服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]
【小林学の服飾小噺】「日本人は靴を磨きすぎる」といったパリジャンはどんな風に靴をメンテナンスしたのか?
服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪
オーベルジュ デザイナー
小林 学さん
服飾漫談師
1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!
《フランス人の靴磨きから考える服飾感》
「クツはズボンの裾で拭くくらいがちょうどイイと教えられた」
エルマンさんは革靴を磨く際、保革クリームすら使わず、ズボンでゴシゴシするだけだったそう。
最近あるショップの方と雑談してて驚いたんですけど、オールデンのコードバンのVチップが、ついに20万円を超えたんだそう! ただ彼曰く、それでも“買うなら今のうち”とのこと。なぜなら今が底値で、おそらく今後さらに価格が上昇してしまうからだとか。お洒落は足元から。
Vチップに限らず、名靴は物価高な今だからこそなる早で入手して、こまめにメンテして生涯添い遂げるべし! ……な〜んてつい考えてしまったんですけど、お洒落の観点でいうと、もしかするとこういう“いい物を後生大事に扱う”というマインドこそ、実は落とし穴だったりするのかも。
というのも遡ること約30年前。南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム&カジュアルウェアメーカーに勤めていたとき、生粋のパリジャンだった上司のエルマンさんに言われたんです。日本人は靴を磨きすぎるって。
そして彼は、君にパリジャンの靴の磨き方を教えてあげるよと言ってニヤッと笑い、おもむろに靴を履いたまま立ちあがり、足を反対の脚のズボンの裾でゴシゴシと擦って見せたんです。これで十分だろ?みたいな感じで(苦笑)。
正直日本人の感覚としては、“磨いた”なんて到底思えないんだけど、このパリジャン流メンテナンスが施された靴は、確かになんとも言えずかっこよかった。というかまるで彼の一部のように馴染んで見えたんですよね。
長年メンテを啓蒙し、エイジングという言葉を広めたビギンさんでこれを言うのは忍びないんですが(苦笑)、要はどんな名靴でも、“靴が主役になるのはNG”なのかなって。彼らにとって主役はあくまで自分。ブランドの力を借りるなんてもってのほかなんです。
“有名どこの靴を履いてる自分がお洒落”なんじゃなく、“お洒落な自分がたまたまこの靴を選んだだけ”。だからシワの奥にちょっと埃が残ってるくらいがちょうどいいでしょと。
もちろんピカらせなきゃいけない場面もあるし、“TPOに応じて磨く”のが模範解答だと思います。ただ本場パリジャンの洒落感に触れた僕は、あれ以来不必要に鏡面磨きすることもないし、シワの奥深くまで磨いてホコリを取ることもなくなりました。カジュアル派にはそれくらいがちょうどいいんです。
❶鏡面磨き
1941年に米陸軍の防寒野戦専用ギアとして登場。主に戦車搭乗員に支給されたため“タンカースジャケット”と呼ばれることに。正式名称は「ウィンター コンバット ジャケット」。
❷オールデンのVチップ
ドレスにもカジュアルにも対応するカメレオン力に秀でた超名靴。ただそれだけに、どう磨き、どう履くかで各人のお洒落度が投影される、写し鏡的役割も担う。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。