあるように、手帳には手帳カバーというものがある。
手帳にはもともとカバーがついているし、あえて別で用意するというのは屋上屋を架すようなものでは?と思われる方もいるかもしれない。だが手帳とはえてして、中身のフォーマットで選ぶとカバーが好みでなく、カバーで選ぶと中身が目的に合わない、なんてことが起こりがちなもの。
中身さえ自分に合っていればカバーは何でもいいだろうと思うことなかれ。かの北大路魯山人も「食器は料理のきもの」という言葉を残しているように、カバーは手帳にとっての器である。同じ料理でも盛る器によって全体の印象が変わり、それによって感じる美味しさまで変わってしまうように、手帳の「美味しさ」を余すところなく引き出すことを目指すなら、中身だけではなくカバーにも大いにこだわりたいところだ。
そんなことを考えながら手にしたのが、現在私が愛用しているSIWAの手帳カバーである。
SIWAの漢字表記は「紙和」。山梨県の和紙メーカー、大直が独自に立ち上げたブランドで、伝統の和紙漉きの製法と、ポリオレフィン繊維やポリエステル繊維という新しい素材を掛け合わせて作った新しい紙であるナオロンを用いたプロダクトが幅広く展開されている。
ナオロンは一見すると和紙のようだが、一般的な紙と違って水濡れに強く、破れにくいのが大きな特徴となっている。強度がありながらも軽く、また手にすると肌触りが柔らかで気持ちよく、しなやかさがあって風合いもいい。革ほど重厚ではなく、樹脂製品ほどカジュアルでもなく、普通の紙よりも丈夫で長く使えるという絶妙なバランス。大人が普段使いする身の回り品には本当にぴったりの素材だ。
SIWAの定番シリーズには、この素材の持ち味をそのまま活かした無地のプロダクトがそろっているが、今回の手帳カバーはあえて定番の無地ではなく、柚木沙弥郎コレクションの型染めがあしらわれたものを選んでみた。
柚木沙弥郎は日本を代表する染色家で、民芸の流れをくむ作品で知られている。この方が生み出す柄は、とってもシンプルで素朴なのに、ずっと眺めていても不思議と飽きのこない豊かさを含んでおり、毎日手にする手帳の器とするのに、これ以上相応しいものはないと思ったのだ。
その狙い通り、カバーを替えてから毎晩、寝る前に手帳を開く時間がいっそう楽しみなものとなった。それにSIWAの手帳カバーは、開きを押さえるゴムバンドや、ちょっとした収納ポケットもついていて、使い勝手も良好。中身の手帳が1年で入れ替わっても、カバーは引き続き長く使うものなので、汚れが目立ってきたら手洗いすることができるというのもありがたい。
手帳の中身は毎年コレ!と決めている人も、料理と器の掛け合わせのように、気分によってカバーを替えてみることで、手帳の新たな楽しみが広がるかもしれない。
SIWA 柚木沙弥郎 手帳カバー B6
4500円
https://siwa.jp/items/yunoki/yunoki_notecover_b6.html
※表示価格は税抜き
ヨシムラマリ
神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。