アーバンリサーチ

都心からは少し距離をおいた吉祥寺という街にあって、国内はもとより世界中から足を運ぶ目利きが絶えない名店がここ、ジ・アパートメント。主宰の大橋高歩さんは、ヒップホップをはじめとした米国・東海岸のカルチャーに精通する人物で、路上で生まれるコミュニケーションや文化に深い敬意を払う、現代のストリートにおけるキーマンのひとりです。長年そんな場所を眺めてきた彼は、そこから何を見出したのか? 前後編にわたってお送りする本特集の最終章、前半は街と人との関係と、そこでのアティチュードについての話です。

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東京―ニューヨークの路上をつなぐ、店と人
「The Apartment」と「大橋高歩」

about Takayuki Ohashi & The Apartment

1979年生まれ、東京都板橋区出身。中学生の時分にヒップホップに出会い、その後ブート・キャンプ・クリックを知ったことがきっかけでニューヨークのカルチャーに傾倒する。2009年には吉祥寺にセレクトショップ「the Apartment」をオープン、熱量とバックグラウンドのあるプロダクトを取り扱う。ザ・ノース・フェイスのヴィンテージの世界的なコレクターとしても知られ、ストリートヘッズから企業まで、その造詣の深さを頼って彼のもとを訪ねる人が後を絶たない。今冬は恒例の行列ができる実店舗販売を行わず、オンラインで配信をしながら初売りを行う予定とのこと。詳細は、ジ・アパートメントのインスタグラム(@theapartment_tokyo)とホームページ(www.the-apartment.net)にて要確認。


「街で仕事をしたり、遊ぶ人間には、ルールよりも大事なマナーがあると思っています
−−「大人のストリート」をテーマにお送りしてきたこのシリーズですが、その最終回に大橋さんにご参加いただけてありがたいです。

大橋高歩さん(以下 大橋):ありがとうございます。よろしくお願いします。

−−単刀直入にお訊きしますが、今年、コロナショックで世相が大きく変わったなかで、ストリートやストリートファッションを取り巻くムードにも変化が起きたと感じますか?

大橋:そうですね、ストリートっていうのをどう定義づけるかにもよりますけど、大きく変わったと思います。僕らの若い頃もそうだし、今のユースたちにとってもそうだと思うんですが、クラブだったりスケートパークだったりとか、単に路上だったりとかっていうところに人が集まって、そこで人の関係性が生まれるじゃないですか? それが絶たれちゃって、一度リセットされてしまったというか。

−−一番根源的な意味での“ストリート”が機能しなくなってしまったワケですもんね。

大橋:それでSNSにみんな移行しようとしたんだけど、そういうところに移行しきれない部分が出てきていて。ニューヨークとかを見ていると、それでチャリティとか、BLM(=Black Lives Matter)のああいう動きとかにみんなの目が向くようになった気がします。コミュニティのつながりみたいなものが、物理的なものから気持ちでのつながりに移行したな、って。直接コロナが原因で、というよりはたまたま同時期だったんだと思うんですけど。

−−それに伴うファッションの動きでは、気づかれたところはありましたか?

大橋:格好いいブランドとかはみんな、BLMの時にチャリティのTシャツを作ったりとかしていたんですけど、ああいうのはすごくストリート的だなと思いました。今はもう、アパレルの業界とかもみんな少しずつ慣れてきていて、このまま行く感じでやり方を模索してる気がするんですが、(コロナ禍の)入口の頃とかは本当に全部が終わっちゃうんじゃないかってムードがありましたよね。でも、そうなった時に「どうせダメになるならお金とかじゃない、もっと大事なところに目を向けよう」とかって考える人たちも出てきて。そのタイミングでみんな、どこか振るいにかけられたような気がしています。“この人は間違いない”ってなったり、逆にめくれて(バレて)叩かれたり。

 

「クロックワークジュウジュツ」のロングスリーブTシャツ。ニューヨーク・ブロードウェイにある柔術道場が手がけるアパレルライン。このロンTのグラフィックはアーティストのマーク・パトリック・ハリントンがコラージュしながら制作したもので、プリントはルックスタジオが手掛けている。「彼らはTシャツを作って、その売り上げでホームレスの人たちのために炊き出しをしたり、コミュニティのための活動も行っていて。フッドに還元する格好いい人たちです」(大橋)

 

−−そういう状況を売名に利用しようとして、反感を買ったりする人たちもきっといたんでしょうね。

大橋:そうですね。少し話がズレちゃうかもしれませんけど、ストリートってすごくジャッジされる場所だなと自分は思っていて。

−−ジャッジですか?

大橋:はい。洋服にしても音楽にしても、街で遊んでる若者たちにしても。それこそ、そこには大人のストリートもあると思います。それは不良かどうかとか、そういう話ではなくて、街で商店を営むこともひとつのストリートビジネスだと思うんですね。で、例えば大手の会社とか、枠組みがしっかりしてる組織だったら何よりもルールが尊重されると思うんですよ。お金のルールだったりとか法律だったりとか。でもそうじゃないストリート、街で仕事をしてる人間とか、街で遊んでる人間にはそれよりも大事なマナーみたいなものがあるなってすごく感じていて、ずっとそこにい続けるためにはそのストリートマナーが備わってないといけないと思うんです。みんなが普段から強く意識してるわけではないと思うけど、何かがあった時に周りからジャッジされるのがストリートなのかな、って。

−−その状況下での個々の立ち居振る舞いや言動のアリ・ナシにみんなが敏感になるということですよね?

大橋:そうですね。その人がどういうことを大事にしてるのかを周りが見ていて、常にそれがジャッジされ得るのがストリートなんだと思います。こういう状況になってくると、いつも以上にその人の本質がすごく見えてくるんです。それで売り上げとかに差が出るのかはわからないけど、プロップス(「評価・支持」などの意)の差には確実になってるのは感じます。

−−依然シリアスな状況が続いていますけどこういう大変な局面を乗り越えたら、’90年代に差し掛かる頃のニューヨークのようにまた街は活気や面白さを取り戻してくれるものでしょうか?

大橋:う〜ん……。東京も似てるんですけど、ニューヨークの問題っていうのは土地の値段、家賃の高さだと思うんです。家賃が高くなるとローカルビジネスがどんどん死んでいっちゃう。本来、そのローカルビジネスから面白いことが生まれるのがニューヨークだったはずなんですけど、ニューヨークとかニュージャージーのスモールビジネスを営んでる店舗っていうのがこのコロナ禍で1/3くらい潰れちゃうとかって言われていて……。そのあとに家賃が下がれば、そういう意味での復興はあるのかなとは思うんですけど、そこらへんはすごく難しい問題で。自分が何かを言える立場ではないけど、コロナ移行、吉祥寺でも何十年も続いてた老舗のお店がいっぱい潰れちゃったんです。新しくできるお店があっても、やっぱりそれはチェーンとか大手がやってるお店だったりして。あんまり楽観視はできないですよね。むしろ苦しい状況になりそうだなと思ってます。

−−それでも、アパートメントを目当てに「吉祥寺に行ってみよう!」という人が実際に増えているのは、すごく街にとっても希望のある話ですよね。そういう形で地域に還元しようという発想はもともとあったんですか?

大橋:それは最初からありました。自分はもともと洋服畑の人間ではなくて、ヒップホップを好きになったら、その中に洋服もあったという感じなんです。ヒップホップはコミュニティミュージックなので、コミュニティから上がっていってある程度成功したら、というか、自分の暮らしが大丈夫になったらそのコミュニティにフィードバックするという考え方があって。自分の中のそういうロールモデルがあったので、“吉祥寺で仕事をして吉祥寺に還元する”みたいな意識は持ってました。

 

「“このやり方だったらみんながいけるんじゃないか”っていう考え方を、伝えたいんです

−−10年以上続けて来られてここまでショップも人気になった今、それが着実にできてきているなという実感があるんじゃないですか?

大橋:いや、全然できてないなと思いますね(苦笑)。本当はうちの店を目的に来てくれる人が吉祥寺を回ってくれて、他の店にもお金を落としてくれるっていうのが僕ら的には理想なんですけど、なかなかそうならなくて、難しいなと。そうじゃない貢献の仕方もあるのかなと思って、最近は街の会合に参加したりとかコミュニティラジオに出たりもしています。

 

Riverside Reading ClubのTシャツ。ストリートカルチャーと古本を愛するikm(イクマ)さんとLil Mercy(リル・マーシー)さんらによって構成される、読書家集団によるプロダクト。リル・マーシーさんは大橋さんの10代からの親友で、尖ったヒップホップやハードコアパンクを発信し続ける音楽レーベル、WDサウンズを運営している。「昔から彼らはクラブのバーカンでずっと本を読んでいたりとかって言うことをしていて、個人的にもすごく面白いと思っている人たちです」(大橋)。
 

−−入荷日に行列ができたり、オリジナルの商品がすぐに完売したり、ここまで支持されるようになれば次は媒体露出を制限したり、商品の争奪戦を煽ったりすることで次のステージに上がろうという戦略がファッションシーンにはあると思いますが、大橋さんがそういうことを積極的にしないのはやっぱりフッドに還元したいという意識が強いからですか?

大橋:それもあります。ただ、確かに自分の考え方ってファッション業界という中で見たらちょっとズレてるなとは思うんですけど、それが自分の中では大事なことなんです。それがいろんなことの解決策になり得るような気がすごくしていて。それこそ、ストリートファッションが好きな人たちが大人になった時のことなんかもひっくるめて、この10年店をやってきた中で自分なりの答えが見つかって。だから、物を売りたいっていうよりも自分が思った「このやり方だったらみんながいけるんじゃないか」っていう考え方を、やっぱり伝えたいんです。

−−ファッション業界に対して違和感を覚えることはありますか?

大橋:それはあります。自分は30歳まで洋服と関係のない世界にいたんですが、10代からずっと音楽が好きでクラブで遊んだりしていて、20歳になるくらいから周りが渋谷とか原宿の服屋で働き始めて、そこに遊びに行くようになったんです。だけど、洋服屋で働いてる人たちってみんなある程度の年齢までで辞めて次のステップへ、となるんですよ。店で販売の経験を積んでスキルを身につけたけど、20代後半でドロップアウトして違う業種に行くっていうように。自分がそういう場所にいたわけじゃないんですけど、そんなふうに経験がそこで途絶えてしまうのが歯がゆくて。みんなそれぞれお客さんも付いていたりするのに、なんである程度になったら若い人たちにバトンタッチしないといけないんだろうなって。もちろん若い才能を、っていうのもわかるんですけど。会社とかブランドとして考えたらそれでよくても、一人の人生として考えたらそれってどうなのかな……って思って。洋服だけじゃなくて、音楽も途中でやめちゃうとか、スケーターも途中でもうそろそろスケボーはやめて……とか。なんでそんなことをする必要があるのかな、変な社会だなっていうのはずっと思ってました。

−−確かに、「もう俺もいい歳だし」とかっていうフレーズはよく耳にする気がします。

大橋:決定的だったのはニューエラですね。自分はニューエラの帽子をずっとかぶってるんですけど、20代後半になると「お前まだニューエラかぶってんの?」みたいに言われることが増えてくるんですよ。それで、みんなそういう格好をやめて、もっと落ち着いたファッションに……となってしまって。もちろんそれはそれで格好よさがあると思いますけど、なんでそうなるのかな、っていうのがすごく不思議で。

 

「自分がやるべきことをやって、自分が着るべきものを着て、自分の場所にいるのがすごく大事

−−きっと何かの抑圧の結果なんでしょうね。

大橋:人それぞれ理由はあるでしょうし、趣味嗜好が変わることももちろんあるとは思いますよ。でも、例えばニューヨークに行くと、20歳くらいの若者がヤンキースの帽子をかぶってノース・フェイスを着てるのを見かけるんですけど、僕より5個も10個も年上のOG(スラングで「Original Gangsta=元祖・先輩」などの意)の人もまったくそれと同じ格好をしてたりするんです。そういう光景を見たときに、自分は若い人のほうが格好いい、とは別に思わなくて。むしろ、それをずっと着続けたOGの人に、若い人にはない格好よさがあるなと思ったんです。僕はいわゆるストリートブランドみたいなものをあまり着たことがなくて、それよりはナショナルブランドっていうのかな、例えばティンバーランドとかノース・フェイスとか、そういうファッションに向けて作られたものじゃないブランドばっかり昔から着てたんです。自分の中ではやっぱりただ消費していくファッションみたいなものが虚しく感じちゃって。

−−トレンドは加熱しやすい反面、いつか廃れますもんね。

大橋:“今これがイケてる、だからそれを消費する”みたいな刹那的な部分もファッションの一個の魅力として、すごくわかるんですけどね。自分はそんなにお金もなかったですし、一生懸命働いて仕事して、そのお金で買ったジャケットがこの冬は輝いてるけど次の冬はもう着れないとかっていうのが嫌で。今も自分で商売をやる以上、お客さんにその思いをさせたくないっていうのがすごくあるんです。頑張って仕事してうちで洋服を買ってくれたのに、来年それが着られないっていうのはどうしても納得がいかなくて。だから、自分は若い頃からそうじゃない服というか、タイムレスなものがすごく好きだったんですよね。

−−確かに、努力して得たものが色あせてしまう感覚ってなんとも言えないもの悲しさがありますよね。

大橋:自分が20代半ばくらいの頃、ヨーロッパブランドとかにみんなが流れた時期があって、それこそヒップホップが好きな人とかもその影響で細身になったりして。その時も自分はそっちには行けなくて、「まだそんな格好してんの?」みたいになってたと思うんですよ。ずっとティンバーランドのイモみたいなブーツ履いたりしてたから(笑)。でも、そこからしばらく経ったらそれはそれでフレッシュに見えてきて。それは、やっぱりモノ自体が本物だったからだと思うんです。

−−そうやって一時は離れたけれど、再評価が進んで「やっぱりコレだよな」、みたいに言って戻ってくる人もよく見かけますけど、それは大橋さんにどう映りますか?

大橋:う〜ん……。自分は、自分が好きなものとは違う格好とか、そういう人に対して別に何も感じない、と言ったら変なんですけど、そういう気持ちなんです。それもストリートマナーだと思うんですけど、まず周りに構わないっていうのがすごく大事だなと思っていて。自分がやるべきことをやって、自分が着るべきものを着て、自分の場所にいるのがすごく大事だなって。だから、僕は人の遊ぶ場所に遊びに行くのもあんまり好きじゃないし、人が着てる洋服に対しても何も思わないです。例えばネクタイをしてスーツを着て会社に行くサラリーマンの人を見ても、寅壱のニッカを穿いて現場に行く人を見ても、それはそれぞれそういう世界の人たちなんだなと思うだけ。ファッションでもスワッギーな洋服、エッジーな洋服っていうのがあるけど、それに対してはむしろ自分にはない部分だから面白いなと思っていて。モードの洋服とかも自分は着ないですけど、すごいなぁ、と思って見ています。

−−そういう寛容さが、大人がストリートと良好な関係でいるために重要なのかも知れませんね。

大橋:そうだと思いますよ。僕は自分自身が子供っぽい性格をしていて、昔から好きなものも変わらないし、たぶん中学生くらいから思考回路がそのままで大人になってる気がするんですけど、だから周りのみんながそこではないどこかに卒業して行ってしまうのが寂しくて。もちろん“ストリート”っていうものの中に、例えばイリーガルなこととかバイオレンスとかっていう要素があるのも事実で、今僕には子供がいるからそういうことには絶対タッチしないようにしてるんですけど、それはあくまでストリートに付随する一側面で、自分が賢くなったら避けられること。そうすれば、それこそ大人になってもスケートボードをしたり、子供と一緒にクラブに行って音楽を聴いたりとか、そういうストリートの楽しい部分だけを見ていられるじゃないですか。事実、僕は洋服も高校生の頃より今のほうが好きですし、音楽も今のほうが全然好きなんですよ。音楽って、積み重ねでつながって行くから。

−−知れば知るほど楽しくなりますよね。

大橋:そうですよね。だから、今が本当にすごく楽しいです。こういう生き方とか考え方がお客さんにも届けられたらな、って。僕らの売ってる洋服は自分が高校生の頃から好きなものばっかりで、高校生でも買えるものを今でも着てるだけ。とりわけお金をかけなくても好きな音楽を聴いて、好きな格好をしていられる。大人のストリートライフって言ったら変ですけど、街で暮らす生き方って言うんですかね。その中に洋服っていうのがあってもいいなって。別に僕は洋服屋じゃなくてもよかったんですけど、街で楽しく生きる方法を、洋服を通して提案できたらいいなって。

>>>後編へつづく


【SHOP DATA】

The Apartment/ジ・アパートメント

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-28-3ジャルダン吉祥寺106号

TEL:0422-27-5519

営業時間:12:00~20:00

定休日:なし

www.the-apartment.net


写真/宮前一喜 文/今野 壘

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