wook vol.7

文房具グルメ

システム手帳がここ最近、ちょっとしたブームらしい。

手帳はかつて、ビジネスマン必携の仕事道具だった。パソコンもスマートフォンもない時代において、手帳はスケジュール管理、顧客管理、案件管理といったビジネスの中心的な役割を担ってきた。なかでもシステム手帳は自分にとって必要な機能を持つリフィルを取捨選択して自由に組み合わせられるとあって、1980年代~90年代には一大ブームを巻き起こした。

しかし、それも今は昔。テクノロジーの進化に伴い、仕事道具もデジタル化。紙の手帳の存在意義も失われて、システム手帳なんてもはや風前の灯火……かと思いきや、これが意外とそうでもないようだ。だがひと口にブーム再燃といっても、その内実は以前と違っているように感じる。

たとえるなら、かつてのシステム手帳は「おかずや小鉢が選べる食堂の定食」だ。ガッツリ食べておなかを満たし、日々働くためのエネルギーを補給する。体を元気に動かすための基礎になる食事だ。それに対して今のシステム手帳からは、「ちょっと良いホテルのビュッフェ」という印象を受ける。こちらは単純に腹を満たすためというよりも、目や舌を楽しませ、雰囲気なども含めて、五感全体で味わうちょっとした贅沢である。

かつてのシステム手帳が担っていた「日々の食事」的な部分は、PCやスマートフォンですでに事足りているのだ。休日にお気に入りの服を着てホテルまで足を運び、ビュッフェの入り口でピカピカに磨き上げられた白いお皿を受け取る。ずらりと並んだ料理の前に立って、「さぁ、どうしよう」としばし悩む。食べたいものを食べたいだけ取るのもいいけれど、ここはひとつ、お皿に盛り合わせたときの彩りやバランスも考えて……という、「選べることのワクワク感」を凝縮したのが、今のシステム手帳ではないだろうか。

そんなプチ贅沢を求める今の私の気分に最高にマッチしたのが、PLOTTERのミニ5穴サイズのシステム手帳である。仕事のスケジュール管理などはすっかりデジタル化してしまったため、PLOTTERのシステム手帳は主に思いつきなどを書き残すためのメモ帳として使用している。その目的には名刺よりひとまわり大きいくらいの、この「ミニ5」サイズのリフィルがじつにちょうどいい。筆記面が狭すぎず広すぎず、かつ手に持ったときのおさまり具合も絶妙である。

表紙にリングを付けただけ、というミニマルな佇まいも、あたかも「システム手帳のミニチュア」のようなかわいらしさだ。それでいて、素材には上質なレザーや真鍮製の留め金を惜しげもなく使用していて、大人として所有する喜びもしっかりと感じさせてくれる。「いつでもどこにでも持ち歩きたい気持ちになる」ということも、メモ帳としては大切な機能のひとつである。

システム手帳の醍醐味は言わずもがな、ビュッフェのように多種多様なリフィルから自分の目的と好みに合うものを選ぶことだが、メモとして使うだけではリフィルを選ぶ楽しさも半減では?と思われるかもしれない。だが近年の再ブームでは、リフィルも機能面だけではなく、装飾性や紙質などの感覚的な部分にまでこだわったものが増えている。

私は基本的に無地のリフィルしか使わないが、各社からさまざまな種類の紙を使用したものが販売されており、選択に迷うほどだ。だがノートと違って1冊まるまる使い切らなくとも、いろいろ試せるのがシステム手帳の良いところ。その日の気分や使う筆記具に合わせて中身を入れ替えれば、しっかりビュッフェ気分が味わえる。

ちなみに、記入済みのリフィルはある程度溜まったところでスクラップブックに貼り替えるようにしている。普通のメモ帳だと書いたものをあまり読み返すことがなかったのだが、「中身を入れ替える」というひと手間があることで、自然に見返す流れが生じるのもシステム手帳のおもしろいところかもしれない。

……などと、いかにも理屈っぽいことを言っているが、本音はPLOTTERがあまりにもかわいいから衝動的に購入して使い始め、使っているうちになるほどこれはいいな!と感じたことをそれらしく書いているだけである。そもそも効率だけを重視するなら、もはや文具など不要な世の中だ。使う必要があるから使うのではなく、使いたいから使う。そんなちょっとした贅沢も、今なら許されるのではないだろうか。

PLOTTER レザーバインダー ブライドル ミニ5サイズ

7500円
https://www.plotter-japan.net/SHOP/5015-M5.html

※表示価格は税抜き

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

文房具グルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!

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